放電プラズマで、 夢の技術を実現させたい。

2013年12月26日掲載

電気エネルギーを極めて短い時間の間に放出すると、瞬間的に超高電力を発生することができます。この超高電力は、パルスパワーと呼ばれ、様々な分野へ技術応用が期待されています。大阪工業大学の見市知昭研究室は、高圧パルス放電と直流コロナ放電により発生したプラズマを活用する研究を行っており、パルスパワー工学研究室と呼ばれています。今回インタビューを受けてくださったみなさんは、1人が院生、2人が学部生という違いはありますが、それぞれに熱い思いで研究に取り組んでいます。

※2013年9月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

パルスパワーでプラズマを発生させたい!

みなさんはなぜ電気工学を志望されたのでしょうか。

藤本:我が家は父が化学系、兄が制御系、さらに祖父が薬学系と、理系が多い家系でした。さらに父親が日曜大工好きで、そうした影響も大きかったと思います。それで中学3年生の時に工業高校で電気を学ぼうと決めました。

工業高校ですと、進学より就職の方が多いのでは。

藤本:ええ、就職する卒業生が9割以上ですね。

その中で進学を選んだということは、やはりもっと深く学びたかったからでしょうか。

藤本:はい。高校で勉強していくうちにもっと専門的に学びたいという思いが出てきました。ただ、好きだったのはむしろ機械の方だったのですが(笑)、それまでの専門知識をさらに広げられるということで電気を選びました。

松實さんの場合も、ご家庭の影響が大きいとのことですね。

松實:ええ。父と兄が理系で、仕事もエンジニアでした。あとは、高校3年生の時にハイブリッドカーなどの電気を使ったエコカーが注目されていて、今後は電気工学がより必要になると思ったことも大きいですね。

高校は普通科でしたか?

松實:県立高校の普通科です。それで2年生の時に文系と理系に分かれて、私は理系クラスに行きました。当時は電気に進もうか、機械を選ぼうか、迷ったのですが、電気の方が将来の活躍のフィールドは広いかなと思い、電気に決めました。

では、田中さんの場合は、いかがでしたか。

田中:私も松實君と同じく高校2年生で理系クラスに入ったのですが、そこで出会った物理の先生の影響が大きいですね。教科書にプラズマ(※1)のことが書いてあって、その先生がいろいろと詳しく教えてくれたのです。それで俄然、プラズマに興味がわいてきました。

プラズマのどういうところに惹かれたのでしょう。

田中:高電圧をかけると空気中でプラズマが発生するということが、すごく格好いいと感じたのです。それがきっかけで物理の先生にいろいろと教わり、進学先を決めるときに大阪工業大学のパンフレットを見たらパルスパワーでプラズマを発生させる研究室があることを知り、ここに決めました。

プラズマを発生させて、水の浄化処理に取り組む

藤本さんの研究内容を教えてください。

藤本:現在、有害有機化学物質であるダイオキシン類やテトラクロロエチレンによる汚染が問題になっていますが、これらは従来の技術では水処理が非常に困難です。そこで注目されているのがヒドロキシラジカルなどの活性酸素種を用いた水処理技術です。これらの活性種が、有害有機化学物質に有効と言われています。

水の有害物質処理に、活性酸素種が有効というわけですね。

藤本:そこで、私の研究では、パルス放電プラズマ(パルス放電によって発生するプラズマ)を用いてヒドロキシラジカルなどの生成に取り組んでいます。電極間に高電圧をかけると放電プラズマが発生します。そのプラズマによって例えばガス、酸素を解離させることで反応性の強い酸素種を生成します。様々な活性種が生成しますが、その中でも最も酸化力が高いのがヒドロキシラジカルです。

実用化についてはいかがでしょう。

藤本:私が先輩から引き継いで5年になりますが、実用化にはあと10年は必要だと思います。理論的に可能であることはわかっているのですが。

研究に取り組まれていて、印象的なことはありますか。

藤本:研究には様々な分野の知識が必要ということですね。電気だけでなく、化学や熱、流体、機械などの知識が必要ですし、実用化を考えた場合、環境や法律関係など分野の違う知識も必要になってきます。このようなことを、自分で文献などを使って調べるということが印象的でした。

同じテーマに違う手法でアプローチする

松實さんはどのような研究をされていますか。

松實:直流コロナ放電でプラズマを発生させ、それによって生成した活性酸素種を用いて水を浄化する研究を行っています。私と田中君は学部4年なので、まだ本格的な研究はこれからですが、先生や先輩に教わりながら研究を始めています。

田中さんも松實さんと一緒に同じ研究をされているわけですね。

田中:はい。研究内容は、今、説明のあった藤本さんと目的もプロセスも同じなのですが、放電の方法が、藤本さんはパルスで、私たち二人は直流コロナということが違いです。

松實:直流とパルスの違いですが、直流は一定して連続的にかける放電などであるのに対し、パルスは脈なので断続的にかけることになります。方法論が違う研究をしているというわけです。

おふたりは本格的な研究はこれからということですが、これまで印象に残ったことを教えてください。

松實:研究室に入った直後、研究のデモンストレーションを先輩たちにやっていただきました。その際、インジゴカルミンというジーパンなどを染めるときに使われる青色の塗料を溶かした水に放電をあびせたところ、水の色が青から透明に脱色したんです。あれには驚きました。青いジーパン塗料が透明になったのですから。

田中:私は、藤本さんがパルスコロナ放電を用いる実験をされていたとき、高電圧で発生したプラズマを初めて見て感動しました。それまで絵や写真でしか見たことのなかった小さな光がパチパチと光っているのを見て“あっ、プラズマだ!”と。

高校の教科書で初めてプラズマというものを知って、プラズマってどんなものだろうと思い続けていたのが、ようやく実際目にすることができたわけですね。

左がプラズマ放電を発生させる装置。右が放電を発生させた状態です。

田中:蛍光灯みたいな媒体もないのに、本当に空気中に高電圧をかけるだけで光なんて発するのかと思っていたんですけど、実際に何もない空中で発光しているのを見て、感動しました。

充実している高電圧設備、でも取扱は慎重に!

実際の研究生活は、実験の繰り返しという感じでしょうか。

藤本:そうですね。実験を行って結果を検討して、また実験するという繰り返しですね。その間に文献に当たったり、理論を勉強し直したり、といった感じです。

実験室には高電圧関係の設備が充実していると思いますが、最初に見たときはいかがでしたか。

松實:いやもう、壊したらまずいな、と(笑)。

田中:今も毎回びくびくしながらやっていますよ。最初、藤本さんに“時計や電子機器を持って近づくな。壊れるぞ。”と注意もされました。

機材の扱いは大変ですよね。研究室の中での皆さんのコミュニケーションはいかがですか。

高電圧を扱うため、研究設備の取扱いは注意。先生や先輩の指示を受けながら、慎重に作業します。

松實:研究メンバーとはメールやLINEなどで研究の予定などの連絡を取り合っています。先生とは、食事会や飲み会などで交流を深めています。

田中:先生からたまに“ご飯でも食べに行こうか”という感じで声がかかることもありますね。

藤本:定期的に全員が顔を合わせるのは週間報告会ですね。これは一週間どんな研究を行ったかということを確認し合う場です。

田中:見市先生からアドバイスをいただけるんですが、そのほかにもプラズマの専門家の方もお見えになることがあって、お話を伺っています。

藤本:あと、年に2回行われるのが研究発表会です。ここでは、半年間の研究成果を1人40分くらいにまとめて発表します。

松實:発表会のあとは、反省会です。まあ、飲み会ですが(笑)。でも、ちゃんと意見やアドバイスも話し合いますよ。

研究が始まると没頭する生活に

学生生活はいかがでしょう。電気工学の研究生活というと、研究室に閉じこもりきりというイメージもあるようですが。

見市研究室室のメンバー。二列目一番左が、見市知昭准教授です。

藤本:まあ、私は研究室にこもるのが嫌いではないので(笑)。でも、確かに時間に追われるというところはありますね。

田中:4年生の初めの頃まではサークルやアルバイトとの両立もなんとかできましたが、この先は研究が本格化するので両立は難しいでしょうね。

松實:私も同意見です。研究に備えて論文を読んで勉強している間は両立も可能ですが、研究が始まると厳しいと思います。

藤本:研究にどれだけ時間が取られるかは、研究分野によっても違うし、研究室でも変わってきますから、一概には言えないでしょうが、実験をともなう研究はどうしても時間を取られてしまう傾向にあるでしょうね。

“結論ありきでまとめるな”と教わる

それでは電気工学を学んでよかったと思うことを教えてください。松實さん、いかがでしょう。

松實:家電製品などの機械に対してちょっと強くなりました。多少、調子が悪くなっても自分で直してみようとしたり。今までは“もう壊れたか、じゃあいいや”という感じでしたので。

田中さんはいかがでしょう。

田中:実際にプラズマを扱うことができたことですね。この道を志した動機そのものですが。

よほどプラズマがお好きなんですね!

田中:はい。

藤本:私の場合は、電気工学を学んだから特によかったと感じることはないですね。機械を学んでいたら機械のよさ、化学なら化学のよさがあったと思いますから。

では、工学全般ということではいかがでしょう。

藤本:考え方が変わってきたことです。先生にはよく“結論ありきでしゃべるな”と指摘されます。結論が判っていないことを、とりあえず結論が判っているみたいにきれいにまとめようとするのはよくないことですから、そうした考え方が身についてきたのはよかったですね。

生涯の研究テーマを見つけたい

それでは最後に、将来の夢や目標を教えてください。

松實:せっかくプラズマの研究ができているので、それをどのような形でもいいので、活かせる仕事に就けたらと思っています。まだ、具体的な企業名までは考えていませんが。

藤本:私は、今後の研究や就職を通じて本当に挑戦したい研究を見つけることが目標です。今の研究が自分に合わないということではないのですが、これから先、もっと幅広く経験を積んで、研究者として引退するまで続けていくようなライフワーク的なテーマを見つけたいという想いはありますね。

大学に残る道も?

藤本:いや、就職はします。たぶん研究開発職になるとは思いますが。

田中さんの目標はいかがですか。

田中:今は学会で論文を発表することが現実的な目標ですね。ただ、今研究で取り組んでいるテーマについて、先ほど“実用化には10年はかかる”という話がありましたが、何か奇跡的なことが起きて、我々の手で実用化できたら、という気持ちもあります。それこそ夢物語ですが。

夢物語だからこそ、ぜひ挑戦していただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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