vol.44 函館工業高等専門学校
2018年5月31日掲載
早いうちから専門性の高い勉強に打ち込めるのが高専の魅力ですが、特に函館工業高等専門学校はその自由な校風から、好きなテーマに伸び伸びと取り組める環境があります。今回はそんな恵まれた環境のもとで学び続けている3人にお集まりいただきました。
※2018年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
中学卒業時点で、電気工学を選んだ理由
伊藤さんが進学先として高専を選ばれたのはどうしてですか。
伊藤:中学生のとき、国語や社会などの文系科目が苦手で、数学や理科が得意だったので高専を選びました。技術の科目も好きでしたね。また、2人の兄が高専に通っていて、とても楽しそうにやっているのを見ていたという影響もありました。授業さえしっかりと受けていれば、あとは自己責任で自由に過ごせるというイメージが魅力的でした。服装も自由ですし。
電気系の学科を選んだのは。
伊藤:機械や情報といった分野は限られた人しか携われないのに対し、電気は誰にとっても絶対に必要なものという点が魅力でした。
赤坂さん、高専を選ばれた理由を聞かせてください。
赤坂:私も理系科目が得意で、文系は苦手だったからです。だから自分の得意な分野を伸ばしたいと思い、高専に興味を持ちました。きっかけは親が勧めてくれたからなのですが、調べてみたら高専は就職率が高いですし、大学に編入する道もあるし、将来の選択肢が広いということも魅力的でした。
電気系は就職率がいいですよね。
赤坂:ええ。電気を専攻しようと決めたのは、それが理由でした。
佐々木さんは、いかがですか。
佐々木:手に職をつけたほうが就職の際に有利ですし、給料も高いのではと思って、専門的な技術や知識が学べる道に進むことにしました。高専を選んだのはそれが理由です。具体的に将来の夢があったわけではないですが。
理系は得意だったんですか。
佐々木:そうですね。
電気を選んだのはなぜですか。
佐々木:私が入学した年からカリキュラムが新しくなり、先輩たちと違って入学の時点では生産システム工学科、物質工学科、社会基盤という3つの学科から選ぶというふうに変わったんです。私は生産システム工学科を選んだのですが、1・2年生で機械、電気、情報という3つの分野について学び、その中から最も得意な電気を専攻することに決めました。ただ、機械や情報を学んだ経験は、電気の研究をする際も役に立っていると感じます。
三島先生の研究室を選ばれた理由は。
佐々木:私はエネルギー系の研究をしたかったので、三島先生の研究室を選びました。
伊藤:私の場合は、太陽光パネルに興味があったということと、とても面倒見のいい先生ということで、こちらに決めました。
赤坂:確かに三島先生はとても頼りになる先生ですよね。私もそれが決め手となってこの研究室を選びました。
電気料金を抑えるための独自シミュレーション
伊藤さんの研究内容について教えてください。
伊藤:電気料金には基本料金と従量料金があり、基本料金は1年間で最もアンペア数が高い値のところで決定されます。そのため、アンペア数の最大値を下げると全体が一気に安くなる。そこで夜充電して昼に放電するというような工夫で負荷平準化を図り、アンペア数の最大値を下げることはできないかということで、バッテリーを運用して需要家と供給者が共に利益を得られるための制度を設計しています。
PCでシミュレーションするわけですね。
伊藤:そうです。函館高専と電力会社が連携して安くできないか、という想定で研究をしています。現時点では、年間100万円ぐらいの利益は出せそうな感じです。
大変だったのはどんなことですか。
伊藤:データ量が多かったことですね。3年分の電力データ、負荷データを集計しなくてはならず、その計算にかなり時間がかかりました。やっと集計が終わって先生に「できました」って見せたら「全然ダメ。やり直し」って言われたり(笑)。
函館高専をモデルに需要電力を予測する
佐々木さん、研究について教えてください。
佐々木:伊藤さんの研究の目的と同じですが、バッテリーを運用して電気料金を抑えるための研究をしています。具体的に言うと、バッテリーを運用するためには、次の日の電力需要を予測しておかないとどのタイミングで行えばいいのか分かりません。そこで、負荷平準化を実現するために需要電力の予測手法の開発を行っています。
なるほど、伊藤さんの研究と連動しているわけですね。
佐々木:伊藤さんと同じく函館高専がモデルなので、授業内容や部活時間で需要電力が変化するのが面白いです。遅い時間の部活になると体育館やグラウンドの照明でけっこう電気を使いますから。
やはり伊藤さん同様、膨大な量のデータを扱うのでしょうね。
佐々木:そうなんですよ。1分ごとのデータを1年分、集計しないといけなくて、ものすごい量になります。
印象的だったのはどんなことですか。
佐々木:兄も函館高専の卒業生なんですが、研究テーマが兄弟で同じだったと知ったときは、ちょっと驚きました(笑)。兄の後を受け継いで研究をしているわけで、それはやはり嬉しく思います。
太陽光パネルの温度上昇による出力低下を抑えるために
赤坂さんはどんな研究に取り組まれていますか。
赤坂:メガソーラー発電における太陽光パネルの温度が変化した場合の出力への影響の解析を行っています。太陽光パネルは温度が上昇すると出力が低下するのですが、パネルの隙間を大きくすると冷却効果が生まれて、出力低下を抑えられる可能性があります。その効果について、シミュレーションをしています。
それは実験でシミュレーションをしているのですか。
赤坂:はい。将来的には、学校の屋上にある太陽光パネルを使う予定ですが、現在は実験室で行っています。ドライヤーやライトなどで温度変化をつけて、データをとっています。
どんな点がやりがいですか。
赤坂:やはり一つでも成果が上がると達成感が得られますね。私はけっこうギリギリまで粘るタイプなので、追い込みで成果が上がると本当に嬉しいです。
冬は暖かく、夏は涼しい、快適な環境の中で
皆さんの研究室の特徴について教えてください。
赤坂:冷蔵庫、電子レンジ、エアコン、ポット、コーヒーメーカーなどがそろっていて、何かと便利です
伊藤:そのコーヒーメーカーが不良品で、まともにコーヒーを注げなかった、なんていうこともありましたが(笑)。
佐々木:空調設備が整っており、夏は涼しく、冬は暖かくて、年中快適です。
なるほど、北海道ですから暖房などは大事ですよね。
佐々木:教室のある場所によっては暖房があまり効かないんです。おかげで授業のないときは研究室にこもってしまうので、研究がはかどるんです。
赤坂:研究室によってはエアコンがないところもありますから、三島先生には感謝です。
研究室内のコミュニケーションはいかがですか。
佐々木:三島先生と下町先生の合同の研究室なので、他の研究室より人数が多く、いつもにぎわっていて、楽しいですよ。
伊藤:週に一度、先生方とのミーティング時間が1時間ほど設けられています。
佐々木:研究について、進捗状況や今後の展望など、話し合っています。もちろんミーティングの時間以外でも、相談は親身になって聞いてくださいますよ。
伊藤:討論の時は、同じ研究テーマの仲間が話し合います。そこに先生が加わるという感じですね。
自由だからこそ、研究成果には責任を持つ
普段はどんな生活を送られていますか。
伊藤:1限目が9時から始まって、私はだいたい20時頃まで研究をしています。
赤坂:私も20時くらいですね。
コアタイムのようなものはあるんですか?
伊藤:おおよその目安はありますが、厳しいものではありません。時間については、比較的自由にさせてもらっている感じですね。ただ、週に1回のミーティングには、ちゃんと成果を報告しないといけないわけです。
皆さん、研究以外でどんなことに取り組みましたか。
伊藤:インターンシップでFPGAの研修に参加しました。
FPGAとは?
伊藤:Field Programmable Gate Arrayという、ユーザーが自由にプログラミングを書き換えられるLSIのことです。最近、かなり知られるようになってきましたね。その技術を学ぶために、大手通信キャリアの関連会社のインターンシップに参加したわけです。
赤坂:私はインターンシップで北海道大学に行き、再生可能エネルギー導入が電力系統に与える影響についての解析を行いました。高専を卒業後、北海道大学の研究室に進もうと思っています。
佐々木さんもインターンシップに参加されていますね。
佐々木:ええ。私は北海道電力の業務を体験しました。水力発電所や変電所を見学させていただき、高所作業車にも乗ることができました。
就職に強く、企業からの期待の大きさを実感
電気工学を選んでよかったと思うのは、どんなことですか。
伊藤:家族が電気のことがわからなくて困っているときに、アドバイスを送ったり、説明できたりすると、電気を学んでいてよかったなと思います。「ちゃんと勉強しているんだね」と感心されると、やはり嬉しいです。
就職も有利ですから、親御さんはなお喜んでくださるのでは。
伊藤:そうですね。電気の知識に加え、プログラミングの知識なども学べましたから、その点は有利かなと思っています。
高専でよかったことは?
伊藤:やはり、自由という点ですね。好きな勉強に打ち込めるし、服装も自由だから、ずっとジャージでもかまわないですし。
赤坂さんはいかがでしょう。
赤坂:私は進学希望なのですが、数学など詳しく勉強できたので、編入試験や大学院入試の力になったと思います。
佐々木:私の場合は、電気の実験が好きなので、電力関係の仕事に就職できるという点が魅力ですね。電力関係では、やはり電気を学んできた人材へのニーズが高いですから。特に函館高専は求人件数が多く、就職の成功率も高いようなので、企業から強く求められていると感じます。
赤坂:同級生のほとんどが、第一志望の企業に内定しています。
伊藤:確かに様々な分野の知識を身につけられるので、就職活動の幅は広がりますね。企業からの期待も高いと感じます。
皆さんのこれからのご活躍に期待します。今日はありがとうございました。
バックナンバー
- vol.55 地球にやさしい先進的な研究で電気工学の可能性を広げたい。
- vol.54 多様な研究を通じて、電気工学の可能性に挑戦したい。
- vol.53 電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。
- vol.52 モータの研究を通じて、電気の新しい可能性を拓きたい。
- vol.51 身近なテーマの研究に打ち込み、より快適な社会づくりに貢献したい。
- vol.50 逆風の中でも志を高く持ち、研究活動に打ち込みたい。
- vol.49 技術力で地球にやさしい社会づくりに貢献できるエンジニアを目指したい。
- vol.48 太陽光発電出力予測シミュレーションなどを通じて、再生可能エネルギーの普及に貢献したい。
- vol.47 自由な研究環境の中、自分ならではの研究テーマを通じて成長したい。
- vol.46 高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。
- vol.45 幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。
- vol.44 自由な環境で研究に打ち込み、社会からの期待に応えたい。
- vol.43 "雷"の研究を通じて、快適で安心な生活を支えたい。
- vol.42 先進のモーター研究を通じて、 将来の夢を叶えたい。
- vol.41 高専で専門性を磨いて、将来の選択肢をひろげたい。
- vol.40 グローバルな視点を持ちながら、 日本の電力を発展させたい。
- vol.39 風通しのよい自由な研究室で、電気の幅広い魅力を追求したい。
- vol.38 先駆的な研究テーマで、 太陽電池をもっと進化させたい。
- vol.37 生活に身近な研究を通じて、社会のために貢献したい。
- vol.36 パワエレの専門性を武器に社会のニーズにこたえたい。
- vol.35 電磁界を応用した先進研究で 暮らしを便利にするものづくりに貢献したい。
- vol.34 パワーデバイスの先進研究で、省エネ社会を目指したい。
- vol.33 高電圧・大電流を学んで 社会に大きな貢献をしたい。
- vol.32 電気の研究を通じて交流を広げ、 日本の未来に役立ちたい。
- vol.31 風力発電の未来を、もっと広げたい。
- vol.30 電力技術で世界の エネルギー問題を解決したい。
- vol.29 超電導技術で、 未来の社会を支えたい
- vol.28 先進の技術と知識で、 これからの電力を支えたい。
- vol.27 パワエレ技術を活用して、 社会に貢献したい。
- vol.26 放電プラズマで、 夢の技術を実現させたい。
- vol.25 電力システムの研究を活かし 社会の第一線で活躍したい。
- vol.24 自分たちが開発した技術を、世の中へ出したい。
- vol.23 電力を学んで安定供給を支えたい。
- vol.22 世界中の人の生活を支える技術者になりたい。
- vol.21 電気工学で社会インフラを支えたい。
- vol.20 世界に通用するエンジニアになりたい。
- vol.19 電気工学で様々な社会問題を解決したい。
- vol.18 太陽光発電・風力発電を、普及させたい。
- vol.17 日本に新たな電力システムをつくりたい。
- vol.16 電気を上手に使う、省エネ社会を実現したい。
- vol.15 電気で土壌汚染を解決したい。 CVケーブルを守りたい。
- vol.14 電気工学で世界を舞台に活躍したい。
- vol.13 日本、そして世界の電力・エネルギー分野に貢献したい。
- vol.12 送電設備の建設にかかわりたい。電気の面白さを子供たちに伝えたい。
- vol.11 発展途上国を助けたい、 地元に貢献したい、日本の電力を支えたい。
- vol.10 生活を豊かにする製品をつくりたい。 社会インフラを支えたい。
- vol.9 電気工学で環境問題を解決したい!
- vol.8 将来の夢へ、電気工学の知識を活かしたい
- vol.7 これからの日本の電気を私たちが支えたい!
- vol.6 世界中のインフラを、システム工学で支えたい。
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- vol.1 電気工学は、社会に役立つ研究であり、手に職がつく学問だと実感しています。
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