岐阜大学
今回は岐阜大学 高野研究室を訪問しました。高野研究室はPCでのシミュレーションやAIを活用した研究に取り組んでおり、女性や留学生が多く、多様性に富んだ学生が所属しています。今回お話を伺ったのは、愛知県出身の相場萌香さんと、中国北京出身の留学生JIN RUIXINさんです。日本と中国における電気工学分野の女性の実態が垣間見える興味深いインタビューとなりました。
◆相場 萌香さん データサイエンスを活用し電気工学に貢献したい

AIに憧れて
高野研究室へ
相場萌香さんは高校時代、暗記科目が苦手だったため理系分野に進学しました。「暗記が苦手で(笑)。理科は得意だったので、高校2年生で物理コースを選びました」。大学では将来の就職を見据えて電気工学を選択。「その時点では電気に強い関心があったわけではないですが、エネルギー分野は応用が効き、就職に有利だと考えました」。その後、研究活動を進めたい思いから大学院では高野研究室へ。「研究室選択は学部3年生後期のことです。生成AIが話題になっており、AIに憧れを抱いていました。電気系でAIを学べる研究室は限られており、高野研究室がその一つでした」。さらに、企業との共同研究を通じて社会人とコミュニケーションを取れる機会も魅力だったと振り返ります。

データサイエンスを活用し
消費電力の長期予測へ
相場さんは、スマートメーターデータを用いて長期的な電力消費動向を予測する研究を行っています。目指しているのは、電力設備容量の適正化です。研究ではSTL法(※1)を用いてデータを「トレンド成分」「季節成分」「残差成分」に分解し、予測精度の向上を図っています。これを行う背景について、相場さんは次のように説明します。
「日本では、高度経済成長期に建設された配電設備の老朽化と、少子化による人口減少が課題となっています。これらを踏まえ、効率的な設備更新が求められています。私の研究では、設備容量の決定にスマートメーターデータを活用することを検討しているのですが、大量のデータをそのまま分析することは容易ではありません。そこで、データを成分に分解して利用することを考えました。」。
また、電力データ分析には膨大なプログラミングが必要であり、積極的にAIを活用しています。しかし、不具合が発生することもあり、日々修正しながら精度向上に取り組んでいます。この研究は電力会社との共同研究であり、企業が学生の研究データを求めていることに相場さんはやりがいを感じているそうです。まさしく、「電気工学分野のデータサイエンス」として注目すべき研究と言えるでしょう。
※1STL法とは、時系列を分析する手法のひとつ

女性を増やすためには
高校生へのアプローチを!
相場さんが岐阜大学に入学して驚いたのは、女性学生の少なさでした。「入学説明会は男性ばかりで、女性を必死に探してようやく一人見つけたぐらいでした。学部1年生時点では私を含めて女性は二人いましたが、2年生になるともう一人が別の学科へ進んでしまい、私だけになりました(苦笑)。高校の物理コースでは割合は少なかったものの、そこそこ女性がいましたが」と振り返ります。
そんな中、高野研究室は例外的に女性が多く、現在14名の研究室メンバーのうち5名が女性(うち3名は留学生、2名は日本人)です。「女性がいる研究室という印象があったので、研究室選びの際に自然と選択肢に入りました。同性がいることは心強いです」。
電気工学の実態について相場さんは、「女性の人数が少なすぎます」と指摘。女性学生を増やすためには、「高校生に興味を持ってもらうことが重要です。女性が関心を持ちそうな研究内容を紹介し、電気工学のイメージを広げることが重要だと思います」と具体的な提案をしてくれました。

国際的に活躍する
電気のデータ
サイエンティストになりたい
一方、相場さんは就職活動において女性研究者の企業需要が高いことを実感しているそうです。「就職活動を始めたばかりですが、企業が社内の女性割合を高めたいと考えている意向を感じます。特に電気工学では女性が少ないため、優遇されていると思います」と話します。
将来については次のように語ります。「就活を始めたばかりで進路は未定ですが、電力需要の長期予測技術を開発し、この分野に貢献したいです。海外で開催される国際会議で自分の研究内容を発表したいです」。相場さんは電気のデータサイエンティストとして、日本国内だけでなく国際的にも活躍することを目指しています。その夢に向かう姿に、大きな期待が寄せられます。
◆JIN RUIXINさん 日本の電気工学で大きな研究成果を挙げたい

日本で電力システムを
学びたい理由
中国・北京出身のJIN RUIXINさんは、高校時代に科学への興味から理系を選択し、華北電力大学で電気工学を学びました。「祖父が電気関係の仕事をしており、この道を勧められました」。4年間の学部時代を経て、2024年4月に日本へ留学。「日本は電力システムや電力機械の分野で大きな成果を挙げ、IT技術や新エネルギーの研究開発も盛んです。そうした先進的な技術や経験に触れたくて日本を選びました」と語ります。
高野研究室を選んだきっかけは、高野 浩貴准教授の論文に興味を持ったこと。「スマートグリッド関連のテーマやDR(デマンドレスポンス)、AIデータ分析に関心がありました。高野先生の論文を読んで、電力経済の分野がとても面白いと感じました」と語ります。

日本の研究室での経験
JINさんは、機械学習を活用してデータのクラスタリング分析(※2)を行い、電力業務従事者の業務記録から特徴を抽出し、業務改善に役立てる研究を進めています。研究を始めた当初は戸惑いもありましたが、「高野先生やグループの学生が親切に教えてくれたので、とても助かりました」と振り返ります。中国では研究室配属の経験がなく、日本での研究室生活が初めての体験となりました。「広い研究室や整った設備に満足しています。高野先生は定期的に学生と打ち合わせを行い、研究の進捗を確認してくださいます。飲み会も楽しいです」と笑顔で話します。
日本での生活については、「文化や景観についての見識が深まり、日本語のレベルも向上しました。日本の文化や食べ物、景観、そしてアニメが好きです」と語ります。一方、「日本語はとても難しいです。岐阜大学の外国人向け日本語クラスに参加して、さらにレベルアップを目指しています。また、最初は日本語に不慣れなこともあり、日本語の携帯電話とパソコンを使うのが大変でした」と、苦労した点も教えてくれました。
※2クラスリング分析とは、データ全体の中から似たもの同士をグループ分けする方法

中国における
電気工学分野の女性の実態
JINさんによると、中国でも電気工学を専攻する女性は少ないそうです。「私の学部では1学年に約1,000名の学生がいましたが、女性は140名程度でした。私のクラスは40名ほどで、女性は7名でした」とのことです。
その理由について、JINさんはこのように語ります。「中国の電気工学分野では、一部の職種で出張や現場作業が多いため、企業が採用する際は、業務内容を重視して選考を行うことが多いです。また、業界の歴史的背景として男性の従事者が多かったことから、従来の採用方法がそのまま続いており、結果的に女性の応募機会が限られることもあります。そのため、本分野を選ぶ女性は少ないのだと思います。なお、女性社員の応募に対しては、仕事の適性を評価し、スキルと業務内容が合うように調整しています」。日本と中国で事情は異なりますが、電気工学を学んだ女性がより社会で活躍できる環境を整えることは、両国共通の課題のようです。

今後も日本で学び続けたい
JINさんは、電気工学を学んでよかったことについて「回路、制御システム、信号処理などの核心分野を深く理解し、複雑な問題を分析して解決する能力を養えたこと」と語ります。研究を通して理論と実践を結びつける能力が培われ、エンジニアリングデザインやイノベーション能力が身についたと自信を持っています。
将来については、「現在の研究分野で成果を上げ、博士課程への進学も視野に入れています。そのためにも日本で学び続けたい」と意思を示しています。JINさんにとって、日本での留学は自身の進むべき道を見つける機会となったようです。その姿勢は、今後のさらなる成長と活躍を期待させてくれます。
私のアルバイト
相場さん:電車の定期圏内にある駅の近くの喫茶店でアルバイトをしています。バイトリーダーを務めており、シフトによっては時間帯責任者になることもあり、大変ですがやりがいを感じています。今度、バイトで貯めたお金を使って、横浜で開催される「オフィシャル髭男dism」のライブ2Daysへ友達と行く予定です。
学会やイベントが楽しい
相場さん:研究室へ入ってからは、学会発表のために遠出することが増えて、楽しいです。学会後は飲み会に行ったり、観光を楽しんだりしています。原稿をつくるのは大変ですが、発表後は大きな達成感があります。また、青森で開催された第13回目のGPAN にも参加し、他大学の学生たちとディベートを通して交流を深めました。GPANのあとは居酒屋でおいしい大間のまぐろを食べ、大金を使いました(笑)。

研究以外の日本での生活
JINさん:研究以外では、友達と一緒にオンラインゲームをしたり、国内旅行をするのが好きです。この一年で北海道、東京、大阪、京都などへ行きました。また、参加している外国人向けの日本語クラスでは、中国人やインドネシア人の友達ができて楽しくやれています。

相場さんのある一日
7:00 | 起床。お弁当を作って朝食 |
---|---|
9:00 | 家を出発 |
11:00 | 研究室。きりの良いところまで研究します |
12:00 | だいたい12時台にはお弁当を食べます |
13:00 | 眠くなるので音楽を聴きながら研究です |
17:00 | 18時前には研究室を出ます。 帰りは仲間に車で送ってもらうことがほとんど |
18:00 | 帰宅 |
24:00 | 就寝(大体1時までには就寝します) |

JINさんのある一日
8:00 | 起床 |
---|---|
9:00 | 授業(授業がないときは研究室) |
18:00 | 授業と研究終了。友達と夕食 |
19:00 | 終わらなかった課題や宿題をやります |
23:00 | アニメを1~2話観たり、TikTokを見て一日の疲れを癒します |
01:00 | 就寝 |

バックナンバー
- 雷の謎を解明して、電力インフラを守りたい。
- 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- 工学系女性が普通になる社会へ変えていきたい
- 人を驚かせるようなものづくりに挑戦したい。
- 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- ひとがより良く暮らす未来を電気工学でつくりたい。
- 結婚しても、大好きな研究をつづけたい
- ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- 電気工学で、地球環境を守りたい。