化学がサポートする電気工学④
カーボンナノチューブが拓く未来技術
現代はさまざまな人工的な新素材が、暮らしや社会、産業で利用されています。炭素原子がチューブ型に連なったカーボンナノチューブもその一つ。地球と宇宙を結ぶ軌道エレベータのケーブル材料としても期待されています。
ダイヤモンドと鉛筆の芯は、同じ炭素単体
同じ元素からなる単体で、性質の異なる物質どうしを同素体といいます。ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛)は同素体で、ダイヤモンドは美しい輝きと地球上の鉱物の中で最も硬い性質がある一方、グラファイト(黒鉛)は非常に軟らかくはがれやすい性質があります。この性質の違いは、原子の配列(結晶構造)の違いによるもので、ダイヤモンドは炭素原子が正四面体を単位とする立体的な結合をしていますが、グラファイトは正六角形状の平面的な結合をしており、各層は弱い分子間力で結合しているからです。
究極の炭素結晶、カーボンナノチューブ
近年、炭素元素からなる同素体で画期的な物質「カーボンナノチューブ」が発見されました。カーボンナノチューブとは、「カーボン=炭素」、「ナノ=ナノメートル(nm)」、「チューブ=円筒」の3つの言葉を合わせたもので、その名のとおり、炭素原子が網目のように結びついてチューブ状になっているものです。直径はナノメートル単位(10億分の1m)と非常に細いものですが、ダイヤモンドと同程度の硬さをもち、銅の1,000倍以上の電流を流すことができます。カーボンナノチューブで作ったロープは計算上、直径1cmで1,200tを吊り上げられると言われています。
地球と宇宙ステーションを結ぶエレベーターになる
このように軽くて強靱なカーボンナノチューブは、既に自動車のバンパーなどに使用されており、将来的には、静止軌道上の宇宙ステーションと地球を結ぶ軌道エレベータに使用することができるのではないかといわれています。
電気工学を発展させる、夢の化学素材
現在、カーボンナノチューブの応用が最も期待されているのは半導体分野です。長さ、太さ、らせんの状態、層の数などによって、電気的性質が導体にも半導体にもなるという驚異の性質を持っています。そのため、カーボンナノチューブを半導体分野に応用できれば、現在に比べはるかに小型・高性能な半導体になるといわれています。また、半導体以外にも燃料電池や二次電池、ディスプレイなどにも応用できる可能性があります。夢の炭素原子、カーボンナノチューブは、電気工学分野の発展に寄与する可能性を秘めた化学素材なのです。
「化学」は「電気工学」の発展を支える
身の回りを化学の視点でとらえると、新鮮な発見があります。環境問題、エネルギー問題の解決など、化学が果たすべき役割はますます重要になっています。電気工学の発展をサポートするのも化学です。