社会の役に立つ、電気の研究をしたい。

2012年5月31日掲載

一般財団法人 電力中央研究所(以下:電中研)は、電気をはじめとするエネルギーや環境に関わる研究開発を行う研究機関です。早稲田大学・大木研究室出身の布施則一さんは、博士課程を経て2010年4月に電中研へ入所しました。現在、テラヘルツ電磁波の研究に取り組んだことで得られた知見を武器に、様々な計測現場で活躍中です。東日本大震災からの復旧にも貢献しています。

プロフィール

2005年
早稲田大学 理工学研究科 修士課程修了(大木研究室)。
2005年
日本学術振興会 特別研究員。
2008年
早稲田大学 理工学術院 助手。
2009年3月
早稲田大学 理工学研究科博士課程修了(大木研究室
早稲田大学 理工学術院 助手(継続)
2010年4月
電力中央研究所入所。
現 在
電力中央研究所 電力技術研究所 高電圧・絶縁領域 主任研究員。
早稲田大学招聘研究員と情報通信研究機構特別研究員を兼務。
主として、テラヘルツなどを用いた非接触診断技術や絶縁材料評価、機器診断研究などに従事。

※2012年1月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

“電気はすべての源流”と感じて電気工学の世界へ

最初に、布施さんが電気工学分野を志望された理由を教えてください。

布施:もともと物理が好きでした。その中で電気は、可能性の大きさというものを感じました。つまり全ての源流に電気があり、その先に光など他分野が広がっているようなイメージですね。それで電気を学ぼうと思い、早稲田大学の電気・情報生命工学科へ入りました。

早稲田の大木研究室では、どのような研究をされていましたか。

布施:「ナノコンポジットによる次世代絶縁材料」の研究です。ナノコンポジットというのは、いわゆる強化プラスチックで、身近なところでは車のバンパーや飛行機の機体などに使われ始めています。従来の強化プラスチックはガラス繊維のようなものが入っていて非常に軽くて丈夫なのですが、私は次世代のものとして、もっと小さいナノ単位の粒子を入れた絶縁体についての評価を行っていました。

ナノ単位の粒子を入れることで、絶縁体にはどのような効果があるのですか。

布施:耐部分放電性(コロナ放電による劣化に耐える絶縁材料の能力)が増すことですね。また、電力機器には様々な絶縁体が使われているので、色々な応用が考えられます。最終的には機器全体の能力を上げることが期待されます。

研究室での印象深い思い出はどのようなことでしたか。

布施:一番楽しかったのは光物性評価研究をしている時でした。愛知県岡崎市にある分子科学研究所(UVSOR)に数週間泊まり込んで、高真空の精密機器を動かしながら、漏れ電流にも関係する材料欠陥がどういうメカニズムで出てくるのか解明しようと取り組みました。私が光物性の観点からアプローチしていたのに対し、他の研究機関の研究者は電気の観点からアプローチされていて、結果的にそれらを比較評論する論文も書けました。研究テーマはこれと異なりますが、現在取り組んでいるテラヘルツ電磁波研究で分子シミュレーションができたのも印象に残っています。

かなり充実した研究生活だったようですね。

布施:環境には恵まれていて、研究に没頭できました。指導教官からは常に高い次元を考えながら研究するように言われており、いくつかの計測装置を自由に使いながら取り組みました。必ずしも計測がメインだったわけではないのですが、先ほどの分子シミュレーションのように、実験結果を予測する研究も出来たのはよかったですね。

「電気学会優秀論文発表賞」も受賞されましたね。

布施:はい、一つだけですが賞をいただくことができました。当時は電気学会の委員の割り当てで3ヵ月に一回論文発表のノルマがあり、そのたびに新しいネタを出さなくてはならなくて大変でした。印象深い思い出として今も残っています。

ポスドク問題を乗り越えて、電中研で人の役に立つ研究へ

博士課程修了後、1年間大学に残って助手をされていますね。

布施:電気の研究をしていたのが、いつの間にか分子シミュレーションの分野をやるようになっていて、面白かったのでもうちょっと研究を続けたいと思ったからです。

なぜ、電中研へ入られましたか。

布施:基本的には、人の役に立つ研究がしたかったのです。大学で教育的な仕事に関わりながら研究することも大切ですが、私はより研究に特化した仕事をしたいと思って、電中研へ入りました。

電中研のことは以前からご存じでしたか。

布施:修士1年の頃から電中研とは関わっていました。電中研を定年退職されて大学に来られていた先生もいましたし、私も直接メールで電中研の人とやりとりすることもありましたので。

ポスドク問題(※)が叫ばれていますが、就職への不安はなかったのですか。

布施:すごくありました(苦笑)。だから電中研の面接は一球入魂でした。仮にここを落ちていたらどうなっていたか、想像もつきません。

大学に残るという選択肢もあったと思いますが。

布施:就職を選んだ理由は、研究を究めたかったからです。プロフェッショナルな方たちが周りにいる環境はどうだろうかと考えました。現状の就職状況ですと勇気のいる行動ではありましたが、テラヘルツ電磁波の研究が、私の強みになってくれました。

※ポスドク問題/大学の博士号取得者の就職が年々深刻化している問題。大学院進学者が増加する一方、博士号取得後の大学での雇用が増えず、企業等への就職先も少ない状況であること。

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