vol.16 一般財団法人 電力中央研究所
2012年5月31日掲載
一般財団法人 電力中央研究所(以下:電中研)は、電気をはじめとするエネルギーや環境に関わる研究開発を行う研究機関です。早稲田大学・大木研究室出身の布施則一さんは、博士課程を経て2010年4月に電中研へ入所しました。現在、テラヘルツ電磁波の研究に取り組んだことで得られた知見を武器に、様々な計測現場で活躍中です。東日本大震災からの復旧にも貢献しています。
プロフィール
※2012年1月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
“電気はすべての源流”と感じて電気工学の世界へ
最初に、布施さんが電気工学分野を志望された理由を教えてください。
布施:もともと物理が好きでした。その中で電気は、可能性の大きさというものを感じました。つまり全ての源流に電気があり、その先に光など他分野が広がっているようなイメージですね。それで電気を学ぼうと思い、早稲田大学の電気・情報生命工学科へ入りました。
早稲田の大木研究室では、どのような研究をされていましたか。
布施:「ナノコンポジットによる次世代絶縁材料」の研究です。ナノコンポジットというのは、いわゆる強化プラスチックで、身近なところでは車のバンパーや飛行機の機体などに使われ始めています。従来の強化プラスチックはガラス繊維のようなものが入っていて非常に軽くて丈夫なのですが、私は次世代のものとして、もっと小さいナノ単位の粒子を入れた絶縁体についての評価を行っていました。
ナノ単位の粒子を入れることで、絶縁体にはどのような効果があるのですか。
布施:耐部分放電性(コロナ放電による劣化に耐える絶縁材料の能力)が増すことですね。また、電力機器には様々な絶縁体が使われているので、色々な応用が考えられます。最終的には機器全体の能力を上げることが期待されます。
研究室での印象深い思い出はどのようなことでしたか。
布施:一番楽しかったのは光物性評価研究をしている時でした。愛知県岡崎市にある分子科学研究所(UVSOR)に数週間泊まり込んで、高真空の精密機器を動かしながら、漏れ電流にも関係する材料欠陥がどういうメカニズムで出てくるのか解明しようと取り組みました。私が光物性の観点からアプローチしていたのに対し、他の研究機関の研究者は電気の観点からアプローチされていて、結果的にそれらを比較評論する論文も書けました。研究テーマはこれと異なりますが、現在取り組んでいるテラヘルツ電磁波研究で分子シミュレーションができたのも印象に残っています。
かなり充実した研究生活だったようですね。
布施:環境には恵まれていて、研究に没頭できました。指導教官からは常に高い次元を考えながら研究するように言われており、いくつかの計測装置を自由に使いながら取り組みました。必ずしも計測がメインだったわけではないのですが、先ほどの分子シミュレーションのように、実験結果を予測する研究も出来たのはよかったですね。
「電気学会優秀論文発表賞」も受賞されましたね。
布施:はい、一つだけですが賞をいただくことができました。当時は電気学会の委員の割り当てで3ヵ月に一回論文発表のノルマがあり、そのたびに新しいネタを出さなくてはならなくて大変でした。印象深い思い出として今も残っています。
ポスドク問題を乗り越えて、電中研で人の役に立つ研究へ
博士課程修了後、1年間大学に残って助手をされていますね。
布施:電気の研究をしていたのが、いつの間にか分子シミュレーションの分野をやるようになっていて、面白かったのでもうちょっと研究を続けたいと思ったからです。
なぜ、電中研へ入られましたか。
布施:基本的には、人の役に立つ研究がしたかったのです。大学で教育的な仕事に関わりながら研究することも大切ですが、私はより研究に特化した仕事をしたいと思って、電中研へ入りました。
電中研のことは以前からご存じでしたか。
布施:修士1年の頃から電中研とは関わっていました。電中研を定年退職されて大学に来られていた先生もいましたし、私も直接メールで電中研の人とやりとりすることもありましたので。
ポスドク問題(※)が叫ばれていますが、就職への不安はなかったのですか。
布施:すごくありました(苦笑)。だから電中研の面接は一球入魂でした。仮にここを落ちていたらどうなっていたか、想像もつきません。
大学に残るという選択肢もあったと思いますが。
布施:就職を選んだ理由は、研究を究めたかったからです。プロフェッショナルな方たちが周りにいる環境はどうだろうかと考えました。現状の就職状況ですと勇気のいる行動ではありましたが、テラヘルツ電磁波の研究が、私の強みになってくれました。
※ポスドク問題/大学の博士号取得者の就職が年々深刻化している問題。大学院進学者が増加する一方、博士号取得後の大学での雇用が増えず、企業等への就職先も少ない状況であること。
バックナンバー
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- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
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- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
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- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
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- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
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- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
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- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
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