時間の使い方と研究

2026年3月31日掲載

髙橋 明子

2012年3月
熊本大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 複合新領域科学専攻 修了
2012年6月
岡山大学大学院自然科学研究科 助教
2020年10月
岡山大学大学院自然科学研究科 准教授
2023年10月~現在
福井大学学術研究院基盤部門 特命准教授 

研究は「時間」と向き合う営み

このコラムを読んでいる皆さん、誰しもが「時間が足りない」と感じたことがあるのではないでしょうか。かくいう私もよくそう思っています。何かをして充実した時間を過ごしているときは良いですが、何もしていないのに時間だけが過ぎている、そんなこともあるのではないでしょうか。情報があふれる昨今、限られた資源である「時間」の使い方と研究について考えてみたいと思います。

私の研究は、太陽光発電システムや電力システムの安定化、エネルギーマネジメントに関するものです。太陽光発電は、持続可能な社会を実現するうえで欠かせない存在です。しかし、その出力は天候によって大きく左右されます。晴れていれば大きく発電し、雲がかかれば急激に低下します。その変化は、数秒・数分単位でも起こります。この変動が電力システムに大きな負担を与えます。従来の電力系統は、火力発電所のように出力を調整できる電源を前提に設計されてきました。電力需要の増減に合わせて発電量を調整し、安定的に電力を供給する仕組みです。しかし、急激に変動する太陽光発電のような再生可能エネルギーが大量に導入されると、この安定性が揺らぎ、最悪の場合は停電するリスクにつながります。再生可能エネルギーの普及は持続可能な社会に必要不可欠ですが、変動する電源をどう扱い、いかに電力を安定して社会に届けるかが、研究の大きなテーマです。

太陽光発電の特徴

研究を進める中で、常に意識するのが「時間の使い方」です。時間は有限であり、どれだけ長く机に向かうかよりも、その時間を何に使うかが研究の質を左右します。研究は、知識や技術を積み重ねる作業であると同時に、時間と向き合いながら試行錯誤を重ねる営みだと感じています。

純粋な研究時間だけでは研究は進まない

研究者の一日は、多様な活動で構成されています。論文執筆や実験・シミュレーション、教育・講義運営、研究費申請書類の作成、共同研究者との連携会議など、直接的な研究活動はもちろん、研究成果とは見なされない「見えない仕事」も多くの時間を占めています。このような状況において、「何に時間を使うか」という問いは、研究テーマの選択と同じくらい重い意味を持ちます。

「研究のための時間」と聞くと、多くの場合、机に向かい思考する時間やデータを扱う時間が想起されます。しかし、研究は決して個人の内部だけで完結するものではありません。人との関わりに時間を使うことは、研究を進めるうえで不可欠な要素です。例えば、共同研究者との議論、異分野の研究者との対話、学生との何気ないやり取りの中で、研究の視点が広がったり、思いもよらぬ発想が生まれたりすることは少なくありません。研究は人との関りの中で磨かれて行くものであり、そのための時間は決して無駄ではありません。

また、海外に行くことも単なる出張や発表の機会以上の意味を持ちます。海外の研究現場に身を置くことで、自身が当たり前だと思っていた研究手法や価値観が相対化されます。エネルギーや電力システムの研究においても、国や地域によって社会背景、制度、技術導入のスピードは大きく異なります。海外の研究者や技術者と直接議論し、その土地の課題を肌で感じる経験は、机上では得られない洞察をもたらします。若い時分に築いた人間関係や経験が、数年後に研究の連携を生んだり、新しい研究の軸を形づくったりすることも珍しくありません。

学生とブレストミーティング

Environmental Sciences Laboratory,
University of Corsica Pasquale Paoli
での実験風景

研究とライフイベントのバランスを考える

研究のための時間ついて考えてみましたが、1日24時間の中には、もちろん研究だけでなく生活の時間も含まれます。出産や育児、介護、あるいは家族の事情や自身の健康といったライフイベントは、特定の誰かだけの問題ではありません。研究者である前に一人の生活者であるという事実は、性別・年齢を問わず、すべての研究者に共通しています。

ライフイベントを抱える時期には、これまで当たり前に確保できていた時間が思うように取れなくなることもあります。そのような状況に直面したとき、重要になるのは「以前と同じ働き方を維持すること」ではなく、限られた時間の中で、どの活動が本当に必要なのかを見極めることです。時間の量ではなく、時間の使い方の質が問われる局面ともいえます。

ワークライフバランスは、本来、研究と生活を対立させる考え方ではなく、むしろ、研究を長く・持続的に続けるための時間設計だと思います。ライフイベントによって研究に使える時間が変化することは自然なことであり、その中で研究との向き合い方を調整していきます。ライフイベントを経験する中で、自身の研究との向き合い方が変化することもありますが、その変化が研究の深まりや新たな視点につながることを期待したいです。

時間の使い方は未来の自分への選択

研究者の時間の使い方は、単なるスケジュール管理の問題ではありません。それは、「どのような研究者でありたいか」「研究を通じて何を社会に残したいか」という価値観の表れでもあります。研究、教育、家庭、社会的役割のバランスを取ることを求められる場面が少なくありません。その中で重要なのは、自分にとって本当に意味のある時間を選び取ることです。短期的な効率や評価だけでなく、数年後、あるいは10年後の研究の深まりにつながる時間かどうかを意識することが、研究を持続させる力になると思います。限られた時間の中で、何を選び、何を手放すのか。その選択の積み重ねが、研究の方向性だけでなく、研究者自身の姿を形づくっていくと思います。

私の研究においても、変動する再生可能エネルギーを活用するために「太陽光発電の予測精度の向上」、「蓄電と制御による電気の質づくり」、「EVなどの蓄電設備の活用」といった一つ一つの技術的改良はもちろんのこと、それらを統合して「変動性のある再生可能エネルギーを前提にした、新しい電力システムの構築」を目指しています。予測・制御・蓄電という三つの技術が統合されることで、太陽光発電は「扱いづらい電源」から「系統と調和できる電源」へと変わります。太陽光発電の普及は世界的な流れでもあり、日本もカーボンニュートラルに向けて避けられない道を歩んでいます。その中で、電力系統を安定させる制御技術はますます重要性を増すでしょう。その一助となるよう、私自身、研究を通じて社会に貢献したいと考えています。研究に集中する時間、人と議論する時間、そして生活を大切にする時間。その一つ一つを意識的に選びながら積み重ねていくことが、研究の質を高めるだけでなく、研究者としての自分自身を支えることにつながります。これからも研究と向き合いながら、私自身も時間の使い方を考えていきたいと思います。

あとがき

電力工学は「社会を支える縁の下の力持ち」のような存在です。普段は目に見えませんが、私たちの生活のすべてを支える重要なインフラです。そして持続可能な社会を実現するために、この分野は今、大きな変革期を迎えています。

・変動する電源をどう扱うか。
・新しい電力システムをどう設計するか。
・AI・蓄電池・EVをどのように組み合わせるか。など

解くべき課題はまだまだ山のようにあります。だからこそ、若い皆さんの新しい発想が必要です。ぜひ、電力工学というフィールドで、未来のエネルギーシステムづくりに挑戦してみてください。
このコラムを読まれた方の中から一人でも仲間になってくれる人が現れてくれるととても嬉しいです。

また、この記事を読んでくださった皆さんが素敵な時間を過ごすことを祈っています。


電気工学のヒトたち

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