vol.17 富士電機株式会社 武富 大輝さん
2026年2月27日掲載
開発者
武富 大輝(たけとみ ひろき)
富士電機株式会社 エネルギー事業本部 開発統括部 電源・受変電機器開発センター
変換装置開発部 電気・制御開発Gr
- 2020年
- 徳島大学 理工学部 理工学科 電気電子システムコース 卒業
- 2022年
- 徳島大学大学院 創成科学研究科 理工学専攻 電気電子システムコース 修了
- 同年
- 富士電機株式会社入社、現在に至る
はじめに
近年、世界的にカーボンニュートラルに向けた取り組みが進んでおり、その取り組みの一環として、太陽光発電や、風力発電等の再生可能エネルギーの大量導入が進んでいます。
これらの再生可能エネルギーには、気候影響による出力変動が発生するという特性を持つものもあり、電力系統の安定化のためには、この出力変動への対応が必要となります。
従来は、火力発電でその出力変動に対応していましたが、二酸化炭素の排出量削減のため、近年は、火力発電による出力調整に頼らない電力システムが必要になってきました。そこで蓄電池に余剰電力を充電し、不足時に放電する機能を担う、蓄電池を用いたシステムに注目が集まっています。

図 1.蓄電池PCSの使用用途
開発ストーリー
1. 開発の概要、仕様
前述の蓄電池を用いたシステムの中で大きな構成要素となるのは、パワーコンディショナ(以下PCS)です。
PCSとは、電気をバッテリや太陽光発電出力の「直流」から電力系統の「交流」に変換する装置であり、蓄電池を用いたシステムの需要拡大に伴い、近年注目が高まっています。
このような流れの中、新規に開発するPCSは、特に下記の仕様が求められています。
①DC1500V化
蓄電池システムは、PCSと電池を接続し、運用されます。ここで電池はPCS毎の専用品ではありません。そのため、蓄電池PCSとしては、様々な電池に対応することが求められています。
近年、電池に関して、単位容量当たりに流れる電流を減らし、低コスト化に繋げるため、高電圧化(DC1500V化)が進んできています。これに対応して、PCS側も高電圧化(DC1500V化)を行いました。
②2750kVA化
蓄電池PCS側のシステムコスト低減策としては、1台当たりの容量の増加があります。1台当たりの容量が増加すると、システムとしての蓄電池PCS及び周辺機器の並列台数を減らすことができ、より効率的な運用が可能となります。
③屋外対応
従来の富士電機PCSは、屋内仕様であるため、PCSを屋外に設置したい場合は、コンテナを用意し、空調で温度を保つ必要がありました。ただ、PCSを直接屋外に設置した場合と、コンテナ内にPCSを設置して空調で温度を保つ屋内盤構造とを比較すると、PCS自体の効率が同じでも、屋外盤構造の方は空調分の電力損失がないため、効率が1.5ポイント程度高くなります。そのため今回の開発に合わせPCSの屋外対応を進めました。
④高効率化
PCSで発生する電力損失は、可能な限り減らすことが求められています。特に今回、PCSの待機状態に着目しました。PCSは充放電しない待機状態の場合においても、装置としては動作し続けるため損失が発生します。そのため待機中の損失を減らすことがシステム全体の効率改善につながります。具体的には待機中の損失を低減する「アイドリングストップモード」を開発し、PCS待機中の損失を0.8ポイント低減させることができました。
以上の背景より、高電圧大容量対応の蓄電池PCSを開発しましたのでご紹介します。
2. INV回路構成変更
PCSはその多くがIGBTと呼ばれる素子のON/OFFのタイミングを制御することで、電気を直流から交流に変換しますが、このIGBTの回路構成にはいくつかの種類があります。
その中でも、従来はT型3レベル回路と呼ばれる回路構成を使用していました。
この回路構成は、電流が複数の素子を流れないため高効率となる一方で、1素子に直流電圧が全てかかるタイミングが存在するという欠点がありました。使用する直流電圧が低いうちは問題ありませんが、IGBTへの印加電圧が高いほど宇宙線による偶発故障リスクが高くなり、信頼性が低下するため、高電圧化には向きませんでした。
そこでINVの回路構成を変更し、I型3レベル回路と呼ばれる回路構成を使用することにしました。
I型3レベル回路は、通常運転で電流が2素子を流れるため、T型に比べ少し効率が落ちますが、直流電圧を2素子で分担できるという特徴があります。これにより、1素子当たりの印加電圧を低減し、信頼性を担保したまま、PCSの高電圧化を行いました。

図2. INV回路構成変更
3. 低騒音化対応
PCSの大容量化に伴い、絶対値として従来機種よりも損失≒発熱量が増えます。発熱に対しては、ファンによる冷却が必要となりますが、ファンが増加することで音圧レベルが増加してしまいます。
そのため、対策としてファンについている吸音カバーを改良しました。従来はファン毎についていた吸音カバーについて、吸音材を搭載したギャラリー構造のカバーを開発し、ファンによる音圧レベルを10dB低減して80dB程度にすることができました。
蓄電池システムにおいてPCSは騒音源となるため、PCSを低騒音化することで、周辺地域に対する防音対策を削減することができるようになりました。

図3. 低騒音対応ギャラリー
4. 屋外対応
屋外にPCSを置く場合には、精密機器である各制御部品を、屋外環境から保護することが必要です。一方PCSから発生する熱を外部に排出する必要があります。この対応として、図4に示すようにPCSの盤内を気密エリアと外気エリアの2つに分けることにしました。精密機器など発熱の小さい部品は熱交換器により冷却し、IGBTやリアクトルといった発熱部品は外気ファンにより冷却することで、装置の最適化を行いました。
これにより、精密機器の保護と排熱を両立し、PCSの屋外対応を実現しました。

図4. PCSの冷却構造
5. アイドリングストップ
本PCSでは、待機損失を低減するため「アイドリングストップモード」を新たに搭載しました。
蓄電池PCSは上位から電力の指令を受け取って、それに応じた出力を出すという機能があります。この機能に関して従来は電力の指令が0の待機状態の場合でもインバータを動作させており、一定の損失が発生していました。
今回開発したアイドリングストップモードは、電力の指令が0の待機状態には、上位からの指令に応じてインバータのスイッチングを停止するというモードです。系統連系は続いているため、指令に応じて即座の電力制御が可能なまま、0.8ポイント待機損失を低減させることが出来ました。
夢・今後の目標
今回PCSの高電圧化(DC1500V化)、大容量化(2750kVA化)というところを主な目標に開発を行いました。
今後再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、PCSにも様々な方面から機能UPの要求があるかと思いますが、今回培った技術をベースに今後もPCSの更なる向上に取り組んでいきたいと考えています。
学生へのメッセージ
研究開発は、トライ&エラーの連続です。また、思いもよらない知識が役に立つことも珍しくありません。
大学での勉強は、講義も実験も研究もやることが多く、大変かと思いますが、思いもよらない知識が役に立つこともありますので、是非とも様々なことに挑戦し、様々なことを学んでいただきたいです。
電気は現代社会を支えるのになくてはならないものです。
電気工学は、この電気を「つくる」ところから「使う」ところまで、電気の取り扱い全般に関して非常に重要なものであり、現代社会を支える根幹を担っています。
このような電気工学を、学生の皆様の選択肢の一つに入れて頂ければ、非常に嬉しく思います。







