世界に通用するエンジニアになりたい。

2013年2月4日掲載

島根大学 山本研究室は、パワーエレクトロニクスを専門とする研究室です。2010年に開設された若い研究室ですが、企業との活発な産学共同研究や電気自動車(EV)の製作などユニークな活動で大きな注目を集めています。現在の研究テーマは「ハイブリッド自動車(HV)用電源」「汎用電源」「新技術」などです。

※2012年11月現在。本文中の敬称は略させていただきました。

山本研究室で電気工学の勉強をしてみたい

電気工学を志望された理由を教えてください。

今岡:勉強は元々、文系より理系が得意でした。工学部へ進んだのは、自分が社会で役に立つイメージがしやすかったこと。また、ものづくりが楽しそうだと思って電気工学を志望しました。山本研究室は産学連携が盛んということで、どうせやるなら産業界の方と一緒に研究したいと思って進みました。

服部:私は奈良高専の電気工学科出身で、進学したのは就職がいいという理由からでした。ただ本格的に勉強をはじめたのは、高専の研究室(奈良高専は5年次)へ配属されてからです。その時はトランス(変圧器)の勉強をしていました。また、担当教官の先生が、世界で唯一を追い求める方で、夜遅くまでマンツーマンで研究していました。そのおかげで、研究の面白さに目覚めましたね。そして、もっと電気を学びたいと思い、高専卒業後に、島根大学の山本研究室へ編入しました。

山本研究室をご存知だったのですか。

服部:はい。トランス関係の研究で有名でした。また、若くてすごく伸びてきている先生ということも聞いていました。偉そうですみません(笑)。

金澤:私の場合、そもそも島根大学を志望した理由自体も、山本先生の研究室へ入りたいと思ったことです。「電気自動車をやるなら山本研究室」といった感じで、大学のパンフレットでアピールされていたので(笑)。

そうなんですか!

金澤:ええ。私は、父親が自動車会社に勤めていて小さい頃からクルマをつくりたいという夢がありました。そこでたまたまパンフレットを見て、山本研究室へ入りたいと思い、島根大学へ進学しました。

ハイブリッド自動車(HV)の燃費向上など、省エネ・省資源に貢献する

金澤さんの研究を教えてください。

金澤:主にHVのモーター駆動部、つまりPCU(Power Control Unit)と呼ばれる部分の小型化と軽量化に向けた研究を行っています。

具体的に教えてください。

金澤:HVのPCUには、コンデンサ(ふたつの導体間に静電容量を持たせるための受動素子。HEVでは主に電源回路の信号平滑化などに用いられている)と呼ばれる部品を搭載しています。このコンデンサを小型・軽量化することによって、PCU全体のシステムを小さくする研究です。PCU自体は、エンジンの中で約1/4のスペースを占めています。その中でコンデンサは、3分の1ほどのスペースを占めているのです。

小型・軽量化することによって、HVにはどんなメリットがあるのですか。

金澤:小型・軽量化することでHVの車体が軽くなって航続距離が伸びるので、燃費が良くなります。また、スペースが空くので車の形自体を変えられるなど、多くのメリットがあります。一言で言えば、HVの省エネ・省資源に貢献できる研究ですね。

試行錯誤しながら作った回路基板です。インバーターの電圧抑制などを行います。

実験を行った結果はすぐにパソコンでデータ化します。

夢の“非接触給電”の実現をサポートする半導体デバイス研究

服部さんの研究を教えてください。

服部:次世代半導体デバイスのGaNFET(窒化ガリウム電界効果トランジスタ)の応用研究をしています。電力変換には、通常、スイッチング電源と呼ばれる電力変換機器が使用されています。そのスイッチの主流は、現在、半導体デバイスのMOSFET(金属酸化膜型電界効果トランジスタ)やIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などですが、それらをGaNFETに置き換えて、電力変換機器を小型・軽量化へ、またはGaNFETに適した回路トポロジー(電源回路の構成方法)を創造する研究です。

GaNFETに置き換えると、どんなメリットがあるのですか。

服部:現在、主流のMOSFETやIGBTは非常に安価なのですが、物理的な特性限界が近づいています。その限界をGaNFETは打破ることができます。ただし非常に扱うのが難しく、また高価というのもあって実用化へ向けて色々な課題があります。研究が実現すれば、電力変換器の小型・軽量化に寄与します。

例えば、どのような製品に使用されることを想定しているのですか。

実験を大切にする山本研究室は、オシロスコープ等の計測機器が充実しています。

服部:実際には、GaNFETはコストの面から考えると簡単には使えないものですが、私は高周波領域の電気機器に適していると想定し、非接触給電に応用しようと考えています。非接触給電とは、簡単に言えば、機器を置いただけで配線なしに電気を供給できるシステムのことです。

従来品より磁性材料の大きさを1/2に削減、省資源化にも貢献

今岡さんの研究を教えてください。

今岡:私の研究も、服部君と同じく電力変換器の小型・軽量化に関する研究です。特に、HVなどの車載用電力変換器のインダクタ(コイル)やトランス(変圧器)といった磁性部品の小型・軽量化を目指しています。

この小型・軽量化を実現すると、HVにどのようなメリットがあるのですか。

今岡:磁性部品を小型化することで、電力変換器が小さくなり車内スペースの拡大やコスト削減などがはかれます。磁性部品の削減はコストだけでなく環境負荷低減や省資源にもつながります。

どのように小型軽量化するのですか。

今岡:磁気部品のサイズは、用いるコア材料によっても特性が大きく異なるのですが、私の研究は回路トポロジー(電源回路の構成方法)にあわせた、コア構造や巻線構造に重点をおいて磁気部品の体積低減を目指しています。またそれらの設計方法についても研究しています。理論を一般化させて、たくさんの方に読んでもらうことが目標です。

現在の成果としては、どんな感じですか。

今岡:インダクタ(コイル)とトランス(変圧器)を結合させるなどして、従来の電源回路より約半分にサイズを低減できています。また別の方式では、約1/3程度までダウンサイズが可能です。これらの技術は、太陽光発電のパワーコントローラーや、薄型テレビの電源装置、ハイブリットカー用電源などにも使用できるので、色々なところにニーズがありますね。

コイルの特性であるインダクタンスを測定しています。

測定結果は、すぐにパソコンでデータ化します。

企業や自治体などの産学共同研究で、真の実力を手に入れる

みなさんの研究は、企業との共同研究ですか。

全員:はい。

では、産学共同研究のエピソードを教えてください。

今岡:現在も、研究室全体で10社以上の企業の方と一緒に研究させていただいています。納期や結果などを求められるので、やりがいがある反面、プレッシャーを感じますね。家に帰れないときもあります(苦笑)。

服部:私は、共同研究している企業へインターンに行き、勉強させていただきました。レベルの違いに驚きました (苦笑)。ただ、製品の深い部分まで関わることができました。また、産業展示会などで、自分が関わった製品も出品していただきました。

金澤:私は、自動車関連メーカーと共同研究をしています。また自治体とも観光用EVの開発という目的で一緒に研究をしています。企業様のノウハウや最新動向を聞くことができて、研究の新しいテーマの考察にも結びつきますし、案件をこなすことで実力がつきます。

なるほど。これまでで印象に残った研究の出来事があれば教えてください。

今岡:研究室でEVを作成したことです。約1ヶ月かけて、朝から夜中までみんなで作り続けて、車検まで通して公道を走れるようにしました。また、SSH(Super Science High school)の一環として、このEVで地元の高校を訪問しました。非常に喜んでもらえましたね。

金澤:私もそうです。自分はEVのインバーター(直流を交流に変換する装置)を担当しました。実際にEVを動かすと、周りの学生や幼稚園児などが寄ってきてくれて喜んでもらいました。このEVは、島根県および県内の企業と一緒に作りました。

これも産学提携のひとつですね。服部さんはいかがですか。

服部:言いにくいですが、実験をやっていてよく電気部品を爆発させています(苦笑)。まぁそういうのも辛い反面、実験の楽しさなんですが。。。

半導体は扱うのが大変らしいですね。千葉大学のパワーエレクトロニクスを扱う佐藤研究室の方も同じことを言っていましたよ。

研究室全員で約一ヶ月かけて制作したEV。充電器は山本研究室のオリジナルです!

服部:みんな同じなんですね。安心しました(笑)。

アメリカ、カナダ、韓国、日本・・・学会へ行って得たもの

学会への参加も盛んとお聞きしましたが、何かエピソードはありますか。

服部:私は先日まで、カナダへ行ってIECON(Industrial Electronics Conference)という学会に参加しました。一人で行ってきました(苦笑)。

一人ですか!

日韓SPCにて。服部さんと写っているのは、仲良くなった韓国人学生。

服部:英語で発表したんですが、意外に気持ち良かったです(笑)。外国人の方たちへ大声で話しました。また韓国にも行きました。韓国は、学会ではなく日韓SPCというワークショップです。発表は成功したのですが、少しお酒を飲みすぎました(苦笑)。

今岡さんと金澤さんはどうですか。

今岡:学会は色々行きましたが、ECCE(Energy Conversion Congress and Exposition)という学会で、アメリカに2回ほど行ったことは印象深いです。英語が大変でした(笑)。 でも、英語の必要性を肌で体感することができました。

浜松SPCにて。金澤さんの受賞の様子。

金澤:フォローしておくと、服部さんの一人で行くのはあくまでレアケースですよ(笑)。私は、3日後(2012年11月11日)に、ICRERA(International Conference on Renewable Energy Research and Applications)という国際学会が控えています。今から心臓バクバクです(笑)。また、浜松で開催されたSPCという学会で奨励賞をいただいたこともあります。

学会に参加して得たものは何ですか。

金澤:他の大学や企業の皆さんから色々なご指摘をいただけることですね。すごく参考になって、新しい研究方針を見つけられる機会です。

服部:私の場合は研究が新分野なので質問がすごく来るんです。質問に正確に答える能力が身についたような気がします。また、新デバイスを使い方に対するたくさんのアドバイスもいただいてます。

今岡:品質や安全面といった、学生では気づきにくい視点を指摘してもらえることですね。企業や海外からの見方というのは、すごく勉強になります。

若さ溢れる研究室で、遊びも勉強もパワフルです(笑)

研究室の雰囲気はどんな感じですか。

金澤:この研究室は、先輩、後輩のわけ隔てなく交流をしています。飲み会も月に1回は開催して、先生を含めてみんなで楽しく過ごしています。全員、参加していますよ。

服部:その飲み会ではじめはギクシャクしていた先輩後輩関係もすぐに改善できます(笑)。

今岡:定期的に、実験室で鍋大会もやっています。あとは、夏に海で1泊2日のキャンプもやっています。

金澤:近場ですけどね(笑)。ちょうど大学の裏の島根町の海です。

服部:実は、全然泳げる海じゃないんですが(爆笑)。バーベキューをして飲むだけです(笑)

楽しそうですね(笑)。山本先生は、若い先生だから話しやすいというのもあるんですか。

金澤:議論はよくしますね。研究室報告会が月に2回行われていて、先輩たちから意見をいただきます。先生も参加されます。熱く語りますね。

服部:それから、時折差し入れを持ってきてくれます。貧乏学生なので助かります(苦笑)。

一日のスケジュールはどんな感じですか。

今岡:朝は9時位に学校へ来て研究をはじめます。そこから、研究課題に取り組んだり、後輩と一緒に議論したり、論文を執筆したりします。忙しい時期ですと学校に泊まり込みもあります。時間管理をしっかりしないといけませんね(苦笑)。

そんなに研究が忙しかったら、サークルやアルバイトはできるんですか。

今岡:ええ、大丈夫です。今は、社会人のフットサルチームに所属して週に一度の練習や大会に参加して汗を流しています。また、アルバイトは学校のTA(ティーチングアシスタント)などを行っています。

服部さん、金澤さんはいかがですか。

服部:基本的に今岡君と同じです。特に忙しい時期は学校に寝泊まりして、家にはお風呂に入るためだけに帰るときもあります(苦笑)。でもサークルやアルバイトの両立はできています。今は英語サークルに所属しています。また気分転換に、時々テレビ局のアルバイトもやっています。

金澤:私は朝方です。朝8:30に大学に来て、メールチェックを行い、9:00には研究できる体制にします。夜7:00ぐらいまで学校で研究を行い、課題が残っていたら家に持ち帰ります。夜は、体を鍛えるために10km程度、宍道湖までランニングをしています。サークルは野球部に所属しています。アルバイトも5年間続けています。泊まりません(笑)。

朝早い人もいれば、夜遅い人もいる。個人にスケジュールを任せてもらえる研究室ですね。

山本研究室の実験室の様子です。皆さん、一からものづくりを行います。

山本研究室のデスクの様子です。PCはもちろん、一人一台以上です。

研究室に入らないと分からない、技術や製品が数多くある

電気工学を学んで良かったことをお教えください。

今岡:とにかく研究が面白いですね。本当は学部4年の時に就職するつもりだったんです。

そうだったんですか。

今岡:はい。でも研究が面白くなってきて、視野がどんどん広がっていくことが自分でも分かってきました。だからもし進路に悩んでいる人がいるならば、電気工学を専攻すると、必ずやりたいことが見つかると思います。その上、就職はとても強いです。

服部:私は山本研究室に入れたことです。共同研究を行っていると、少しですが自分自身で課題を解決する能力が身についたのかなと思います。それから海外に行く機会が数多くあり、いい経験ができました。電気工学は、世界に通じますね。

金澤:理系の高校生や大学生といっても、研究室に入るまでは見えなかったことが多くあります。それが研究室で学ぶようになって、系統の変電所、家電製品、鉄道、自動車など今まで見えなかった視点から、ものや社会、技術などが見えるようになりました。

大学の授業でも見えないですか?

金澤:はい。授業では式を羅列する感じで、実際のものが見えないですね。だから“つまらない”と思う人が出てくるのではないでしょうか。山本先生には最終製品から電気工学を説明していただいたので、すごく分かりやすかったです。

最終的にはベンチャー企業を立ち上げてみたい

将来の夢や目標を教えてください。

今岡:私はこのまま博士課程へ進みます。パワーエレクトロニクスの技術をしっかり継承して、私よりもっと若い世代の人たちにこの分野の面白さを伝えていきたいです。最終的に教員になるかは分かりませんが、実産業を支えることができる研究者またはエンジニアになることが目標です。

服部:私も博士課程へ進学しますが、将来は海外でエンジニアとして活躍したいです。そして広い視野を身につけて日本に帰国して、産業国・日本を復活させたいという夢があります。最終的にはベンチャー企業を立ち上げてみたいですね。

金澤:日本人は、「作る」ことはうまくても「創る」こと、創造することが弱いと言われています。その点は、外国人の方がうまいので、服部さんと同じですが、海外へ一度出てノウハウを学んで、世界に通用するエンジニアになることが夢です。

皆さんは就職はまだですが、他の方々の今年の状況はいかがでしたか。

今岡:全員、就職しました。大手企業に就職された方も、研究知識を生かしてそのまま研究員になられた方もいます。

素晴らしいですね。服部さんはベンチャー企業をつくったなら、ぜひまた取材させてください。
本日はありがとうございました。

山本 真義

国公立/島根県
島根大学 総合理工学部 電子制御システム工学科

山本 真義 准教授(やまもと まさよし)
当研究室は、2010年開設。新しい研究室ですが、既に2012年時点で博士後期課程2名、修士課程14名、学部生4名の総勢20名という大規模研究室に発展しています。企業との共同研究をしたり電気自動車を作ったりしながら、実践的に、そして活発に研究を進めています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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