島根県民の声に応える、トンネル用の白色LED照明装置を実現する。/島根大学 山本真義 准教授

2012年7月掲載

※肩書きは採択時のものです。

「島根県内でトンネル内が暗い」という県民の多くの声に応えて、島根大学の山本真義 准教授が取り組んだのは、トンネル照明のLED化です。より明るく、安全で、安く、省エネ効果があり、地球環境にも優しい次世代型の照明システムをご提案いただきました。

島根県民の声に応えるため、研究助成を利用する

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

電気学会の委員会の会合でパワーアカデミー研究助成の存在を知りました。この研究助成のバックボーンが私の専門である電気工学であること、さらに社会から電気工学分野への省エネ化の期待が高まっている時流を受けて、本テーマを選択し応募しました。トンネル照明を応募対象にしたのは、“島根県内でトンネル内が暗い”という県民の声が多くあることを知ったからです。この研究助成を利用して、電気工学の研究成果を社会へ反映させることで、県民の皆様の声にお応えできることが、延いては電気工学の将来のためになると考え応募しました。パワーアカデミー研究助成の「電気工学分野の将来展開を見据えた魅力的な研究」という考え方に大いに賛同できたことも大きかったです。

LED照明の照度と電力の最適化を“トンネル”で実現する

Q.研究内容をお教え下さい。

照明の世界では、ハイブリッドカーが蛍光灯とすると、次世代型自動車である電気自動車に相当するものがLED照明や有機EL照明だと考えています。私の専門は、ハイブリッドカーや蛍光灯に使用される電源装置なのですが、今後は電源だけでなく電気自動車やLED照明のシステム全体を考え、そのシステムが要求する性能を持つ電源装置、という大きい視点から局所的な視点へ落とし込んでいく研究が必要だと思っております。

今回のLED照明に関する研究は、その第一歩となりました。LEDを点灯させるためには電力が必要です。しかしLEDを明るく点灯させるためには、より多くの電力が必要となります。私の研究では、このLEDの充分な明るさを保持しながら、いかに電力を削減するか、という視点でLED照明の照度と電力の最適化を、実際のトンネル照明をベースに行いました。

トンネル内の消費電力を半分に、しかも明るさ増す

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

研究成果として、トンネル照明をLED化することで、トンネル内の消費電力を半分にすることができました。そして島根県内の皆様に対するアンケートでは、従来照明と比較してより明るく安全との結果も得ています。今回の研究内容では、私の専門である電源装置についてはLED照明内部の100W以下の比較的小容量の電源について研究しましたが、今後はトンネル全体の配電システムについて研究を広げていきたいと考えています。

具体的には、直流送電化です。今のトンネル配電は交流が配線されていますが、これを直流化することで消費電力を1割程度カットできます。また、直流用配線も交流配線に比べて安価で済み、初期コスト、ランニングコスト共に安いシステムが構築可能です。

このように、より明るく、安全で、安く、省エネ効果で地球環境にも優しい次世代型の照明システムを提案し、世界標準化していき、電気工学の技術力で明るい未来を作っていきたいですね。

博士課程の学生の支援と、小中学生への電気の啓蒙を期待したい

Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

ドクターコースの学生に対する援助をしていただきたいと考えております。電気工学分野の活性化、底上げのためには、若い技術者育成が急務です。しかしながら、欧米諸国に比べて、ドクターコース研究者に対する補助制度が充分ではありません。国の制度を変えるのは大きな労力が必要ですが、電気工学に特化して草の根レベルでそういった新しい次世代育成の流れを作って頂ければ、日本の技術分野の将来も明るくなるのではと期待しております。例えば、ドクターコースの学生のベンチャー企業立ち上げをサポートするような支援も考えられます。

また同時に、小中高校生に対する電気工学の積極的な啓蒙活動も行っていただきたいです。次世代の電気工学を担う若い人達へ、電気工学の魅力、その必要性、社会基盤を担う誇りを、色々な形でアピールしていただき、将来、彼らが喜んで電気工学の道へ進んでいくような流れを作ってほしいと考えています。例えば島根大学では山間部の高校に大学で作成した電気自動車を持って行き、実際の電気自動車に触れてもらうことで、電気工学の啓蒙を推進しています。また定期的に小学生に対して、LEDで点灯するクリスマスツリーを作成する講座を無料で行い、電気に対する興味を持ってもらっています。こういった広報活動やマスメディアを利用した啓蒙活動を行うことで、電気工学に対する認識が浸透していくのではないかと期待しています。本当は電気とは皆さんの身近にあるものなのですから。


電気工学の未来