電気を上手に使う、省エネ社会を実現したい。

2011年11月25日掲載

千葉大学・佐藤研究室は、パワーエレクトロニクスを専門とする研究室です。パワーエレクトロニクスは、地球環境やエネルギー問題を解決するために不可欠な電気工学分野です。

※パワーエレクトロニクスに関しての詳細はこちらをご覧ください。
身近な電気工学第2回「パワーエレクトロニクスとボランチ」
※2011年8月現在。文中の敬称は略させて頂きました。

高専からパワエレを学んでいました(小原)、
単純に理系だったから(大塚)、
電気は大学院からスタートです(斉藤)

まず、電気工学科を志望された理由をお教えください。

小原:私は高専の出身で、大学3年生から千葉大学へ編入してきて、そのまま大学院に進みました。高専のときも電気電子工学科でした。

そうですか。中学生の頃から電気を志望されたのですね。

小原:いや、中学生なのでそんなに明確ではなかったと思います(笑)。大きな理由は就職ですね。私の高専は5つ学科があって、その中で電気電子工学科は一番求人数が多いということで選びました。

大学へ編入後、佐藤研究室に入られた理由を教えてください。

小原:それは、まさに高専のときに、パワーエレクトロニクス(以下パワエレ)の研究室に所属していたからです。高専の4年生のときに、大手通信会社へインターンシップに行って、いかに電力変換が重要な技術かを知り、パワエレの研究室へ行きました。

大塚さんはいかがですか。

大塚:ありきたりの理由ですが、まず高校では理系だったこと、あとは電気の幅広さですね。どんなものにでも電気は使われているので、しっかりと学べば、将来活躍できると思いました。この研究室へ進んだのは、これから先、再生可能エネルギーが増えるにつれて、絶対にパワエレが必要になると思ったからです。

斉藤さんはいかがですか。

斉藤:私の場合、ちょっとみんなと違って、実は電気工学科の出身者ではありません。学部のときは物理科で、大学院から専攻を変えました。

そうですか。学部は工学部ですね?

斉藤:ええ。4年次には流体力学の研究をしていました。勉強していく中で、流体力学は電磁気学と理論的に共通点が多く、面白いなぁと感じたのが電気工学へ興味を持った理由のひとつです。あとは、学部時代に回路の設計などを少しやって、ものづくりが楽しかったことですね。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーに興味があって、パワエレは貢献できる分野なので進みました。

大学受験のときに女性が少ないことは気にされていましたか。

斉藤:高校時代から、理系は女の子が少ないので慣れていました(笑)。予備校でも物理クラスは女の子1人という状態でしたので。

省エネ社会を切り開く、クリーンなマルチレベルインバータ

小原さんの研究を教えてください。

小原:私は、「マルチレベルインバータの解析と制御」という研究をやっています。まずインバータとは、半導体パワーデバイスを使用して直流を交流に変換する装置のことです。

よくエアコンなどで聞く、パワエレ装置のひとつですね。

小原:そうです。現在、多くのインバータは、半導体スイッチを高速でON/OFFし、電圧を制御しています。このスイッチングによって出力される電圧値が2値のインバータを「2レベルインバータ」と呼び、現在ではこの方式が一般的です。「マルチレベルインバータ」とは、2値だけでなく、さらに多くの電圧値を出力することで、よりキレイな電圧波形を実現するインバータのことです。

なるほど。

小原:私の研究ですが、このレベルを飛躍的に増やすことによって、電力系統にほとんど悪影響を与えないインバータをつくることを目標にしています。

具体的に教えてください。

小原:例えば、太陽光で発電した電力を、インバータ(系統連系インバータ)に通して電力系統へつなぎます。電力系統につなぐ場合、そのインバータ出力の総合歪率(高調波による電圧波形歪率)をなるべく小さくする必要があります。マルチレベルインバータのレベル数を増やすことによって本質的に高調波を低減することができるのです。また、電磁ノイズも減らす効果があります。

クリーンな系統連系インバータが実現できるわけですね。

小原:そうです。このマルチレベルインバータの使用を想定しているのは、スマートグリッドやマイクログリッドと言われる、次世代の電力システムです。これらの電力システムは、町単位などの小さな規模で電力システムを構築するので、系統が小さくて弱いのです。これまでのような巨大な電力系統ならば今までの2レベルインバータで問題ないのかもしれませんが、分散型システムといわれる系統にはマルチレベルインバータのようなクリーンなインバータが必要になってきます。

大塚さんの研究を教えてください。

大塚:今、小原さんが言った「マルチレベルインバータの集積化」という研究テーマです。小原さんと一緒にやっています。

集積化とはどういうことですか。

大塚:簡単に言うと、マルチレベルインバータを1つの半導体のチップで実現しようとするものです。マルチレベルインバータは、レベル数を増やすほど半導体素子一個あたりの電圧を下げられるので、LSIのような概念を使うことができるようになります。これにより、理論上はコンパクトにつくることが可能です。

インバータもIC化の時代ですか!色々と応用ができそうですね。

大塚:そうですね。もしこの研究が実現すれば、先ほど、小原さんが言った系統連系インバータの発展にも大きく貢献します。それから、モーター駆動で動いている全ての製品の発展にもつながります。例えば、自動車、電車、家電、ロボット・・・、これら全てにマルチレベルインバータが使用されれば、もっと高性能な製品になる可能性があります。

■高効率直流給電を実現する、最先端・省エネルギー研究

斉藤さんの研究を教えてください。

斉藤:私は、「SiCデバイスを用いた直流遮断器の制御」です。SiC(シリコンカーバイド)とは、現代主流のSi(シリコン)に対して、非常に優れた性質を持つ次世代材料のことで、素子の特性を劇的に向上させるとして期待されています。

まさしく、パワエレの基礎技術ですね。

斉藤:そうですね。まず、この研究の背景をご説明します。現在、日本では、一般家庭のコンセントには、交流の電圧がきています。その交流を、例えばノートPCなら、ACアダプタでAC‐DC変換をして、直流にして動かしますね。このように、普通は交流で給電されているにも関わらず、私たちの身の回りは直流で動く電化製品があふれています。

そうですね。

斉藤:ですから、電化製品はほとんどAC-DC変換をやっているのですが、変換することによって電力ロスが起きるのです。この電力ロスは「ちりも積もれば山となる」ではないですが、かなりの電力の無駄となります。

なぜ、最初から直流の給電をやらないのですか。

斉藤:直流は、電圧が一定なので、遮断(遮断器で電気の流れを絶つこと)が非常に難しいのです。遮断器とは、一般家庭で言えばブレーカーのことで、電気を扱う以上、絶対に必要です。そこで私は、直流給電システムを実現するために、パワー半導体を使って直流遮断器をつくる研究をしています。

なるほど。研究室単独でやられている研究ですか。

斉藤:いえ、大手通信会社などと共同研究しています。産学官連携で他大学の方もプロジェクトに参加しています。この研究は、基本的にデータセンター用です。データセンターは、24時間365日、常に稼動しなければならないので膨大な電力を使用します。そこで、電力ロスを削減することは大きな省エネ効果につながるので、直流給電の導入が進んでいるのです。

■自分達の手で、100%ものづくりをする研究室です

大塚さんが取り組んでいる
集積化マルチレベルインバータの試作機

今までの研究で、一番心に残ったことを教えてください。

大塚:うちの研究室は一から十まで実験道具を全てつくることですね。自分で設計して、基板を削って、素子をはんだ付けして回路をつくる。それで実際に回路が動いたときは嬉しかったですね。はんだにほとんど触ったことがなかったのですが、やってみると意外と楽しかったです。

小原:そもそも彼に限らず、普通、工学系の学生といえども、はんだ付けをやる機会はめったにないです。だから最初はみんな下手ですよ。でも今では大塚君は・・・・

斉藤:メーカーの熟練工よりもうまい(笑)。

大塚:自称ですけどね(笑)。

斉藤さんはいかがでしょうか。

斉藤:私は多分、今この研究室にいるメンバーの中で、一番素子を壊してしまっていますね。SiCデバイスを扱うのですが、よく爆発させています(苦笑)。

小原:フォローしますと最先端の半導体デバイスなので、世界中の誰も特性が分からないのです(笑)。

斉藤:ありがとう(笑)。ただ「失敗して学べる」研究室なので、着実にノウハウが身についていきます。最近はようやくしっかりとした回路がつくれるようになりましたね。

小原さんはいかがでしょうか。

小原:研究で面白いことは結局、苦労を重ねて結果が出るときです。そして、結果が出たあとに学会へ行って評価されることはさらにうれしいですね。学会発表で、優秀論文賞を受賞しているメンバーもいます。

それは素晴らしいですね。学会はこれまで何回行かれましたか。

小原:これまでに2回、発表を行いました。来月(2011年9月)に2回、沖縄で開催される電気学会産業応用部門大会とIEEE(米国電気電子学会)の国際会議へ参加する予定です。

学生主導で運営して、電気工学の重要性をアピール

佐藤研究室の特徴を教えてください。

大塚:うちの研究室は、コミュニケーションがとりやすい研究室だと思います。その上、1つの居室にたくさんの人がいるので、相談しやすいです。佐藤教授、近藤准教授の部屋も常に扉が開いていて、話しやすい雰囲気になっています。また、研究に関しては、テーマごとに、先生と週1回のペースで研究進捗の確認を行っています。

斉藤:週1回どころか、気がつくと3日連続もあります。要するにいつでも先生とコミュニケーションをとっている研究室です。飲み会も、先生が率先して楽しんでいます(笑)。

小原:学生主導で何でもやらせていただける感じです。例えば、学生側から先生に提案して、研究室のHPのリニューアルを行いました。

なぜHPをつくろうと思ったのですか。

小原:パワーアカデミーの趣旨に通じると思いますが、電気工学、特にパワーエレクトロニクスの重要性を広めたいと思ったからです。例えば"インバータ"という言葉はよく聞きますが、その意味まで分かる人はあまりいないですね。やはり広報活動ってすごく大事だと思うのです。

他にもパワエレをPRするためにしていることはありますか?

斉藤:高校生向けのオープンキャンパスなどでは、一人乗り用の電車が研究室の中を走っていますよ。

研究室で製作した実験用ハイブリッド電源鉄道車両。

電車ですか?

斉藤:はい。椅子があって、大人一人が乗れます。結構、スピードが出るので怖いですよ(笑)。パワエレをもっと身近に感じてもらいたくて、研究室でつくったものです。

パワーシステム教育研究分野のHP。
学生インタビューの取材模様も、当日小原さんが掲載してくれました。

学生生活も、パワエレ並みのON/OFFの切り替えで

1日のスケジュールはどんな感じですか。

小原:朝9時にきて、夜は暗くなったら帰ります。先生がよく言っているのは、「朝起きたら研究室に来て、夜になったら帰る。人間として当たり前の生活をしよう」ということです。実験は安全面も重要なので、基本的に日中ですね。

サークルやアルバイトはやられていますか。

斉藤:平日の昼間は、みんな研究室にいるので、バイトやサークルは、平日の夜や土日を使っています。私は、エレクトーンサークルと、市役所でアルバイトをしています。

大塚:私もどっちもやっています。土日に野球のサークルをやって、平日の夜に居酒屋でアルバイトをしています。だから、普通に朝9時頃に来て、アルバイトの日は7時前に帰る感じの生活です。

小原:私もそうですね。サークルはバスケットのサークルに入っています。アルバイトは、学内のTA(ティーチングアシスタント)をやっています。

斉藤さんにお聞きしたいのですが、佐藤研究室で女性は斉藤さんだけですか。

斉藤:研究室には私一人です。学科も私だけで、下の学年には何人かいると思います。

電気工学に限らず工学部は女性が少ないのですが、実際はいかがですか。

斉藤:そうですね。でも、いい意味で男女平等だから過ごしやすいと思います。ひとりの研究者としていられるので、気になることはないです。ただ、重たいものを運ぶときは大変ですが(苦笑)。

大塚:たまに手伝いますよ(笑)。

斉藤:たまにね(笑)。でも言われた通り、電気科に進む女性は少ないので、もう少し増えたら良いな、とは思いますね。

電気工学は就職に強いと考えて間違いない(大塚)、
地球環境に貢献できる学問(斉藤)、
電気エネルギーに関わる人は今後の社会にも必要不可欠(小原)

電気工学を学んで良かったなと思うことは何ですか。

大塚:電気のありがたみが分かったことです。電気が現在のように手軽に使えるようになったのは多くの技術者が知恵と工夫をこらし、苦労したためで、本当の意味で電気の大切さを実感できたことは良かったと思います。

斉藤:私は、普段自分が当たり前に使っている電気製品が動いている原理が分かることが面白いです。

小原:大塚君と同じで、電気に対する意識が変わったことですね。それから、エネルギーに関わっている人は、本質的に社会貢献ができると考えています。日本がこれだけ発展したのも、電気エネルギーを上手く使えるようになったからだと思います。そういう意味でも電気を学んで良かったですね

就職面で良かったことはありますか。

大塚:私は、鉄道会社に就職が決まりました。確かに就職に関しては、電気はすごく強いと考えて間違いないと思いました。それから、就職活動中にパワエレをやりたいとアピールしていたのですが、色々なメーカーの方から「パワエレはこれから大事」と言われたことが印象に残っています。

斉藤:私は業界を絞らず、色々な会社を受けたのですが電気系は重宝されているという実感はありました。その中で、自動車メーカーに就職が決まりました。面接の際は、パワエレの専門性をアピールしました。

最後に皆さんのこれからの夢を教えてください。

小原:私はこのまま博士課程へ行きますが、エネルギー問題の解決の一端を担う技術者になりたいですね。日本は、かつては技術大国でしたが、いまは正直言って疑問符がつきます。しかし資源がない国なので、やはり技術を磨いて、エネルギーをうまく使っていくしか道はないと思います。省エネ社会に少しでも貢献していきたいですね。

大塚:技術者としてさらなる鉄道の高速化に貢献していきたいです。例えば、今話題のリニアモーターカーが実現して、東京―大阪間が1時間弱で行けるようになれば、都市のあり方が変わって産業構造が大きく変化するかもしれません。鉄道の高速化はこうした可能性を秘めているので、実現したいです。

斉藤:電気自動車や燃料自動車などの次世代カーの開発が進んでいますが、そのキーパーツとなるバッテリーはまだまだコストが高く普及の大きな妨げになっています。私は、バッテリーの制御回路を通して、電気自動車のさらなる普及に貢献していきたいです。そして、最終的には地球環境に貢献できたらいいなと思っています。

本日はパワーエレクトロニクスの重要性が非常に実感できました。ありがとうございました。

佐藤 之彦  教授(さとう ゆきひこ)

国立/千葉県
千葉大学大学院 工学研究科 人工システム科学専攻 電気電子系コース

佐藤 之彦 教授(さとう ゆきひこ)
当研究室は、2007年に現在の体制となって以来,千葉大学大学院工学研究科の中でパワーエレクトロニクス分野の教育と研究に携わってきました。この間研究室を巣立った若者は約30名に及びます。平成23年度は、スタッフ3名、大学院生13名、学部生9名の、総勢25名が活動しています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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