東京大学日高・熊田研究室の「高電圧実験」

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1873年に世界で最初に電気系学科を生み出した、東京大学工学部。日高・熊田研究室は、この伝統を継承しつつ、特に高電圧工学分野の研究と教育に長年携わっています。パワーアカデミー事務局は、インパルス電圧発生装置を使用した「落雷放電」、誘電体の界面に沿って進展する「沿面放電」、碍子(がいし)に塩分が付着したときの「塩害放電」の実験の取材に行ってきました。熊田亜紀子先生の解説付き動画とインタビューで各々の実験の概要を紹介いたします。

まずは、右の動画をご覧ください。

1.落雷放電実験

【概要】
インパルス電圧発生装置で人工的に雷を発生させ、雷の直撃から人や構造物を守るための「落雷放電」に関する紹介です。

(1)人形へ落雷(野原で周りになにもない場合)

(1)人形へ落雷(野原で周りになにもない場合)

(2)木へ落雷(木の近くに避難した場合)

(2)木へ落雷(木の近くに避難した場合)

広い室内空間で、乗り心地が抜群

(3)側雷(木の根元に避難した場合)

落雷放電実験の模様を映像でご覧頂けます。

落雷放電実験の模様を映像でご覧頂けます。

熊田先生インタビュー

Q. 落雷放電実験の目的を教えてください

雷で命を落とすという痛ましい事故は、現代でも度々発生しており、雷の直撃から人や構造物をどのように守るのか、その対策(雷遮蔽)に必要な実験です。また、電力機器が落雷で発生する過渡的な過電圧に対して、十分な絶縁強度を持っていることを検証することです。

Q.どうやって雷を発生させているのですか?

インパルス電圧発生装置

インパルス電圧発生装置

インパルス電圧発生装置を使って鉄塔などに落雷したときに発生する過電圧(雷インパルス電圧)と同じ波形、約100マイクロ秒(1万分の1秒)という極めて短い時間のパルス電圧を人工的に発生させています。

Q.インパルス電圧発生装置の仕組みを教えてください

東京大学のインパルス電圧発生装置の基本回路は図1に示すような、CR型と言われるものです。n個のコンデンサCを並列に接続して電圧E(V)で充電させた後、直列接続にかえて過電圧(雷インパルス電圧)V=nE(V)を発生させます。発生電圧は最大で約210万ボルト。これは、電池を縦に並べたとすると、富士山の18倍以上の高さになります。

ちなみに、「そんなに凄い電圧だと、電気代はいくらですか?」という質問をよくいただきます。雷も同じですが、放電エネルギーが少ない(放電時間が瞬時である)ので電気代はあまりかかりません。電気の無駄遣いはしていません。

図1 インパルス電圧発生器の基本回路(CR型)

図1 インパルス電圧発生器の基本回路(CR型)

Q.雷の直撃を避ける方法はあるのですか?

図2 樹木周囲で落雷を避ける方法

図2 樹木周囲で落雷を避ける方法

ゴルフ場や広い公園など近くに避難する場所がないとき落雷から身を守るためには、図2のような場所(高さhの大きな木からh/2ぐらい離れた距離)でしゃがむと良いでしょう。雷の直撃から保護される範囲は、避雷針(ここでは樹木)の先端が頂点となる円錐の内部となります。ただし、あまり木に近づくと、一度木に落雷した後、人に放電(側雷)するため木の根元や枝から離れた場所にいる必要があります。この考え方は、送電線や変電所などの電力機器を雷の直撃から保護するのにも適用されています。

Q.雷遮蔽の適用例を具体的に教えてください

図3 架空地線による送電線の保護

図3 架空地線による送電線の保護

具体的な適用例としては架空地線があります。架空地線とは、送電鉄塔の一番上に張ってある線のことでグランドワイヤーとも言われています。送電線を雷の直撃から守るためのもので、避雷針と同じ役割を果たしています。全ての送電線が図3の保護範囲の中に入るような位置に架空地線が張られています。

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