2018年1月31日掲載

静岡大学の道下研究室は、雷の研究というユニークなテーマに取り組む一方、毎日先生を囲んでランチを楽しむなど、互いのコミュニケーションも非常に大切にしている研究室です。雷研究の最前線をたっぷりと語っていただきました。

※2017年11月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

雷への工学的アプローチについて興味を持つ

皆さんが電気工学を志望された理由を教えてください。

平尾:もともと理系科目は得意だったのですが、勉強の目的は大学に合格することではなく、社会に貢献できる人間になることだと思っていたので、様々な分野に応用が利く電気工学を志望しました。電気工学に将来のビジョンを明確に感じたというところでしょうか。もちろん電気を学ぶと就職に強くなるという理由もありました。

道下研究室に入られた理由は。

平尾:インフラ関係、特に電力会社に就職したいと思っていたので、雷の研究を通じて電気機器、電力機器について学べる道下研究室に入りました。雷自体、自分にとって幼い頃から身近な存在でしたので、興味も湧きました。さらに学会発表の機会が多い研究室と聞いて、自分の力を伸ばすには非常にいい環境ではないかと感じたことも理由の一つです。

続いて秋山さん、電気工学を志望された理由を教えてください。

秋山:中学生時代の「総合学習」という授業で太陽について調べたのですが、そのときに初めて核融合反応という現象を知り、大きなエネルギーの発生について興味を持ちました。それをきっかけに太陽エネルギーや火力発電や原子力発電といった大規模な発電システムに関心が向き、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを利用した発電システムまで幅広く興味を持つようになって電気工学を志望しました。

道下研究室を選ばれたのはなぜですか。

秋山:やはり雷の研究という点が非常に先鋭的というか、面白そうだと感じました。こうした研究室というのは聞いたことがなかったですし、そもそも雷は理学の分野だと思っていましたから、工学で扱うとはどういうことだろう?という興味がありました。

なるほど。では坪内さん、お願いします。

坪内:小学校のころからモノづくりが好きで、夏休みになると毎年のように自由研究で工作をしていました。小学校6年生では、父に手伝ってもらって下駄箱をつくったのを覚えています。そんな経験から次第に工学分野に興味を持つようになり、工学部を志望しました。

電気には興味はありましたか。

坪内:電気に興味を持ったのは高校生の頃でした。例えばガス台がIHになったり、身の回りに電気で動くものがあふれていて、これからはより一層電気が必要不可欠になっていくと感じ、電気工学へ進もうと思いました。

坪内さんは現在学部生ですが、道下研究室を選ばれた理由は何でしたか。

坪内:私はインフラ系の企業に興味があり、エネルギーを扱う研究室に行きたいと考えました。静岡大学には他にもエネルギーを扱う研究室がありますが、その中で道下研究室を選んだ理由は、研究室見学で訪れた時に、研究に打ち込む先輩方の雰囲気を見て、その姿に憧れたからです。

雷で避雷装置そのものが焼けて壊れてしまう?

皆さんの研究内容について教えていただけますか。平尾さんからお願いします。

平尾:私は、雷によって電力設備が壊れないようにするための雷害対策の研究をしています。中でも特に高構造物に落雷があった場合に、連系される配電線へ雷サージが逆流してしまうことで引き起こされる避雷器の焼損事故について研究に取り組んでいます。

高構造物というと?

平尾:風車や通信鉄塔などですね。高いものだと100メートル以上のものもあります。高構造物は落雷頻度が高い、つまりよく雷が落ちます。それによって発生した電流には、接地抵抗といって地面に流すための工夫をするわけですが、電流が大きすぎるとオームの法則のV=RIで過電圧が発生してしまい、電線側に逆流してしまいます。配電線には避雷器という過電圧を抑制する装置が設置されているものの、極端に継続時間の長い雷が発生すると避雷器が耐えられなくなって焼損してしまうこともあります。そうした事故を防ぐための対策について、解析プログラムを用いた研究をしています。

これは昔から行われている研究なのでしょうか。

平尾:この現象は“逆流雷”と呼ばれており、道下研究室で取り組んだのは私が初めてです。ただ、研究そのものは1990年代の終わり頃から行われていたようです。今、再生可能エネルギーが注目されていることで風車が増えているのですが、風車の好立地である日本海側は、冬季に威力の大きな雷が発生するので、避雷器の焼損事故の防止策が求められているわけです(※1)。

避雷器の事故が起きるほどの雷というのは、そんなに多く発生するのですか。

平尾:地域によって発生確率は異なるので、一概には言えないのです。ただ、計算上では、その確率はほぼつかめています。

研究室でのエピソードを教えていただけますか。

平尾:解析プログラムに用いるための数値を選定する実験が印象に残っています。高さ2メートルの中空の鉄の棒を実験室に立て、そこに電圧を印加することによって、鉄の棒のインピーダンスを測定するという実験でした。鉄の棒を立て、塩化ビニールに電線を通したりするなど、大変な作業でした。文字通り研究室にこもって取り組んだので、様々な方から「根性があるなあ」と感心されたほどです。実験を終え、卒業論文を完成させたときは、本当に大きな達成感がありました。

「雷には個性がある」と実感できる、雷電流波形の観測

秋山さん、研究内容を教えてください。

秋山:私は、実際に風車で観測された雷電流をもとに、冬季における雷性状を把握することに取り組んでいます。冬季に発生する雷は、エネルギーに関する物理量である電荷量が大きくなる特徴があり、風車などへ深刻な被害が発生する場合があります。特に風況条件が良好な日本海沿岸では多くの風車が建設されていますが、同時に冬季雷も多発するため、風車への被害が後を絶ちません。そうした背景のもと、研究を行っています。

実際に風車を使ってデータを収集しているのですか。

秋山:ええ、企業が所有している風車にロゴスキーコイルという雷電流測定用の装置を設置し、実際に落ちてきた雷の雷電流波形を計測して、解析しています。雷電流波形を見ると、夏季雷と冬季雷で波形の性質がまったく異なったり、冬季雷の中でも様々な性質の違いがあったりすることがよくわかります。まさに雷にもそれぞれ個性があると感心します。

「雷にも個性がある」。なるほど、いい言葉ですね。

秋山:特に冬の雷にはいろいろありすぎて、面白いというか、困っているというか(笑)。夏の雷の波形は負極側に振ってすぐに落ち着くものが多いですが、冬は電流のピーク値が小さいものや、電流の継続時間が長いもの、両極性といって正と負の両方に振れていたりと、毎回、変わった波形に出会えます。

(※1)夏と冬の雷の違いについては、身近な電気工学「電気のトリビアその2」もご覧ください。

雷は実は解明されていないことが多い

坪内さん、お願いします。研究はもう始められていますか。

坪内:ええ、最近になってテーマが決まり、研究を始めたところです。テーマは配電線の雷害対策です。具体的には、配電線を雷が直撃することで碍子(がいし)が破壊されて発生する停電などの事故に備え、耐雷設計に取り組んでいます。

碍子が壊れることもあるんですね。耐雷設計とは、どういうものですか。

坪内:ポイントは配電線です。電柱についている電線は横に配置されていますが、実は縦に配置した方が耐雷性は高い、つまり碍子が壊れにくいということが、先輩方の研究でわかっています。そこで、過去の研究をもとにした縮小実験を行っています。

最近研究を始めたばかりということですが、どんな手応えを感じていますか。

坪内:学部での勉強と違って正解が載っている教科書というものがありませんから、いろいろな論文を読むなど、主体的に学んでいかないといけないことに大変さと面白みを感じています。

皆さんのお話を伺うと、雷というのはわからないことが多いという印象です。

研究がはじまったばかりで、先輩から機器の使い方などを教えてもらっていま す。

坪内:ええ、解明されていないことも多いです。碍子などの機器を壊さないためには雷そのものを知らないといけないですから、理学的なアプローチも必要ですね。

先生と共に毎日のランチを通じて、コミュニケーションを深める

道下研究室の特徴について教えてください。

坪内:実験をするための機器、シミュレーションをするためのソフトなどが充実している研究室です。

平尾:雷、高電圧を扱う研究室ですから、人工雷を発生させるインパルスジェネレーターなど、非常に高額な機器もありますよ。高電圧を対象としているので高電圧プローブを使うなど、特殊なものが多いですね。柱上変圧器なども置いてありますし。

秋山:各自に専用のスペースがありますが、机のかわりに棚を使っている点がユニークだと思います。私も初めて見たときに印象的でした。荷物を置くスペースが広くて、高さも変えられるため、意外と使い勝手がいいですよ(笑)。

先ほど、学会に参加する機会が多いというお話がありましたが。

平尾:確かに学会発表は他の研究室と比較して多いですね。私は、去年3件、今年3件の計6件、学会発表をしました。うち2件は国際学会でしたので、英語で発表を行いました。

秋山:国際学会ということでは、私はまだタイで行われた1回しか経験してないですが、英語の原稿は覚えられたものの、とっさの質疑応答には苦労しました。特に母国語が英語ではない方の英語はイントネーションが微妙に違うため、聞き取れなかったです。やはり場数を踏むことが必要だなと痛感しました。

平尾:私も最初の頃は不安や緊張で、学会前は眠れないことも多々ありました。でも、経験を積んで、鍛えられ、今は前日でも普通に眠れます。どんな質問が飛んできても対応できるようになりました。

皆さんの日頃のコミュニケーションはどんな感じですか。

坪内:毎日全員でランチを食べに行き、情報交換などの交流を行っています。

平尾:ランチは先生と一緒に食事することがこの研究室の伝統です。

毎日ですか。

秋山:ええ。基本的に毎日です。みんなで食事をしながら、簡単な研究の話や日常的な会話などしています。

平尾:他愛のない話題から研究の相談まで、様々な話ができるのでよきコミュニケーションの交換場となっております。先生は広島カープファンなので、野球の話題もよく出ますよ。

秋山:あと、近くで雷が落ちたらその話で盛り上がるのは、この研究室らしいところですね(笑)。

坪内:先生と一緒に毎日食事をするなんて他の研究室では聞いたことがなかったので、最初は驚きました。今はもう慣れましたが。話題も先生が気を遣って振ってくれることがあるので、何を話せばいいかと、困ることもありません。

上段一番左から、黒川 正明 技術職員、道下 幸志 教授、横山 茂 客員教授です。

なるほど、コミュニケーションを非常に大切にされている研究室ですね。お休みの日などはどうされていますか。

平尾:私はゴルフと釣りですね。

秋山:私も釣りです。父に誘われて海釣りを始めて、基本的にはルアーでヒラメを狙っています。

坪内:私は、暖かい季節はバイク、冬はスノーボードです。静岡は冬でも雪が降らないので、年中バイクに乗れるのが嬉しいです。

IoTやAIの時代に、電気工学の活躍の場はさらに広がる

皆さんが電気工学を学んでよかったと感じていることを教えてください。

秋山:身の周りの電気システムを理解できるようになったのは、よかったと思います。特に、普段何気なく目にしている送電線や配電線などの構造を学ぶことができました。また、実験で様々な機器に触れられるのも、貴重な体験です。

就職は電力会社を志望されているのですか。

秋山:ええ、目標にしています。

平尾:私は、身近にある電気現象を知ることができたことがよかったと感じています。発電、変電、送電の仕組みがわかるようになりましたし、日常生活の中で送電線や配電線、変電所に目を向けるようになりました。また、雷による停電等の被害の原因や、対策を知ることができました。

坪内さんはいかがですか。

坪内:趣味のバイクをいじると、電気回路の授業や学生実験で学んだ知識が活かされていると感じます。電気工学を学んでよかったと思うのは、そんな時です。

平尾さんは就職が決まったそうですが。

平尾:はい、電力会社の送電関係の仕事に就く予定です。仕事場は送電線になるため、どうしても普段から送電線に目が行くようになりました。就職活動で感じたのは、電気は日本社会を支える産業にとって気は切り離せないものなので、電気工学出身者はどの産業からも必要とされていることでした。これからIoTやAIが普及していくにつれ、我々電気工学出身者の需要はさらに高まっていくと思います。例えば自動車メーカーも、機械出身者よりも電気工学出身者に重きを置いているように感じました。(※2)

秋山:確かに、先輩方を見ているとあっという間に就職活動を終えていたので、電気工学出身者の需要は大きいと感じます。

皆さんの将来の夢を聞かせてください。

坪内:私も将来は電力会社で活躍できたらと考えています。電力会社に就職して、人々の快適かつ安心な生活を支えていきたいと考えています。

秋山:私も、電力関係に就職して、研究で学んだことを少しでも社会のために活かしたいと思います。

平尾:今後電気は変革の時代を迎えると言われているので、社会人になったら、自分がその変革を引っ張っていけるような存在になりたいと思います。

皆さんが電力業界をリードする人材となっていただくことを期待しています。
今日はどうもありがとうございました。

(※2)IoT=Internet of Things インターネットにつながれて、情報のやり取りをする機器の総称。

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