都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。

2015年11月30日掲載

電気工学を専攻しながら、就職では“建築設計”という分野に進んだ谷口洋平さん。東京スカイツリーや東京ドームなど、数えられないほど著名な建築物を手掛けている、日建設計に勤務されています。異色の選択と思われるかもしれませんが、あらゆるジャンルと柔軟に関わり合えるのが電気工学の魅力。谷口さんはその本質を知っていたからこそ、この道を選んだようです。電気の専門家としての建築分野でのやりがいなど、幅広くお話をうかがうことができました。

プロフィール

2006年3月
同志社大学 工学部 電気工学科卒業
2008年3月
同志社大学大学院 工学研究科電気工学専攻 博士前期課程修了
2008年4月
(株)日建設計入社
現在
エンジニアリング部門 設備設計グループ 設備設計部所属

※2015年10月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

“得体の知れないものへの興味”で、電気工学へ

谷口さんが電気工学を専攻された理由についてお聞かせください。

谷口:高校時代は学業よりも、部活のバレーボールや趣味を優先していました。ですから高校1年の終わりに進路を選択する際も、同じクラスの仲のよい友人が多いという理由だけで、漠然と理系を志望することにしました。そのころ個人経営の小さい塾で数学を習っていたこともあったので理系というのは自然な選択ではあったのですが、もともと本が好きで文章を書くのも得意でしたから、今思えば文系でも理系でも、どっちでもよかったのかもしれません。

では、同志社大学の工学部電気工学科に進学された決め手は?

谷口:高校の物理の先生の存在です。教科書は使わずに全部オリジナルの教材で、身振り手振りを交えながらユーモラスに教えてくださった先生でした。その先生に“目に見えないもの”を対象にする電気を学び、どこか得体が知れなくて妙に興味をかきたてられた記憶があります。「やりたいことが定まっていないなら、間口の広い電気を選んだ方がいいよ」というアドバイスもいただきました。今でこそ実感としてよくわかりますが、当時はどういう意味か、まったく理解できませんでしたが(笑)。

そして大学院では、電力系統解析研究室に職属されていたそうですね。

谷口:はい。せっかく電気工学を専攻したのですから、電気の王道だと思えた電力系統を究めたいと思って進学しました。

大学院では、どのような研究に取り組まれましたか。

谷口:雷害対策のための電磁界シミュレーション手法の開発に取り組みました。これは東京スカイツリーの雷撃解析でも用いられているFDTD法(※1)とよばれるシミュレーション手法のための基礎研究で、鉄塔などに雷が落ちたとき、電力系統にどんな現象が起きるかを解析するものです。具体的にはシミュレーションモデル内の銅線の太さをより精緻に表現するツールを開発していました。

導線の太さを精緻に表現するとは?

谷口:巨大な鉄塔と細い銅線ではスケールが違いますから、同じモデル空間でブロックを組み立てていくと、どうしても配線が太くなりすぎてしまいます。そのままですと実際に落雷したときとはまったく違う挙動になるわけです。そこで、スケール違いの細い導体をいかに精度高く表現できるかということに取り組みました。嬉しいことに在学中に既存の方法よりも精度の高い方法を考案できたことで、二度、優秀論文発表者として賞をいただきました。

研究で印象に残っているのはどんなことでしたか。

谷口:一般論にはなりますが、誰もなしえていないことに向かって、課題と目標を設定し、研究に打ち込むというのは、なにものにも代えがたいやりがいがありますし、純粋に楽しかったですね。それに電気工学の研究分野は多岐にわたるため自分のやりたいことも探しやすく、高校時代に先生が「間口の広い電気を選んだ方がいい」とアドバイスしてくれたのはこういうことだったのかと納得できました。

(※1)FDTD(Finite Difference Time Domain)法とは、電磁場解析法の一種。

スケールの大きなものづくりの喜びを味わいたくて建築の道へ

日建設計に入社されたのは2008年ですね。日建設計は日本を代表する設計事務所ですが、電気系の学生の就職先としてはかなり異色ですね。

谷口:ええ、まず普通の電気科の学生は建築設計という選択肢があることすら知らないでしょうね。私の場合は、所属していた研究室が日建設計と共同研究を過去にしていたことが大きかったです。インターンシップなどで実際の仕事内容に触れる中で、次第に建築という大きなスケールのものづくりに惹かれるようになりました。

共同研究とおっしゃいますと。

谷口:電力系統に流れる高調波の研究でした。高調波とは平たく言えば電気に発生するノイズのことですが、需要家からはノイズが出るし、供給側はそれを抑制しつつ品質のいい電気を供給しなくてはなりません。この需要家というのがまさしく建築物のことです。それでインターンシップで需要家の側に立って電気設計の仕事をしてみたところ、ものづくりをしているという実感が得られて、この感覚を味わうにはこっちの道がいいと思ったのです。

建築のことは電気系の学生にとっては未知の世界ですので、日建設計についてご紹介いただけますか。

谷口:もちろん設計事務所ですので建物の設計(建築デザイン、構造デザイン、設備設計)が根幹にありますが、それだけでなく、都市計画に関わる「都市デザイン」や、景観をデザインしていく「ランドスケープデザイン」、コンサルティング業務など、多肢にわたる仕事を行っています。

現在の谷口さんのお仕事の内容を教えてください。

谷口:入社してから、現在までオフィスビル、宿泊施設、病院などの建築物の電気設備設計を行っています。具体的には、建物内で利用する電源を建物に引込み、変電・配電の仕組みを構築し、照明・コンセント等に電源を供給するシステムの設計などです。さらには電話やLANといった情報設備、火災報知設備等の防災設備などの設計も行います。施主の要望を伺って具体的なカタチにしていくのが設計者の役割ですが、電気設備ということでは、省エネや電源の信頼性などに対する抽象的な要望を具現化していくことになります。

非常に多岐にわたるお仕事ですが、電気設計の役割はひとことで言えば、どういうものでしょうか。

谷口:建築の設計は、意匠設計というデザインの仕事や、構造設計という建物の骨格の設計などを行っている人たちがいます。その中で私が担当する電気設備は、建物の「血管」や「内臓」に相当する部分と思っていただければ、分かりやすいでしょうか。現代の建物は電気無しでは絶対に成り立たないので、そう言えると思います。

電気工学が、建築設計に大きく役立っている

仕事をされていて、これまで印象に残っているエピソードはありますか。

谷口:やはり初めて携わったオフィスビルのプロジェクトが竣工を迎えたときのことですね。入社3年目でしたが、大きな達成感を味わいました。設計は、始まってから建物が完成するまで早くても2、3年、遅ければ10年かかることもあります。そのようなロングスパンの仕事に、様々な苦労を乗り越えながらチームで取り組んでいきますので、竣工の瞬間はいつも感動します。

具体的に最初のオフィスビルの設計では、どんなことに苦労されましたか。

谷口:設計の段階ではどんな業種の企業がテナントとして入るかわかりませんから、「化学実験の部屋をつくりたい」「コールセンターを置きたい」というような、多様な要望にお応えできるようにする必要があります。だからといって電気をたくさん使うテナントに合わせて設計すると建物全体がオーバースペックになってしまいますから、そこの落としどころが難しかったですね。

お客様のご要望に応えるのが、大変そうですね。

谷口:ええ、お客様のご要望を一つ一つ共有しながら、設計図面にしていく必要があります。ですから、図面を描くまでの仕事がとても時間がかかり、いつも外出をして何度もお客様と打ち合わせをしています。その上、多数のプロジェクトを同時に平行して進めているのも大変ですが、やりがいはありますね。

素朴な質問ですが、設計図面は電気工学出身者でも書けるものなのですか。

谷口:大丈夫です。私も入社してから図面の描き方を学びました。私たち、電気設備設計の仕事は、基本的に電源周りのことを図面に描くので、最初は建築のことを知らなくても、電気の理論が分かっていれば大きなアドバンテージなんです。

そうすると、学生時代に学んだことはお仕事に活かされているんですね。

谷口:もちろんです。電圧が高い方から低い方に電流が流れるといったような当たり前の理論が、理屈ではなく感覚で理解できていることは、この仕事に携わる上で大きなメリットだと感じています。また、研究室では雷害を研究していましたが、建築の世界でも避雷は大きなテーマなので役立っています。

「こちらが、私が電気設備の設計を担当した、東京都千代田区にある複合ビルです」谷口さん。

「こちらは、写真集や専門書、雑誌などの資料が置いてある休憩スペースです。気分転換に来ることもあります」谷口さん。

オリジナルだと言い切れる建築物をつくりたい

今後の目標についてお聞かせください。

谷口:自分にしかできない設計をしたいですね。電気設備設計の仕事は多種多様な技術をうまくアセンブリして、新たな技術、価値をつくりだすというのがやりがいの一つですが、建築の中に一つでも自分オリジナルだと言い切れるものにチャレンジしてみたいと思います。

どんな設計者を目指していきますか。

谷口:枠にとらわれない広い視野を持った設計者になりたいですね。建築物の設備設計の仕事ですので普段はどうしても建物の中だけにとらわれがちになってしまうのですが、都市のスケールでの発想というのは常に意識していたいと思います。例えば分散電源をうまく配置してエネルギーを融通できないか、都市全体での取り組みを建物の中に落とし込むとどうなるのか、といった発想です。そうした大きい視野を持てる設計者を目指したいです。

電気工学を学んでよかったと思うのはどういう点ですか。

谷口:得体の知れないものへの興味が電気工学を学ぶきっかけでしたが、いまだに得体が知れないと感じる日々です。電気工学とは、技術が確立され伝統芸能的な側面もあれば、日々目覚ましく技術革新が続いている側面もあり、興味が尽きません。

最後に、電気工学を学んでいる学生の皆さんにアドバイスをお願いします。

谷口:社会は劇的なスピードで変化しており、特に東日本大震災以降は、社会全体のパラダイムが大きく変わってしまったという感じがします。その中で社会に出て行くことに、恐れや焦りを感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、日々の学生生活の中で地道に学業を続けていればスピードの速い社会の動きに追従できる基礎体力が自然と培われていくはずです。自分の進みたい方向も自ずと見えてきますので、ぜひ日々の生活を充実させていただければと思います。

力強いメッセージをありがとうございます。本日はどうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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