電気工学で、地球環境を守りたい。

2012年4月25日掲載

今回ご登場いただくのは環境省の第一線で活躍中の、彦坂早紀さん。電気工学と環境省。直接には関連がなさそうですが、現在、電気工学の知識を生かしてリサイクル関連の施策に取り組んでいらっしゃいます。電気工学の研究活動を経た彦坂さんがなぜ環境省を選んだのか、とても興味深いお話をうかがうことができました。

プロフィール

2008年3月
早稲田大学 理工学部 電気・情報生命工学科卒業(大木研究室
2010年3月
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 電気・情報生命専攻修了(大木研究室
2010年4月
環境省入省(2010年4月~)
現在
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課適正処理・不法投棄対策室に勤務(有害廃棄物等の輸出入管理に関する業務)

※2012年1月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

「環境問題を解決したい」という夢を持っています

彦坂さんが電気工学を勉強しようと思われたのはなぜでしょう。

彦坂:私には昔から、環境問題を自分の手で解決したいという夢がありました。例えば電気をつくる際には多くのCO2が排出されますが、これも地球温暖化の一因とされています。しかし、電気は私たちの生活に不可欠ですからなくすわけにはいきません。ならばCO2を排出しない新しい発電方法を生み出せないかと思うようになり、その手段として電気工学を学ぼうと決心しました。

早稲田大学では誘電体の研究で知られる大木義路先生の研究室に入られましたね。

彦坂:電気の研究で環境問題解決に貢献するとなると太陽光発電などがありますが、その方面はもう既に多くの先人がいらっしゃいます。それに対して大木研究室では、植物由来の材料を使った絶縁材料で環境負荷低減を目指す研究を行っていました。非常に新鮮なアプローチであり、誰も手をつけていない分野を自ら開拓していくことができると考えて、大木研究室に入ることを決めました。

研究室に、他に女性はいらっしゃいましたか?

彦坂:ゼロではありませんが、ほとんどいなかったですね。1学年に1人いるかどうか。ただし、それで苦労したことはなかったです。

環境負荷の低い送電線の絶縁材料を研究

大木研究室での彦坂さんの研究について、具体的に教えてください。

彦坂:テーマは、電力ケーブル等に使われている絶縁材料を、低環境負荷でより絶縁性の高いものにしようという研究です。絶縁材料はあらゆる電気・電子機器、デバイスに用いられる基幹材料で、従来、絶縁材料には石油系のポリエチレンなどが使われてきました。その代替品として私が注目したのが植物由来の「ポリ乳酸(※)」という材料です。従来の絶縁材料をこの材料に置き換えることで、石油資源の消費抑制や廃棄時のCO2の抑制などにつながると考えたのです。

※ポリ乳酸とは、生物由来の原料から作られるポリマー(有機化合物の分子が重合して生成する化合物)の一種。

石油の代替品の研究ということは、まさに環境問題の解決に直接貢献できる研究ですね。

彦坂:そうですね。ただ、このポリ乳酸という材料は熱処理をすると結晶化する性質があるのですが、絶縁性をよくするためには化学的な組成を変えるアプローチも必要で、それには化学的な知識が必要になるわけです。

電気だけでなく様々な切り口で問題をとらえなければいけないと。

彦坂:ええ。また、大木先生が先駆的に取り組んできた分野なので参考文献も非常に少なく、苦労しました。でも、だからこそやりがいと達成感も大きかったと思います。

研究は実験がメインでしたか。

彦坂:はい、実験研究です。たまに失敗することもあって、装置が壊れてしまったこともありました(苦笑)。研究するまで機械に触れることはあまりなかったので、大変でした。先輩に教わりながら、回路をはんだごてを使って直したりすることも、苦労しましたね。

そういうご苦労が実って、2008年に電気学会東京支部『電気学術女性活動奨励賞』を受賞されました。

彦坂:ポリ乳酸を使った絶縁材料の研究は学部4年生の時から始めました。大木先生が「どんどん学会に発表しなさい」という先生だったおかげで、学会発表を行うチャンスが多くあり、そうした発表活動と自分の研究実績が評価されてのことだと思います。

海外の学会は行かれましたか。

彦坂:カナダのケベック州で発表してきました。原稿は当然英語で、質問も英語でした。ちょっとよくわからないところもありましたが、身振り手振りも交えて何とか答えることができました。そういう場所で成果を発表できるというのは自分の研究に対するモチベーションアップにつながりますね。

世の中全体に貢献できるスケール感がある

大学院修了後、2010年に環境省に入省されましたが、工学部系の研究室の就職先としては少し異質な気もしますが。

彦坂:確かに電気工学ということでは電力会社やメーカーへの道が一般的でしょう。しかし、環境問題の解決というライフワークを考えた場合、電気工学の枠内にとどまらず、化学系など多様な方面からアプローチしていく必要があると思いました。加えて、環境問題に取り組むには日本を牽引する様々な方々との協力が不可欠ですから、それには環境省という場が最適ではないかと考えました。

なるほど。それで環境省に入られて、配属されたのが廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課適正処理・不法投棄対策室に配属になったわけですね。

彦坂:はい。ここで、有害な廃棄物の輸出入の規制を担当しています。有害廃棄物の輸出入や処理方法を国際的に規制するバーゼル条約というものがありますが、それを国内で法律として適用している「バーゼル法」と「廃棄物処理法」という法律の運用に携わっています。

具体的に教えていただけますか。

彦坂:廃棄物というと不要品、捨てる物というイメージがありますが、一方で、実は大きなビジネスになっています。なぜなら、使い終わったパソコンや携帯電話等の廃棄物の中には希少金属(レアメタル)が含まれているからです。また、日本には高度なリサイクル技術があるので、その技術を使って海外から汚泥を輸入して、その中から金などの貴金属を回収もします。しかし、その処理が適正でないと有害物質が垂れ流しになったりして、環境汚染や健康被害を生じることがあります。このような有害な廃棄物の輸出入に際して、輸入国で有害な廃棄物を環境上適正に処理ができる場合にのみ輸出してよいと国際的に定めているのがバーゼル条約です。

彦阪さんは具体的にどのようなお仕事をされていますか。

彦坂:私は、こうした廃棄物の輸出入に関する審査や、不正な輸出入を防ぐためにどういう対策をすべきかの検討などを担当しています。

相手のあることですからそう簡単ではないでしょうね。

彦坂:そうですね。解決策を探っていく中で、経済産業省など他省庁との調整が必要だったり、輸出入なので相手国の環境省とのやりとりも必要だったり、決まったルールの中でどうやって納得できる対処をするのかが難しいです。特に前例のない事態が起きると、大変ですね。

2年近くお仕事をされてみて、一番印象に残っているのはどういう出来事ですか。

彦坂:まさに今取り組んでいることですが、使用済みの電気電子製品「E-Waste(※)」の輸出入時の取り扱いについての適正なルール作りです。E-Wasteには鉛やカドミウム、水銀といった有害物質が含まれる一方、金や銀といった非常に価値の高い金属も含まれています。しかし、これらの金属を回収するとき、適切に処理しなければ、環境汚染につながってしまいます。こういったE-Waste問題には、電機メーカーや精錬会社、輸出業者などが関わっていて、ルール作りが多くの関係者に影響を及ぼすことになります。そうした影響力のある仕事に携わっているという思いが強いです。

※E-Wasteとは、電気・電子製品の廃棄物(Electrical and Electric Waste)のこと。E-wasteには電鉛や、カドミウム、水銀等の有害な物質が含まれているものがあり、場合、途上国等においてE-wasteの不適正な処理による環境汚染や健康被害が問題となっている。

なるほど。やりがいは大きいでしょうね。

彦坂:ええ。環境汚染を防ぐのはもちろんのこと、資源の確保という日本の経済的なメリットにも貢献できます。環境省の今の仕事は様々な分野に良い影響を及ぼしていると思うので、大きなやりがいがありますね。こうして世の中全体を見て仕事ができるというのは、国家公務員ならではだと思います。

環境分野には電気の専門家が不可欠だと思います

学生時代の研究が現在のお仕事につながっている部分はありますか。

彦坂:直接はつながってはいないと思います。ただ、このE-Wasteに関連してEU(欧州)では「WEEE指令」という指令が制定されています。電気の知識がないとこの指令を読もうとしても苦労されると思うのですが、私は電気工学のバックグラウンドがあるので読んですぐに理解することができます。

電気は私たちの生活の基盤になっているので、どんな仕事でも生かせますね。

彦坂:そうですね。私の場合ですと、仮に地球温暖化対策を行っている地球環境局という部署に配属されたとしても、太陽光発電や風力発電といった電気そのものに接することができます。本当に電気って守備範囲が広いのです。もっといえば、他省へ出向したとしても、電気の知識を役立てる部分は必ずあるはずです。

実際、環境省内に電気工学出身の方って他にいらっしゃるのですか。

彦坂:私の知っている範囲ではいません。「どうして環境省に電気工学の専門家が居るの?」と言われるくらいですが、私としてはむしろ環境問題は電気と深く関係しているので、電気の専門家がいないのが逆に不思議なくらいです。例えば、電力会社やメーカーの方と専門的な話をするには、行政にも技術のわかる人間が必要になりますから。

振り返ってみて、電気工学を学んでよかったと思うのは、どんなことでしょう。

彦坂:電気って100年後も必要とされる分野です。絶対になくならない。東日本大震災で電気の重要性が再認識されましたが、電気はいつの時代にもとても大切なものです。それを思うと、改めて電気工学を勉強していてよかったなと思います。また、電力会社や電機メーカー、私のような行政など必要とされる場が多いのも魅力ですよね。何の仕事にも通じる、どんなことでもできるというのも、電気工学を学ぶ魅力の一つではないでしょうか。

今、東日本大震災のことに触れられましたけれど、がれきの処理問題などもお仕事に関係がありますか。

彦坂:私の現在の業務ではあまり関わりはありませんが、環境省ではがれきの処理、除染作業などに取り組んでいます。

本日はどうもありがとうございました。行政の中で、電気工学の専門家の役割は実際とても重要であることがよくわかりました。彦坂さんの今後のご活躍をお祈りいたします。

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