世の中ではじめての電力機器をつくりたい

2010年11月30日掲載

総合電機メーカー、東芝グループの社会インフラ事業を担う、電力流通・産業システム社。東芝府中事業所は、東芝グループの生産拠点のひとつで、産業機器、鉄道車両などの開発・製造を行っています。今回、取材させて頂いた加藤健二さんは、電力機器の一つ「真空遮断器」の開発をしています。

プロフィール

1999年3月
名古屋大学 工学部 電気・電子学科(松村研究室)卒
2001年3月
名古屋大学大学院 工学研究科 電子情報学専攻修了
2001年4月
株式会社 東芝入社 府中工場 スイッチギヤ部配属
現在
株式会社 東芝 府中事業所 スイッチギヤ部

※2010年9月現在。インタビュー中の敬称は略させて頂きました。

半導体研究で世紀の大発見?

電気工学を志望された理由を教えてください

加藤:もともと文系科目より理系科目のほうが得意だったので工学部を選びました。工学部の中でなぜ電気工学を選んだかと言いますと、一番興味を持てそうな学問だったからです。

興味を持てそうだったのは、どうしてですか。

加藤:身の回りにある全ての電化製品は電気がないと動きません。では、自分がどれだけ電気のことを知っているのか疑問に思いました。例えば、中学・高校の理科で簡単な電気の発生メカニズムを習いますが、「電圧をどうやって発生させるのか」など、突き詰めてみると分からないことだらけでした。選択肢に様々な学科がありましたが、一番深く知りたいと思ったのが電気工学でした。

研究室では、どのような研究をされていましたか。

加藤:大学院のときは、半導体を製作する際の条件作りの基礎研究をしていました。ものすごく小さい半導体チップに複雑な回路を書き込む工程、エッチングと言われるものですが、効率的、かつ安価にエッチングするための研究を行っていました。

何か印象に残っている出来事はありますか。

加藤:私の研究結果がよかったらしくて、教授がすごく喜んでくれました。「どうしたんですか」と聞いたら、「これは大発見だよ」と言われたのです。でも、そのとき自分ではどういう大発見をしたのか、さっぱり分かりませんでした(笑)。

どのような大発見だったのですか。

加藤:真空中にいろいろなガスを注入して放電させ、発生したイオンや電子を利用して半導体にエッチングをしていく研究でした。今までエッチングに使用していなかったイオンで良い結果がでたようで、先生が興奮されていました。まぁ、世紀の発見というわけではないと思いますが(笑)、少しでも半導体の進化に貢献できたのは嬉しかったですね。

学部時代の研究室の思い出を教えてください。

加藤:名古屋大学の工学部、特に電気工学系の研究室は歴史があるので、設備がとても豊富でした。例えば、雷を発生させる装置などもあって、充実した研究ができるという印象を受けました。

加藤さんの研究室はいかがでしたか。

加藤:私が在籍していた研究室にはレーザー設備がありました。びっくりするほど高価な設備でしたが、それを自由に使わせてくれました。テレビでもたまに紹介されるので、最初はびくびくしながら使っていましたね(笑)。

やっぱり電気がやりたい!と思って、東芝へ入社

東芝に入社された理由を教えてください。

加藤:学部4年生のときに研究室OBの方から東芝府中工場見学の誘いを受けました。東京にはほとんど行ったことがなかったのですが、地図を渡されて名古屋から上京しました(笑)。工場見学で丁寧な説明をしていただいて、いい会社だなと思って決めました。あと、自分が担当している製品の全てに係わることができると聞いて魅力を感じました。

半導体の研究をされていましたが、なぜ電力関係のメーカーを志望されたのですか。

加藤:電気・電子・情報が統合された学科だったので、研究分野の選択肢はいろいろあり、大学院のときは電子工学系の研究をしていました。ただ、元々、電気工学の勉強がしたくて名古屋大学に入ったこともあり、電気工学に関わる仕事がやりたくて東芝を志望しました。

他の学科に比べて、電気工学の魅力とは何ですか。

加藤:基本的な原理原則は他の学科に比べてシンプルだと思います。ただ、シンプルではあるけれども、コンセントで使う電気機器から発電所の発電機まで、小さいものから大きいもの多種多様なところに応用されているのが魅力でした。

高電圧を瞬時に止めるブレーカー、真空遮断器をつくる

現在の仕事内容を教えてください。

加藤:発変電所、鉄道、工場、ビルなどには遮断器と呼ばれる電力機器が設置されています。私は、遮断部に真空を用いた「真空遮断器」の開発設計を手掛けています。

遮断器とは何ですか。

加藤:何か電気的な事故が起きたときに流れる大電流を遮断するための設備です。家庭用のブレーカーと役割は同じです。ただ、家庭の電圧が100Vに対して、工場などの電圧は7,000Vと高電圧ですので、それに対応できる製品の開発をしています。

仕事の流れを教えてください。

加藤:お客様の注文を聞いて、試作品の設計、解析、検証を行いながら開発をしていきます。検証項目が非常に多いので、開発するまでの期間が1年、2年になります。

(写真1 真空遮断器(7,000V 25kA)の遮断部)

どのような真空遮断器の開発を目指していますか。

加藤:このクラスの真空遮断器(写真1)ですと、およそ25kAの電流を遮断することができます。設置場所の省スペース化や省エネルギー化が求められていますので、なるべく小型で大電流を遮断することができる真空遮断器の開発を目指しています。

加藤さんが開発した真空遮断器には、どのようなものがありますか。

加藤:私が開発した中で印象深いのは、固体絶縁方式を採用した36,000Vの遮断器です。産業界や学会から注目を浴びました。

これまでの仕事において印象に残るエピソードがあれば教えてください。

加藤:エピソードというより苦労話ですが、新しい型式の真空遮断器を製品化する前に実施する社内試験のやり直しが非常に多いのです。計算上は正しいのですが、なぜかなかなかうまくいきません(苦笑)。でも、それが開発者の醍醐味かなとも思っています。

世界最大100kA遮断できる真空バルブ

学生時代に学んだ電気工学の知識は、どのように活かされていますか。

加藤:学部時代に遮断器の基礎的な知識は習得しました。大学院時代は、真空状態をつくり出すプロセスを理解することができました。半導体と電力機器は、直接はつながりませんが、研究過程で色々と共通点がありました。ですから、学生時代に学んだ知識が今の自分の仕事に非常に役立っています。

電気は、イマジネーションが必要なクリエイティブな学問です

今、振り返って電気工学を学んでよかったと思うことは何ですか。

加藤:やはり、今の仕事に就けたことですね。電気工学を専攻していなかったら、この仕事には就いていなかったと思います。遮断器は社会インフラに必要な設備です。注目はされていませんがないと困るものなので、仕事として非常にやりがいがあります。

これから電気工学を学ぼうとする学生へのメッセージをお願いします。

加藤:電気は社会にとってなくてはならない重要なものなので、やりがいを感じる研究ができると思います。また、電気工学は完成された学問と思われるかもしれませんが、まだまだ解明されていないことがたくさんあるので、研究しがいのある分野だと思います。

第51回(平成16年度)大河内記念生産賞を
受賞した「固体絶縁スイッチギヤ」と。

解明されていないこととは何ですか。

加藤:真空遮断器の例ですと、アーク放電()に関する現象がまだ完全には解明されていません。現象が解明できればノーベル賞をもらえるのではないかと思えるぐらい複雑です。このように電気にはまだまだ色々な不思議がありますので、ぜひチャレンジをしてほしいですね。

電気はまだまだ研究の余地がある学問であると。

加藤:はい。それから、電気は目に見えないので、理論を理解した上で自分の推測や想像が本当に正しいのかを突き詰めていく面白さがあると思います。私も自分なりのイマジネーションを加えて新製品を製作しています。非常にクリエイティブな世界なので、研究していて楽しい分野だと考えています。今後も、あっ!と驚かれる真空遮断器を世に出したいですね。

本日は、真空遮断器の開発現場の裏話や電気工学への思いを聞くことができて、大変勉強になりました。どうもありがとうございました。

※)アーク放電とは気体中の放電現象の一種。電流の通り道が弓なりになって放電しているところから、アーク(弓形)放電と名づけられた。溶接、切断、放電加工、蛍光灯などに使用されている。

松村 年郎  教授(まつむら としろう)

国立/愛知県
名古屋大学大学院 工学研究科 電子情報システム専攻 電気工学分野 エネルギーシステム講座 大電流エネルギー工学研究グループ

松村 年郎 教授(まつむら としろう)
当研究室は、1995年開設。名古屋大学創設以来の電力関係の講座を引き継ぎ、大電流・エネルギーをキーワードとして、電力機器・電力システム分野の研究と教育に携わっています。当研究室に所属したほとんどの学部生は大学院に進学し、これまでに100名を超える若者が研究室を巣立っています。2008年度は、スタッフ4名、博士課程後期課程4名、同前期課程9名、学部5名の、総勢22名が活動しています。また、他大学や他学科の進学者も毎年います。

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