製鉄現場を電気技術者として支えたい。

2013年4月26日掲載

新日鐵住金株式会社は、昨年2012年10月1日に、鉄鋼大手の新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社が合併して誕生しました。名実共に世界トップレベルの鉄鋼メーカーとして世界中の注目を集めています。今回インタビューに登場していただいた大谷さんは、入社以来、製鉄現場の設備の改善や保守などを中心にご担当されています。電気工学と“鉄”の密接な関係や、業務内容、やりがいなどを熱く語っていただきました。※本取材は、茨城県鹿嶋市にある新日鐵住金株式会社鹿島製鐵所で行いました。

プロフィール

2005年3月
茨城大学工学部電気電子工学科卒業(鵜殿研究室)
2005年4月
住友金属工業株式会社入社
2005年6月
住友金属工業株式会社鹿島製鉄所 制御部制御技術室配属
2013年1月現在
新日鐵住金株式会社鹿島製鐵所 制御部制御技術室に勤務

※2013年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

将来の可能性を広げるために電気の道を選びました

大谷さんが電気工学の道を志した理由を教えていただけますか。

大谷:昔から数学の計算や論理的なことが好きで、その延長線上にあったのが電気工学だったんです。一方で情報工学にも興味がありました。ちょうどITブームになっていた頃で。ただ、電気工学の知識を身につけておくと職業選択の幅が広がって、自分のやりたいことが主体的に選べるのではないかと考えました。

就職のことは考えられましたか。

大谷:そうですね。やはり安定性という点では、電力会社や電機メーカーは就職先として魅力的でした。そんな思いもあって最終的に茨城大学の電気電子工学科に進もうと決めました。

大学では、半導体材料の溶融合成法の研究で知られる鵜殿治彦先生の研究室に入られたそうですね。

大谷:はい。研究テーマは、「溶融法によるβ-FeSi2結晶の大型化」でした。β-FeSi2とは、鉄(Fe)とシリコン(Si)の元素から構成されているベータ鉄シリサイドのことです。資源量が豊富で環境に無害であることから「環境半導体」と呼ばれて、注目されています。その結晶の安定した生成方法を検討し、実際に生成容器を作成して実現することが、研究テーマでした。

イメージとしてはシリコンウェハーの代用品を開発するということですか。

大谷:まさにその通りです。結晶そのものをつくる方法は確立されていますが、それをいかにしてシリコンウェハーのように安定的に大型化するかに取り組んでいました。

意義深い研究でしたね。

大谷:はい。特に印象に残っているのは、β-FeSi2結晶が生成される様々な形状のカーボン容器を、旋盤やサンドペーパー等を使用して作成したことです。カーボン粉で耳や鼻の中まで真っ黒になりながら、負荷をかけないように丁寧かつ慎重に作業し、ようやく容器を完成させた時は大きな達成感がありました。

体全体で取り組んだ研究ですね。失敗もあったと思いますが。

大谷:ええ(苦笑)。特に、鉄とシリコンを入れて真空にして封止し、1,100℃から1,200℃まで1週間ほどかけて少しずつ温度を上げて結晶をつくるという作業では、その調節が難しくてよく失敗していました。誤って、一瞬、電源端子に触れてしまった時は手がしびれて、改めて電気の恐ろしさを実感しました。もちろん今は安全に対して厳格に取り組んでいますので、こうした失敗はあり得ませんが。

工場見学で出会った新しい世界へ飛び込みました

大学を卒業されて新日鐵住金、当時の住友金属に入社されました。その経緯を教えてください。

大谷:研究室での研究内容がどちらかというと化学系のものでしたから、その経験を活かしたいと思って最初は材料系のメーカーばかり受けました。しかし、なかなか就職に結びつかなかったので、就職担当の教授に相談しました。そこで薦めてもらったのが住友金属でした。

ということは、想定していなかった会社を薦められたと?

大谷:正直に言いまして、まったく考えていませんでした(笑)。ただ、私は茨城県の鹿島出身ですので、住友金属は地元の大きな会社という認識は持っていましたし、教授も「とりあえず見てみたら」と言うので、それならと工場見学に行ったんです。

工場見学がきっかけだったのですね。

大谷:そうです。そうしたら、自動車300台分の鉄の成分調整をする際にppm(百万分の1)オーダーで制御を行っている様子を見て、これはすごいと驚きました。大変な量の鉄を扱っているから一見ダイナミックに映るんですが、実際にやっている制御は非常に繊細で緻密です。これは面白いなあと感銘を受けました。それに変圧器やモーター、インバーターなどあらゆる電気機器を使用するので、幅広い電気の知識も求められるわけです。そうした点にもひかれて、入社を決めました。

製造部門の支援に、大学で学んだ電気工学の知識を生かす

2005年に入社され、現在まで制御部制御技術室に配属されています。仕事内容を教えていただけますか。

大谷:当社は鉄鋼メーカー(※)になるわけですが、私が所属しているのは製造部門を支える間接部門で、設備を通じて操業者たちを支援していく業務です。その中で私が担当しているのは、電気設備の新設及び改善による操業改善と、電気設備の保守計画です。前者は新しい設備の導入や既設設備の改善によって品質向上、歩留(ぶどまり:生産されたすべての製品に対する、不良品を除いた製品の割合)改善、能率アップ等を実現するために、電気機器の設計、製作メーカーとの折衝、設備立上げなどを行っています。後者は各電気機器の寿命を見極め、中長期的に更新計画を立案し、その計画に則って設備更新を実施していく業務です。

少しわかりやすくご説明ください。

大谷:鉄鋼業の中の電気技術者というのは、学生さんにはわかりづらい仕事かもしれませんね。大きな流れとして、例えば新規の場合、自動車メーカーから営業経由でこういう仕様の鉄が欲しいというオーダーがきて、操業者はそれにはこういう設備が必要だと私たちに依頼してきます。それを受けて私たちは「このモーターは何キロワットで、防塵仕様にしてください」など設備メーカーさんに発注するわけです。

改善とはどんなことをやるのですか。

大谷:改善とは、例えば製鋼工程で排出される鉄粉などを集塵するブロワーを、操業していないときは回転数を落とせば省エネにつながるというような提案を行いました。また、保守について屋外仕様の巻き線型モーターの更新計画を担当しました。このモーターは、万一止まると工場全体が操業できなくなるほど重要な設備なので、絶対にトラブルが起きないように、入念な更新計画を立てなくてはなりません。その提案を行いました。

電気工学の専門家としての知識が十分に発揮できるお仕事ですね。

大谷:はい、そうだと思います。今お話しした設備の仕様を決めるのに、容量や効率がどのようにするかを検討する上で、電気工学はベースとして絶対に必要な分野です。発注先のメーカーとの打ち合わせでも当然電気的な知識は必要です。

お仕事のやりがいはどんなところに感じていますか。

大谷:間接部門ですから、やはり現場の人から感謝の言葉をもらうのが一番嬉しいです。トラブルが発生した際は原因をよく追及し、他にも不備がないか水平展開していきますが、それによって現場の作業者に負担をかけずに解決できた時には、「大谷君のおかげで問題が解決したよ」という言葉をもらいました。

そういう言葉は嬉しいですね。

大谷:はい。こんなふうに現場の作業者の意見を聞いて改善計画に結びつけることが必要ですので、私は工場に足を運ぶことを大切にしています。現場の声をいかに聞き出すかということに対しては、かなり重みを置いて取り組んでいるつもりです。

大谷さんが手がける電気設備「転炉」

大谷さんが手がける電気設備「連続鋳造設備」

震災からの早期復旧を目指して高炉の再稼働に挑む

東日本大震災のときは茨城県も多大な被害がありました。鹿島製鐵所はいかがでしたか。

大谷:結論から言いますと、所内設備のほとんどがダメージを受け完全復旧には相当な時間を要すると思われましたが、会社全体が協力し合ったことで、困難と言われた早期立ち上げも実現できました。

それは良かったですね。大谷さんが手掛けられたことを教えてください。

大谷:鉄は放っておくと固まってしまうので、高炉は24時間操業です。ところが、この止めることが許されない高炉が、震災で止まってしまったのです。私が担当していたのは溶けた鉄を次の工程に運ぶトーピード・カーと呼ばれる機械で、200トンほどの溶けた鉄が入っています。これをそのまま放っておくと完全に固まってしまうので、何とか取り出さなくてはなりません。トーピード・カーはモーターで回転していて、通常は溶けた状態の鉄が入っていますが、鉄が固まり始めると重心が変わってくるので、回転させるために通常より大きいトルクが必要になってきます。そのあたりを検討して、何とか取り出すことができました。小さいモーターで回しているところに大きいモーターを取り付けるというのは大変に難しいことなのですが、なんとかうまくいきました。

復旧にはどれくらいかかりましたか。

大谷:大きな被害を受けた設備を元の状態に戻すには、全機を健全な状態に戻さなくてはならないので、ものによっては復旧までに3ヵ月ほどかかりました。我々は設備屋なので一刻も早く機械が動くようにする使命がありました。無我夢中でしたね。

鹿島製鐵所を一番の製鉄所にしたい

入社されて8年が過ぎましたが、これからどんなことに取り組みたいですか。

大谷:私は制御設備の技術者ですので、間接的ではありますが、製品づくりを通じて会社に貢献するというのが使命です。そのために他の製鉄所に負けないような、最も効率のよい工場を目指したいと思います。今まで8年間、設備の改善に携わってきて、それはもちろんやりがいが大きくて思い入れのある仕事ばかりだったのですが、やはりいつかは自分の手で新しい工場をつくってみたいという思いがあります。だから新工場の建設プロジェクトを1から設計し、トップランナーの工場として立ち上げることが夢です。それで統合の理念である“Best for the New Company”の実現に貢献できれば最高でしょう。

その統合ということでは、住友金属から新日鐵住金に変わって、どんなことを感じていますか。

「新日鉄住金は、大河内賞(※)などの権威あるモノづくりの賞を数多く受賞しています。いつかは自分が手掛けたものも!」大谷さん

大谷:今回の統合によって、旧・新日鐵系の君津製鐵所などが新しくライバルになりましたが、皆さん、非常に高いレベルの技術を持っています。大変な刺激になり、モチベーションが上がりましたね。もちろん今は同じ会社の一員なので技術の共有も進めていますが、他の製鉄所には負けないぞ、鹿島製鐵所が一番になるんだ、という思いが一層強くなりました。

※わが国の生産工学、生産技術の研究開発、および高度生産方式の実施等に関する顕著な功績に対して贈られる賞。
http://www.okochi.or.jp/hp/f02.html

鉄鋼業が発展するためには、電気技術も発展しなければならない

これから電気工学を学ぼうという皆さんにメッセージをお願いします。

大谷:モノづくりをする上で電気設備の導入、稼働は不可欠であり、その電気設備を安全かつ安定的に使用するためには私たちのような電気制御技術者が不可欠です。また、省エネや効率改善等のコストに直結する提案、実行を通じてさらに自分の社会的価値を高めていくこともできるでしょう。電気工学を学ぶことで、製造業だけでなく幅広い分野での活躍が期待できるのではないでしょうか。

日本という資源の少ない国でモノづくりをする上で、電気工学の知識は重要ですね。

大谷:そう思います。素晴らしい技術を生かして製品をつくるためには、電気制御技術は絶対に必要なので、電気技術者はどこでも活躍できるはずです。いくら先進の技術があっても、それをモノとしてつくりあげる技術がなければ絵に描いた餅になってしまいますからね。電気技術者を目指す皆さんにもそうした自信、誇りを持っていただきたいと思います。

自信と誇り。いい言葉ですね。

大谷:私の所属する製鉄の世界でもそうですが、鉄の技術を進化させるには、電気技術も隣り合わせで進化しなくてはなりません。そこに私の電気技術者としての誇りがあります。当然、ベースとなる知識は電気工学です。

今日はどうもありがとうございました。これからも製鉄の技術を支える電気技術者としての大谷さんのご活躍に期待します。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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