金属ワイヤーで宇宙からのささやきを知る

2017年9月29日掲載

尾崎 光紀(おざき みつのり)

金沢大学 理工研究域 電子情報学系 准教授

2004年4月
金沢大学工学部情報システム工学科 卒業
2005年9月
金沢大学大学院自然科学研究科電子情報工学専攻博士前期課程 早期修了
2005年10月~2007年3月
第47次南極地域観測隊 越冬隊員(兼 金沢大学自然科学研究科 助手)
2009年3月
金沢大学大学院自然科学研究科電子情報科学専攻博士後期課程 早期修了
2009年4月
金沢大学理工研究域電子情報学系 助教
2013年12月
金沢大学理工研究域電子情報学系 准教授

主に低周波磁界計測システム(科学衛星、ロケット、地上観測、EMC)、宇宙用アナログASIC、落雷位置検出の開発研究に従事

自然のなかの電波

電流が時間変化すると電波が放射されます。電気回路、電子回路の電圧、電流がオームの法則で数学的に記述できるように、電波の振舞いはマクスウェル方程式で数学的に記述できます。この電波を人工的に制御し、無線電力伝送、人工衛星(気象、放送、通信、位置情報など)サービス、高速大容量無線通信などが提供されており、これからのIoT(Internet of Things)社会促進に向けて電波の高度利用はますます重要となっています。一方で、自然現象に伴う電流変化によってもさまざまな電波が放射されており、例えば雷放電は強烈な電波パルスを放射し、また地球周辺宇宙のプラズマ(電子とイオン)の揺らぎにより微弱な自然電波が放射されます。地球周辺の宇宙は何もない真空ではなく、電子とイオンで構成されるプラズマが存在しています。高いエネルギー状態(高温)のプラズマは放射線となり、人工衛星が飛び交う静止軌道までの宇宙において、地球の磁力線に捕らわれた放射線帯の存在が知られています。放射線は、ヒトに健康被害を与えるだけでなく、電子機器の劣化や故障などを誘発します。このため、放射線帯の動向を知ることは、地球の周りを飛行する人工衛星の安心安全なサービスを提供する上で極めて重要です。そして、この放射線帯の形成、消失は活発な電子やイオンの運動=電流変化を伴うため、自然電波が放射されています。つまり、宇宙で発生する自然電波をモニターすることは、宇宙の放射線環境を知るうえで有用な情報源となります。

宇宙の電波のささやき

我々は、この放射線帯形成と消失に深い係わりがあると考えられている自然電波を複数の地上観測局と2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星あらせ(図1)で観測しています。図2はあらせ衛星で観測された放射線帯形成と深く関係していると考えられているコーラスと呼ばれる自然電波です(赤い色が強い電波を表しており、時間と共に周波数が上昇するような変動を示しています)。音で聞くと鳥のさえずりのように聞こえるため、コーラスと呼ばれています。学生だったころ、このコーラスを音に変換して聞いたときに、人工的な美しいさえずりが、自然現象で生じていることに大変驚いたことを記憶しています。地球に近い宇宙で発生するコーラスは地球磁力線に沿って伝わるという性質があるため、地上でも計測することが可能です。このため、我々は名古屋大学や国立極地研究所などと協力してある緯度をぐるりと経度方向に一周するような電波観測局の構築を北半球で進めており(PWING webページ)、24時間どの経度でコーラスが活発に発生しているかを捉え、放射線帯形成との関連を研究しています。

図1:あらせ/ERG衛星イメージ図(JAXA/ERGプロジェクトより)

図2:あらせ衛星で観測されたコーラス

あらせ衛星で観測されたコーラス

金属ワイヤーで宇宙を知る

コーラスを計測するにはアンテナという素子を用いて電波を電気信号に変える必要があります。世の中には多種多様なアンテナが存在し、その一つとしてファラデーの電磁誘導の法則に基づいたアンテナがあらせ衛星と地上観測で使用されています。この使用されているアンテナは、私たちの研究室がリードして開発研究を進めてきました。銅線コイルに磁石を近づけたり遠ざけたり(磁界の時間変化)すると、銅線コイルの両端に電圧が生じるのと同じように、アンテナを構成する金属ワイヤーの輪っかをコーラスが突き抜けると、電圧変化として検出できるようになります。宇宙で発生したコーラスの強さは、地上に到達するまでにとても弱くなってしまい、人間の心臓の収縮運動に伴う磁界と同じくらい微弱になってしまいます。このため、地上観測では金属ワイヤーの輪っかを大きくすることで雑音に埋もれないようにする必要があります。あらせ衛星のアンテナは長さ約0.2mですが、写真1に示すように地上アンテナの高さは5メートルを超えるものになってしまいます。これでも地上観測用としては世界的に小さいアンテナになります。実際には、綿密な雑音を加味したシステム設計が必要になりますが、我々が設計したあらせ衛星と地上用の両アンテナでコーラスを観測できたときには、とても感動しました。図3はカナダの地上観測点で検出したコーラスで、まさに、放射線帯での電波のささやきを地上で捉えることができたことを示しており、初めて観測されたときには大変興奮しました。

写真1:アイスランドに設置されたアンテナと著者

図3:地上(カナダ)で観測されたコーラス

おわりに

この地上電波観測システムをアイスランド、ロシア、北米などに設置するために、さまざまな海外の観測所を訪問する機会を得ております。写真2のように多くの学生にも同行してもらい、貴重な海外での観測研究の一端を経験することで、研究能力だけでなく、英語の重要性、リーダーシップの育成など将来の高度専門職業人に求められる能力を学生らが身に付ける一助となっていることを期待しています。また、あらせ衛星の電波観測機開発で培った放射線環境下での計測技術に関して、我々はアナログ集積回路の耐放射線特性向上に関する研究に着手しております。高い線量下では、システムは電気特性の劣化を防ぐために厚い金属で覆うなどのシールドを施し、かつ誤動作防止のために同じシステムを複数準備するなどの冗長性を強いられます。これを解決するには、システムを構成する電子回路自身が放射線に対して強い耐性を持ち、かつ集積回路のように超小型化すれば複数のシステムを準備することへの敷居を下げることができます。写真3はこれまでA4サイズ程度だった宇宙用電波受信機の一部を5 mm角のチップに納めたもので、電気特性を維持したまま宇宙環境で使えるまで超小型化することに成功しました。このように放射線耐性に優れた集積回路技術により、加速する超小型衛星サービス、高線量下での無人計測システムへの応用を通して社会に貢献していきます。

写真2:海外の観測所を訪れた学生の様子

写真3:超小型化を図った宇宙用電波受信機チップ

謝辞

あらせ衛星の電波観測機は、東北大学、京都大学、名古屋大学、富山県立大学、金沢大学、JAXA宇宙科学研究所、三菱重工、明星電気株式会社、日本飛行機株式会社と共同で開発しました。コーラスの地上観測の一部は、国立極地研究所、名古屋大学・宇宙地球環境研究所、アサバスカ大学(カナダ)との共同研究です。本研究に際して、関連する多くの研究者、技術者の皆様に感謝の意を表します。


電気工学のヒトたち