虫採りから学ぶこと ~観察・予測の重要性~

2013年2月28日掲載

飯岡 大輔

名城大学 理工学部 電気電子工学科 エネルギー環境研究室 准教授

2004年
名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了、博士(工学)
2004年
名古屋大学大学院工学研究科助手
2007年
名古屋大学大学院工学研究科助教

2009年8月~2010年3月 米国フロリダ州立大学 客員研究員

2010年
名城大学理工学部准教授、現在に至る

写真1 オニヤンマ

多くの子どもたちは、『虫採り』にとても夢中になる時期があると思います。わたしも小学生時代には熱心に虫を追いかけました。春はモンシロチョウ、秋はショウリョウバッタ、というように、季節の移り変わりとともに主役となる昆虫も変わります。虫採り網を持って、草むらなどを飛び回る昆虫たちを追っかけまわしたものです。

楽しかった昔の思い出ですが、今、再びマイブームです。小さい頃に楽しんだ虫採りですが、結婚して子どもが生まれ、今度はその子どもたちが虫採りに夢中になっています。

写真2 ギンヤンマ

そんな彼らのために少し山間の公園などに虫採りへ行くと、わたしの小さい頃のように、子どもたちは虫取り網を勢いよく振り回し、追っかけまわします。しかしながら、そこは修行が足りない幼稚園児です。彼らの技術はまだまだ未熟なため、目ぼしい虫を見つけては、闇雲に網を振り回しますが、なかなか成果はあがりません。そうすると、「ここは人生の先輩として、父親の意地にかけて、子どもたちが採れない昆虫をとってやろう」、と気合が入り、“ミイラ取りがミイラになる”ではないですが、子どもたちよりも夢中になって虫を追っかけまわす始末です。

写真3 ナガサキアゲハ

虫を追いかけていると、あることに気が付きました。当たり前の話で大変恥ずかしいですが、自分が子どものころよりも、虫採りテクニックは格段にアップしているのです。子どものころ、採ることなんて全くできなかったオニヤンマ(写真1)、ギンヤンマ(写真2)、ナガサキアゲハ(写真3)、など、極めて難易度の高い?と思われる昆虫たちを採ることができます。子どもたちにも褒められ、パパは大変満足です。

というような話でコラムを終わってしまうと、ただの虫採りオジサンの話になってしまい、皆様にお叱りを受けてしまうので、とりあえず、写真1と写真3の昆虫を捕獲したときの状況について考察してみました。

図1 オニヤンマ捕獲までの道程

写真1のオニヤンマ。まずはオニヤンマを鋭い目で追い続けます。オニヤンマの飛ぶスピードは大変速いのですが、よく見ていると、川べりを行ったり来たり、同じ場所を往復しています。そこでわたしは、摺り足でオニヤンマの軌跡に近づき、オニヤンマが通過する瞬間に併せてタイミングよく下からすくいあげるように虫取り網を手繰ると、見事に捕獲成功です。成功の秘訣は「観察+予測+虫取り網の正確な操作」になるのでしょうか。

写真3のナガサキアゲハですが、動きが速いだけでなく、風にも流されてフラフラしているので、観察していても全く彼の動きを読めません。だからといって、闇雲に虫取り網を振り回しても採れるわけがありません。粘り強く観察を続けると、木の枝の間を縫うように飛び回ったあとで、木の中から出てくる場合があることに気が付きました。もしかしたら、木の中から出てくる瞬間はこちらの気配に気づかないのではないかと思い、その瞬間を狙うことにしました。そのたびに何度もジャンプし、何度も失敗を重ねましたが、最後には見事に捕まえることができました。成功の秘訣は、オニヤンマの場合と同じで、「観察+予測+虫取り網の正確な操作」につきると思います。

オニヤンマにしても、ナガサキアゲハにしても、昆虫の動きを「観察」、「予測」し、「虫取り網を正確に動かす」ことによって、捕獲に成功しております。しかしながら、両者には大きな違いがあると思います。オニヤンマの動きを「予測」することは比較的簡単です。前述しましたが、オニヤンマの飛ぶ力は極めて強く、ちょっとの風ではオニヤンマの進行方向は変わりません。すなわち、オニヤンマの性格を見極めることで、捕獲への道がひろがります。一方、ナガサキアゲハだけではありませんが、チョウの場合、風の影響を受けやすく、チョウの飛ぼうと思う方向(があるのかどうかわかりませんが)と風の影響で、飛ぶ方向がフラフラしているのでは、と分析できます。すなわち、チョウの気持ちがわかるだけでは、チョウがどこに飛んでいくのか判別することは難しく、風などの外乱をある程度想定して「予測」することを考えなければいけないのです。

図2 ナガサキアゲハ捕獲までの道程?

少し唐突ですが、この話は電力の世界にも通じるところがあります。従来の電力系統では、風や光など自然の現象に関係なく、発電所を運転していました。もちろん、需要家がどれくらい電気を使うか、「予測」して運転しています。これは、オニヤンマがどこを飛ぶか、「予測」できていることに相当するのではないでしょうか。

一方、近年、太陽光発電や風力発電など、自然の力を利用した発電所が電力系統に導入されています。このような電源が増えると、電力系統を従来のような制御方法で運用することが難しくなる可能性があります。これは、太陽光発電や風力発電の発電電力を「予測」することがなかなか難しいことがひとつの要因だと思います。ナガサキアゲハの場合は、飛ぶ習性の他に、風という自然の動きを考慮して、ナガサキアゲハの動きを「予測」しなければいけない、というのが難問でした。

そんなことを言うと、虫を捕るときに風力予測や日射量予測をするのか?という話になりますが、さすがにそこまではしませんね。フラフラ飛びまわる虫を「待って~」という感じで追い回す日々が続いています。「風や日射量などの自然現象を考慮して虫がどこを飛んでいくのか見極めるサングラス?」が発明されることを願ってやみません。

図3 風力発電の発電量を予測する研究も盛んに行われています

冒頭で幼稚園児である息子・娘の虫採りテクニックは、まだまだ未熟だと言いましたが、この2年間で見違えるほど上達しております。春になると、虫採り3年目になる子どもたちと虫採りにいけるかな(みんな、一緒に行ってくれるよね?)と思うと、春が待ち遠しいです。冬を迎える今(原稿執筆時)、虫採り網を振り回すシミュレーションをしながら昆虫図鑑を子どもたちと一緒に眺めています。


電気工学のヒトたち