「留学」しよう!

2012年12月27日掲載

馬場 吉弘

同志社大学 理工学部 教授

1994年3月
東京大学工学部電気工学科卒業。
1999年3月
同大学院博士課程修了。博士(工学)。
1999年4月
同志社大学工学部 助手。
2001年4月
同志社大学工学部 専任講師。

2003年4月から2004年8月米国フロリダ大学 客員研究員。

2005年4月
同志社大学工学部 助教授(2007年理工学部 准教授)。
2012年4月
同志社大学理工学部 教授。

概要

フロリダ大学のあるゲインズビル市近郊の泉

フロリダ大学のあるゲインズビル市近郊の泉

今から10年近く前、大学で専任講師をしていた頃、私は米国に留学するという絶好の機会を得ました。米国の大学での研究の進め方や講義の仕方に関心がありましたし、私自身が今よりもずっと若く、元気も勇気も時間も十分にありました。また、「忙しくなる前に海外経験を」という上司の温かいご配慮もありました。留学先としては、フロリダ大学の雷研究室を選びました。フロリダ大学内を含むそこかしこには湖沼があり、そこには野生のアリゲータやカミツキガメが棲息していました。夜遅くに研究室から自転車でアパートに帰る際には、道路をアルマジロが闊歩していることもありました。週末には、冷たい自然の泉、静かなメキシコ湾あるいは荒波の大西洋に泳ぎに行ったり、現地で知り合った様々な国々の方とバーベキューやポットラックパーティを楽しんだりしました。

このようなリラックスした環境で生活したのは初めてで、様々な研究上のアイデアが浮かび、さらに、それらを具現化する時間も十分にあったため、研究も気持ちよく進めることができ、とてもすばらしい留学体験でした。

また奇跡が起こって、再び留学できる機会が得られないかと、今でも期待しています。

フロリダ大学

フロリダ大学(University of Florida)は、米国フロリダ州北部のゲインズビル市にあります。ゲインズビル市は、ディズニーワールドのあるオーランド市からは北に100マイルほどのところにあります。また、西に車で1時間ほど走ればメキシコ湾が、東に車で1時間ほど走れば大西洋があります。

フロリダ大学は州内に10以上もある独立した州立大学の1つで、州都タラハッシーにあるフロリダ州立大(Florida State University)と並び州内の最難関校として知られています。例えば、同大学工学部電気コンピュータ学科は、米国のABET(米国工学部教育 評価認定機関)のランキングでは毎年上位20位程度という高い評価で、フロリダ州のみならず米国全体から優秀な学生がこの大学に入学してくるようです。高輝度青色発光ダイオードの開発で有名な中村修二教授も25年ほど前に、この大学で1年間、客員研究員として過ごしたそうです。

フロリダ大学のキャンパス内を含むそこかしこには湖沼があり、そこには野生のアリゲータが棲息していました。アリゲータはフロリダ大学のシンボルにもなっており、スポーツドリンクのゲータレードはフロリダ大学で開発されたそうです。

フロリダ大キャンパス内

フロリダ大キャンパス内

フロリダ大玄関

フロリダ大玄関

雷研究室

フロリダ大玄関

キャンプブランディング実験施設入口案内

電力分野においてフロリダ大学と聞けば、真っ先に雷研究室と言われるのではないでしょうか。この研究室は、古くから雷放電に関わる重要な理論的、実験的成果を出し続けており、雷研究の世界の中心といえます。当時の陣容は、教授2名、講師1名、専門職員2名、大学院生8名と客員研究員1名(筆者)でした。研究室に所属している大学院生は助手として大学に雇用されていました。この雇用関係が結ばれれば授業料が1/10程度になるという利点があるようです。

雷研究室は、ゲインズビルから30マイルほど離れた軍事基地内に広大なロケット誘雷実験施設を有しており、夏の雷シーズンには、米国内はもとより各国から多くの雷研究者が集まってきます。ロケット誘雷とは、雷雲内の電荷により地表面電界がある値以上に高まったときに、導電性のワイヤに繋がれた長さ1メートルほどのロケットを打ち上げ、雷放電を特定の場所に誘う技術です。ロケット自体が、数キロメートル上空にある雷雲にまで突入する必要はなく、300メートル程度の高度に達すると、ロケット先端からリーダという放電が雷雲まで伸びていき、雷放電を導電性ワイヤの下端が繋がれた場所に引き込むことができます。したがって、本来は、いつ、どこに落ちるかわからない自然現象である雷を、ある程度、時間と場所を定めて落とすことができるため、雷電流の他、電磁界パルス、光、エックス線放射などの実測に利用されています。

キャンプブランディング実験施設ー試験用配電線

キャンプブランディング実験施設ー試験用配電線

キャンプブランディング内の誘雷用ロケット発射台

キャンプブランディング内の誘雷用ロケット発射台

私は、学生時代から電力システムや通信システムで生じる過渡現象や電磁両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility)に関する研究を行ってきました。雷放電がこれらのシステムでの過渡現象を引き起こしたり、EMCを乱す主要因の1つであるにもかかわらず、雷放電自体に関する知識がかなり欠落していることを痛感していました。論文や著書からも多くの重要な情報を得ることができますが、その分野の一流の学者と直接顔を突き合わせて議論することから得られるものには到底かないません。また、そのような方が身近にいると、新しいアイデアや得られた着想について率直な感想を即座に聞けるという利点があります。

雷研究室では、私は2週間に1回程度、ホストのラコブ教授に研究レポートを提出し、それを基に討議をするという形態で研究を進めました。ラコブ教授も私との研究討議をとても楽しみにしており、レポート提出の翌日には1対1の討議の時間をつくってくれたので、研究も気持ち良く進みました。

ラコブ教授との研究討議

ラコブ教授との研究討議

この討議は、毎回2時間ほど続き、これにより私の英語力もかなり向上したと思います。滞在中に4件の雑誌論文を投稿することができました。これらの論文は、今も頻繁に引用されており、十分満足しています。

授業

フロリダ大学では、1つの科目に対して50分の授業が週3回、1学期間の合計で40回以上もあります。主要科目の講義の様子はビデオ録画されており、録画された講義は学内ネットワークやインターネットを通じていつでも閲覧できるようになっていました。私も、1科目の講義を聴講させて頂きました。授業のレベルは、日本の大学や大学院での対応する授業とほぼ同じですが、学生からの質問の多いことが、日本の授業と大きく異なっています。また、レポートの提出回数も多く、学生の皆さんは徹底的にその科目を学んでいるという印象を受けました。日本の大学や大学院では、講義時間は90あるいは100分ですが、米国の50分の方が、教員も学生もより集中できて良いかもしれません。

録画された講義は、学生の復習に非常に役立っていました。講義のビデオ録画システムは、日本の大学にも、いつか導入することができればと思っています。私も、暇さえあれば電気磁気学や数学の録画講義を聴いていました。英語での数式の読み方などを含め非常に参考になりました。例えば、”z”を「ズィー」、”∇”を「デル」、”∂f/∂t ”を「ダイエフ ダイティ」と発音すること知って、正直驚きました。新しく知ったことや、参考になることはほとんどすべてをメモに残し、帰国後に数年間かけて著書にまとめました(馬場:『電気電子系学生のための英語処方』、電気学会、2013年1月)。この本は、英語論文の執筆や発表に役立つ例文を満載していますので、電気電子工学系の学生、若手研究者、技術者に役立つと思います。

生活

ゲインズビル市の当時の人口は10万人程度で、その約半分が大学関係者でした。治安は比較的良かったと思います。アパートは研究室まで0.5マイルほどのところに借りましたが、フロリダ州の運転免許証を取得し、自動車も購入しました。月曜日から土曜日までは、市内をバスが走っており、大学が発行してくれる身分証明書を持っていれば、無料でこのバスを利用することができました。学内や近くの教会では、留学生の配偶者用の無料の英会話コースが提供されていました。

ゲンインズビルの道路

ゲンインズビルの道路

住んでいたアパート

住んでいたアパート

アパートの電気と水道はゲインズビル市が所有するGRU(Gainesville Regional Utilities)という会社から購入しました。GRUは、2つの火力発電所(総出力約500メガワット)を所有しており、この2つの発電所で市内のほとんどの電力をまかなっていました。電力の単価は低いですが、その分電気代を気にせず使ってしまうので、日本にいた時に比べて2倍以上の電力を家庭で消費してしまいました。また、夏の雷のシーズンには、アパートでは停電が何度もあり、パソコンを使用するときには少し気を遣いました。大学では、キャンパス内に35メガワットのコジェネ発電所があったため、私がいた期間には停電は一度もありませんでした。

メキシコ湾のビーチ

メキシコ湾のビーチ

ケネディスペースセンター

ケネディスペースセンター

土、日曜日は、思い切って休暇として過ごしました。現地で知り合った様々な国の方々と交流し、一緒に、近くの泉、大西洋やメキシコ湾のビーチ、オーランドのテーマパーク、ケネディスペースセンター、エバーグレーズやキーウェストなどに自動車で出かけました。研究面においても、生活面においても、非常に充実した日々でした。

若い皆さんへ

学生や若い研究者、技術者の皆さんには、得意分野と勇気をもって、ぜひ留学して欲しいと思っています。留学中に迷惑をかけた上司や同僚には、帰国後に十分な時間をかけて恩返しすることができると思います。国際的な環境で研究を行うことは、英語力を伸ばせるだけではなく、新しい思考法も身につき、とても価値があります。安全な街は米国にもあります。明るく、誠意をもって接すれば、良い友人もできます。留学を通して得た能力と経験をもって、日本や世界で活躍して欲しいと思っています。

参考文献:馬場吉弘「電気電子系学生のための英語処方 ― 論文執筆から口頭発表のテクニックまで」、電気学会、2013年1月.


電気工学のヒトたち