ゆりかごから墓場まで;電気が学べる環境づくりをめざして

2010年9月30日掲載

高木 浩一

岩手大学工学部電気電子・情報システム工学科
准教授

1982年3月
福岡県立春日高等学校卒業
1986年3月
熊本大学工学部電気工学科卒業
1988年3月
熊本大学大学院工学研究科修了
1989年4月
大分工業高等専門学校 助手
1996年4月
岩手大学工学部電気電子工学科 助手
2000年4月
同上 助教授、准教授を経て現在に至る。
主に、高電圧パルスパワー工学、放電プラズマ工学に関する研究や教育に従事。

かみなりキノコ(上:刺激なし、下:刺激あり)

電気のおもしろいところは、形を変えるのが容易で、使い勝手のいい、応用の広いエネルギーである点のように感じます。4年ほど前から、農工連携型の研究を始めました。発芽の制御、育成環境の改善、農薬散布量の低減、有用成分の抽出など、いずれも電気エネルギーを利用して行えます。右の写真は、電気刺激の有無で、きのこ(しいたけ)の生育の変化を比較したものです。上は刺激なしで、下はホダ木に50kVの電圧を、50回程度加えています。いくつかの新聞やテレビ、yahooトップニュースなどで取り上げられたので、目にされた方もいるかもしれません。電界でホダ木中の菌糸が切れるなどが刺激となり、きのこができます。このようなことをエネガントにこなすのは、電気だけのように思います。

小岩井の一本桜と岩手山

自己紹介になります。小さい頃は、電気よりは生き物好きで、山や草原、海、川などに出かけてばかりいました。自然や生物と向き合える仕事がしたいと思いつつ、九州電力に勤めていた親の影響もあってか、電気系に進学し、大学院では雷や放電、プラズマなどの研究室(熊本大学・秋山研)に入りました。博士課程にも入りましたが、1年で中退して、大分工業高等専門学校で6年ほど働き、その後、岩手大学に移りました。熊本や大分も自然がいいところでしたが、岩手は、さらに川や山の自然に恵まれているように感じています。

現在の研究テーマは、電気エネルギーを、時間や場を制御して、環境や農業、材料などの分野で役立てることです。具体的には、パルスパワーといった、エネルギーを短時間で、微小空間に加える技術を開発し、汚水内の有機物の分解、高効率でのオゾン生成やガス処理、菌や微小生物の不活性化や活性化、ポリフェノール等有用成分の抽出、農産物や水産物の長期保存などに役立てようとしています。パルスパワーのコア技術の1つはスイッチです。SiC-JFETなど、いろんな新しい素子も使って、エネルギー損失を抑えたシステムの開発を目指しています。

気相液相分離型リアクターの放電の様子

岩手県葛巻小学校での電気エネルギー授業の様子

私の研究室で、研究と同じように力を入れている活動があります。電気やエネルギー、科学の楽しさを、幼稚園児から大人まで、すべての世代で共有できる場やネットワークづくり、体験教材の開発です。手法として、まず年代を、(1)小学校低学年まで、(2)中学校まで、(3)高校や大学生および児童の保護者の3つに分けます。(1)は、科学館や子供会などと連携し、科学館や公民館を科学交流や体験の場とします。そこに出向いて、理科工作教室などを行います。(2)は、学習指導要領に沿って体験型の教材を開発し、小中学校への出前授業や教員研修を通して、体験学習の場を作り出します。(3)は、社会的な活動としてのサービスラーニングへの展開、環境保全活動の必要性やライフサイクルなど社会の仕組みも含めての学習になります。この場合、地域社会がフィールドになります。この取り組みは、電気学会誌の表紙の写真にも取り上げられています。この活動は、研究室の学生さんたちと行っています。学生さんたちの、子供向けの理科教室や出前授業は、それぞれ年間15回くらいになります。子供たちも楽しんで学習しています、我々の方も、サイエンスをどう伝えるのがいいのか、いい勉強になります。サービスラーニングのいいところは、お互いが育つ点にあるように感じています。

レイチェル・カーソンの「センスオブワンダー」という、子供の育成に対する自然体験の重要性を述べた本があります。体験が肥沃な大地づくりにあたり、肥沃な大地は、将来大きな木を育み、大きな実りにつながるといった記載です。これは、すべての分野で共通しているように思います。もともと脳自体が、消去法で結論を出しますので、体験を通して判断材料を増やしておくことは重要ですし、それらはいろんなものを観察する目や、事象に対応する反射神経を育むように感じます。若い世代の方が、積極的にチャレンジし、人と交わり、自然と対話して、肥沃な大地を作り、そこに大きな木が育ち、豊かな人生へとつながりますことを、期待しています。


電気工学のヒトたち