ルームエアコン駆動用インバータの高効率化技術

2015年1月23日掲載

開発者

葛巻 淳彦(くずまき あつひこ)

株式会社東芝 電力・社会システム技術開発センター

1996年
豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子工学課程 卒業
1998年
豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 電気・電子工学専攻 修士課程修了
同年
株式会社東芝 入社 パワーエレクトロニクスの研究開発部門配属、現在に至る。

はじめに

快適な生活を過ごすため、皆さんのご自宅にはエアコンを取り付けているのではないでしょうか。エアコンなどの家電製品の普及に伴い、家庭での電気の使用量は年々増加傾向にあり、家庭で使う電気の4割がエアコンと冷蔵庫によるものと言われています。日本のエアコン普及率は90%を超え、一般世帯の平均保有台数も3.0台まで増加していることもあり、エアコンの省エネ化がエネルギー問題の解決のための重要な課題の1つとなっています。

このような背景から、私たち東芝グループのチームは、エアコンの消費電力の中で比較的大きな割合を占めているコンプレッサ(圧縮機)の駆動用インバータの高効率化により、エアコンの省エネ化に取り組みました。インバータのパワー半導体(以下、素子と略記)に、Super Junction構造のMOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ、以下SJ-MOSFETと略記)を用い、これを効率よく動作させるインバータ回路技術「リカバリ・アシスト方式」を開発し、業界で初めて製品化しました。この高効率インバータ回路技術の開発について、ご紹介させて頂きます。

インバータとは

インバータは、直流電力を基にして交流電力を作り出す、電力変換装置で、エアコンをはじめ、いろいろな電化製品に用いられています。

図1.電力の流れを示す模式図

図1は、インバータにおける電力の流れを示す模式図で、インバータに入った直流電力は、大部分がトコロテンを押し出すように、そのまま、交流電力に作り変えられて出てきますが、入った電力に対して多少目減りします。この時、出力電力/入力電力で表されるのが「効率」で、減った電力を「損失」と言います。たとえば、図1のように100Wの直流電力をインバータに入れて、95Wの交流電力が出てきたら、そのインバータの効率は95%です。損失の大部分は、熱となってインバータ内の電子部品を加熱し、その後、外気に放出されます。つまり、この損失はムダになっているのです。つまり、インバータの効率を上げて、発熱を減らす事は、インバータを省エネにするために非常に重要です。

エアコン用インバータ省エネのポイント

エアコンの省エネ性能は、定格能力運転(フル出力)の時よりも低い出力で運転効率を高めることが重要となります。というのも、たとえば、夏の暑い室内を冷やしたい時、室内の温度を下げようと、エアコンはフル出力で運転しますが、しばらくして、室内が設定温度になると、今度はその温度を維持するために、エアコンはフル出力の半分(中間出力)以下で運転します。その時の運転時間を考えると、フル出力の運転時間は比較的短く、中間出力以下での運転時間がとても長いことが分かります。また、暖房運転シーズンにおいても同様ですので、中間出力以下での運転効率を向上させることが、実際の省エネ性能を最も高めることになります。

このことから、エアコンのコンプレッサを駆動するインバータも、中間出力よりも低い範囲での効率の向上(損失の低減)が重要となります。

ダイオードの逆流現象

インバータの効率は、使用する素子の性能によるところが大きく、従来はIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を用いてきました。IGBTは、数回の大きな世代変遷を経て、開発当初の1/3以下の電力損失まで大幅な改善を遂げ、現在も改善が続いています。 しかし、その動作原理としてPN接合電圧以上の電圧降下が必ず生じてしまうため、特に出力の低い範囲においては、損失低減に限界があります。

そこで私たちのチームでは、素子の低損失化を図るため、動作時の抵抗が著しく低減されたSJ-MOSFETの適用を検討しました。SJ-MOSFETは電流の低い領域での導通損失がIGBTより小さいため、出力電力の低い範囲での電力変換効率の向上が期待できます。しかし、素子に内蔵している寄生ダイオード(MOSFETに構造的にできてしまうダイオード)のオフが遅い欠点があり、逆に損失が増大してしまいます。

この現象を図2に示します。たとえば、同図のように上側主素子の寄生ダイオードに負荷電流が流れている時①に、下側主素子をオンする②と寄生ダイオードがオフするまでの期間、主回路電圧を短絡する回路が形成されます③。その結果、図3のように、非常に短い時間ですが、短絡による大電流が流れてしまい、大きな損失が発生します。

図2. 主回路短絡のメカニズム

図3. 下側SJ-MOSFETに流れる主回路短絡電流波形

インバータの新回路方式「リカバリ・アシスト方式」

図4. 新方式「リカバリ・アシスト」回路

何とかシンプルな回路で、この課題を解決すべく、考え抜いた末、私たちのチームはSJ-MOSFETの寄生ダイオードに低い逆電圧を印加して寄生ダイオードをオフさせる新発想「リカバリ・アシスト(Recovery Assist)回路」に至りました(図4)。この回路は、図2①と同じ状態を考えると、下側主素子をオンする②直前に、上側主素子に付加したリカバリ・アシスト回路(図4)を作動させ、これにより、上側主素子の寄生ダイオードをオフさせます。リカバリ・アシスト用補助電源の電圧は、15V以下の低い電圧なので、短絡した時の損失は、主回路電圧(約300V)を短絡した時に比べ、約1/20以下になり、大幅に低減されます(図5)。

図5. 新方式「リカバリ・アシスト」回路適用後の下素子SJ-MOSFET電流波形

この技術により、SJ-MOSFETの寄生ダイオードの課題が解決され、結果としておおよそ99%のインバータ効率を達成しました(図6)。

図6. インバータの効率比較

この新方式の開発当初は、回路シミュレーションによる解析で検討しました。ところが、事前に考えた動作とならず、大きな損失が発生する結果となってしまいました。シミュレーション方法は正しい筈なのに、どうして上手く行かないのか、最初は分かりませんでした。それでも、新方式で損失を小さくできると確信を持っていたので、実際にインバータを試作して電気試験を行った事で、その効果を実証できました。実際に試験した後で分かったのですが、使用した回路シミュレーションの半導体モデルは、詳細な特性をモデル化できず、大きな損失が出てしまう特性になっていました。

つまり、今回の新方式は、当初使用した回路シミュレーションでは、解析出来なかったのです。解析技術は年々向上しているので、現在では、より詳細な半導体モデルを作成でき、回路シミュレーションの精度も良くなっています。解析を中心とする開発であったとしても、シミュレーション結果の妥当性を検証できる力を持ち、最後はシミュレーションではなく、実際のもので試験する必要があります。

このようにして開発した軽負荷領域で特に効率が高い、リカバリ・アシスト方式の特徴を生かした省エネエアコン”大清快”は東芝キヤリア社から製造販売されています。2007年から2014年の間に、同社の出荷台数全体に占める割合の約16%にあたる、累積65万台以上のルームエアコンへ適用されました。これは、出荷した65万台の効率改善による電力節減分だけで、年間800万kWh以上の高い省エネ化を実現するとともに、地球温暖化防止に貢献しています。

これらの優良な技術的成果により、電機工業技術の進歩発展に貢献したものと評価され、(一社)日本電機工業会より、平成26年度(第63回)電機工業技術功績者表彰を受賞することができました。

現在も、新しい素子・回路を適用したインバータの研究開発を続けており、更なる省エネ化を追求しています。また、ルームエアコンにとどまらず、その他のインバータの省エネ化にも取り組んでいます。

図7. 高効率インバータの外観(ルームエアコン室外機に内蔵)

図8. 高効率インバータ搭載のルームエアコン外観

おわりに

電気エネルギーは「創る」、「送る」、「ためる」、「使う」、という各場面があり、今回は、「使う」に関し、ルームエアコン駆動用インバータの高効率化ついて、紹介しました。他には、私が研究開発しているパワーエレクトロニクスを例にあげると、「創る」では、再生可能エネルギーから電気を創る太陽光発電システムなどがあります。「送る」では、発電した電気を効率よく消費地へ送るHVDC(高電圧直流送電)システムなど、「ためる」では、深夜に貯めた電気で電力使用のピークを抑制したり、もしもの時に備えて電力を蓄える蓄電システムなどがあります。「使う」では、エアコンの他にも鉄道システム、エレベータ、電気・ハイブリッド自動車などがあります。電気工学は、どの場面においても、なくてはならない重要な技術です。

日本はエネルギーの自給率が低い国であり、省エネは重要な課題の1つです。日本にとどまらず、世界のエネルギー問題の解決に、電気工学は大きく貢献できます。学生のみなさんには多くの選択肢があると思いますが、その選択肢の1つに電気工学を加えて頂きたいです。そして、実際にこの分野で、ともに社会に貢献できたら、本当にうれしく思います。学生の皆さまの活躍を期待しています。


電気工学のヒトたち