温室効果ガスを使用しない遮断器の開発

2014年10月31日掲載

開発者

長竹 和浩(ながたけ かずひろ)

株式会社明電舎 スイッチギヤ工場 開発部

1995年
武蔵工業大学(現在の東京都市大学)工学部 電気電子工学科卒業
1997年
武蔵工業大学(現在の東京都市大学)大学院 修士課程修了(電気工学専攻)
1997年
株式会社明電舎 入社 開閉器・遮断器の研究開発部門配属、現在に至る。

はじめに

電気エネルギー流通の拠点である変電所では、電流を入り切りするために遮断器が設置されています。このうち、ガスを用いて絶縁、電流を遮断しているものをガス遮断器(GCB)と呼び、国内では22~550kVまで幅広い電圧階級の変電所で使用されています。このGCBの絶縁・電流遮断(消弧)媒体として広く利用されているSF6ガスは空気と比べて、絶縁性能で約3倍、消弧性能で約100倍と言われており、極めて優れた性能を有しています。ところが、SF6ガスは二酸化炭素(CO2)の23,900倍の地球温暖化係数を持つ温室効果ガスであり、SF6ガスの使用量および排出量の削減が世界的に大きな課題となっています。

こうした背景から明電舎では温室効果ガスであるSF6ガスを全く使わない22~84kV定格のエコ・タンク形真空遮断器(VCB)を開発し、世界で初めて製品化に成功しました。このエコ・タンク形VCBの開発について、ご紹介させていただきます。

温室効果ガスと地球温暖化

地球温暖化とは、大気中の温室効果ガスの濃度が高くなることにより、地球表面付近の温度が上昇することです。温室効果ガスは、地球の温度を安定に維持するのに役立っていますが、産業革命以降の化石燃料の大量消費などによって温室効果ガスが増加すると、過剰な温室効果が発揮されて地球の温度が上昇し、気象や気候に影響を与えています。

この地球温暖化問題に取り組む国際社会の枠組みとして、1997年に採択された京都議定書では、先進国全体に対して、1990年比で温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6)の5.0%削減を2008年~2012年までに義務付けました。これ以降も、2020年まで引き続いた扱いが定められており、遮断器の絶縁・消弧媒体として広く利用されているSF6ガスの使用量や排出量が引き続き厳しく管理されています。

地球環境に優しい開閉装置・遮断器への要求

日本の電気事業業界と電機事業業界では、SF6ガス排出量の削減に取り組み、2005年までに機器点検時の排出割合を3%まで、機器廃棄時の排出割合を1%まで抑制するとの目標をすでに達成しています。また、2006年度以降、事業者が自ら温室効果ガス排出量を算定し、国に報告することが義務付けられています。

また、諸外国の対応として、米国のカリフォルニア州では2020年までに段階的にSF6ガスの排出量を1%以下にすることが義務付けられています。欧州連合(EU)域内では、2009年からSF6封入機器の取り扱いは資格保有者以外は不可となっています。

以上より、SF6ガス管理の厳格化、また使用量削減へのインセンティブの導入が各国で進められていることから、SF6ガスを使用しない機器への期待は今後いっそう高まるものと予想されています。

エコ・タンク形VCBの開発

SF6ガスは、GCBの絶縁と消弧の両方の媒体として利用されているのはお話したとおりです。SF6ガスを用いない環境対応型遮断器は、遮断部に真空中で消弧を行う真空インタラプタ(VI)を採用し、絶縁媒体を空気などで置き換えることで実現できます。

しかし、絶縁媒体をSF6ガスよりも絶縁性能の劣る空気に置き換えると、絶縁距離を大きく取らなくてはならず、遮断器が大型になってしまいます。変電所に遮断器を設置するにはGCBと同程度のサイズで設計する必要があり、絶縁性能の向上が必須になります。電圧階級が高くなるほど、この性能向上は難しくなりますが、求められる技術になります。

このようにエコ・タンク形VCBの開発においては、絶縁技術がキーになりました。以下にこの課題に対する私の携わった取り組みをご紹介します。

図1 22~84kVエコ・タンク形VCB

図2 エコ・タンク形VCBの内部構造


図3にSF6ガス、空気の絶縁破壊電圧(絶縁耐力)と複合絶縁手法の概念図を示します。ガス圧を高めることで、絶縁耐力を上げることができますが、これだけでSF6ガス並みの絶縁耐力を持たせるには、相当圧力を高めなければなりません。そこで、エコ・タンク形VCBでは固体絶縁を組み合わせた複合絶縁方式を採用することで、導体表面の電界を低下させて、耐電圧を確保することに成功しました。

図4には、複合絶縁基礎試験において半球棒電極に固体絶縁被覆を行った場合の放電発光像を示します。放電が電界の最も高い電極の先端にだけ集中していることが分かると思います。

図3 複合絶縁方式の概念図

図4 複合絶縁基礎実験時の放電発光像例

私の携わってきた業務(開発現場から製品据付現場まで)

図5 3次元電界解析実施状況

遮断器の開発には、絶縁、電流遮断、通電技術など電気工学の色々な分野が重要な役割を果たしています。エコ・タンク形VCBの開発では、複合絶縁部を含め、絶縁設計技術の高度化がキーとなりました。絶縁設計技術としては、これまでも数値解析手法を用いた電界解析による設計検討が進められてきましたが、従来は計算機の能力の限界から簡単な形状での回転対称3次元が主流でした。最近では、計算機の能力向上による解析の高速化やソフトウエアの進化により、複雑な形状を含む一般3次元解析が可能となっています。さらに、検証面でも測定技術の向上により、解析結果と実測結果との突合せもなされてきており、解析結果の精度向上が図られています。

図6にエコ・タンク形VCBの絶縁設計での固定側および可動側電極部の3次元電界解析実施状況を示します。導体表面の電界を低下させることが出来ていること、VIの両側に配置される電極などの複雑な形状において精度よく解析できていることが確認できました。

図6 遮断部の3次元電界解析結果

また、開発品初号機での現地据付確認も開発スタッフの仕事となります。自分が開発した製品が想定されるあらゆる動作で問題がないことを確認しなければなりません。当然、製品は現地に据え付けられて初めて機能するものですから、試作品を含めた工場試験時の性能のみならず、現地での性能確認も行う必要があります。

図7は豪州のあるお客様への現地据付時の機器操作説明の様子を示したものです。現地据付を終え、無事に運転開始し、お客さまに満足して頂いた時は、開発者の一員として、まことに大きな喜びでした。なお、エコ・タンク形VCBは2007年に初号器の運転を開始して以来、北米・豪州向けに250台、国内向けに400台を納入し、高い評価を得ています。

図7 現地での機器操作説明の様子

このような開発現場から製品据付現場まで経験して、技術者は研究所や工場の中の活動だけではなく、実際の製品の運用状態把握やお客様との情報交換を行うことも重要と考えます。これはまさにR&D(Research & Development)であり、開発とマーケティングがつながることにより、市場の要望に合致した製品作りが可能になると思います。例え、環境に良い製品を開発しても実際に世の中で使ってもらえなければ、意味の無いものになってしまうからです。

おわりに(学生のみなさんへ)

電気エネルギーの発生から、流通を経て、消費に至る各プロセスにおいて、なくてはならないのが電気工学の技術です。今回は電気の流通に関連して、変電所の電力設備で使用されるエコ・タンク形VCBの開発の一面をご紹介させて頂きました。

近年の異常気象など地球温暖化は、もはや疑う余地はなく、生態系の異変や異常気象の頻発などとして人間社会へも影響が現れています。電気工学はこれらの問題の解決に大きく貢献できるものであると考えます。環境対応型遮断器の開発もその一つです。

今後は、エコ・タンク形VCBの更なる高電圧化を目指しており、定格電圧が100kVクラス以上のものを開発できれば、世界中の変電所内の多くの遮断器を環境対応型遮断器に置き換えることもでき、地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献できるものと考えます。これを実現するには絶縁技術のみならず、遮断、通電技術、さらには遮断部を動作させる操作器や構造などの広範囲な技術者との連携が必要とされます。学生のみなさんには電気工学の専門性を高めていただいて、若い技術者として電気工学での地球温暖化防止を目指して、一緒に頑張って行きましょう。


電気工学のヒトたち