パワーエレクトロニクスでエネルギー問題の解決の一翼を担う

2014年6月30日掲載

開発者

鳥羽 章夫(とば あきお)

富士電機株式会社 技術開発本部 製品技術研究所

1994年  
東京都立大学 大学院 修士課程 修了(電気工学専攻)
同年   
富士電機株式会社 入社 パワーエレクトロニクスの研究開発部門配属、現在に至る。
1997~1999年
米国ウィスコンシン大学に留学
2006年
博士(工学)取得

入社以来、主としてパワーエレクトロニクスおよびモータの研究開発に従事。

皆さん、21世紀は「エネルギーの世紀」です。グローバルな人口増加、経済成長に対し、エネルギーが足りなくなるかもしれません!いま学生である皆さんが社会の中核として働く頃には、自由に自動車に乗ることさえ出来なくなるかもしれません。この問題の解決は、人類共通の切実な課題です。電気工学は、エネルギーの効率的利用におけるキーテクノロジーです。私も、小さいながらそこで一つの役割を担っていると思っており、その概要をご紹介することで、電気工学を学び、これを社会で活かすことが、皆さんの人生を掛けるに足る仕事であることをお伝えしたいと思います。

21世紀のエネルギー問題

突然ですが、みなさんは世界のエネルギー需要は2030年にどれくらい増えていると思いますか?試算によると2010年の約1.4倍に増えると予想されています(資源エネルギー庁:エネルギー白書2013)。現状でも世界のエネルギー需給がひっ迫していることを考えると、この数字は途方もないものです。

需要増加の最大の原因は人口が約1.2倍に増えると予想されるためですが、先進国でのエネルギー需要の伸びに対し、新興国の伸びが著しいことも大きく影響しています。つまり、これまで貧しかった国・地域が発展するに伴い、新たな需要が発生するのです。それによって、エネルギーの奪い合いという構図になりかねません。

これだけのエネルギー需要の増加を、どのように賄うのか。化石燃料、原子力、自然エネルギーなど、単体ではそれぞれ課題があり、エネルギーを賄うための解は未だ導かれていないのです。加えて、人口増加、経済規模の拡大に伴う食糧問題、環境問題も大きな問題になりそうです。

このように、我々の未来には大きな課題が現実に立ちはだかっています。
皆さんは、2030年には何歳になっていますか?決して遠い未来の話ではありませんね。

エネルギー問題の解決に貢献する電気工学分野~パワーエレクトロニクス

先ほどお話したエネルギー白書2013のグラフの数値には、各地域で必要とされる電気エネルギーも含まれています。電気は、動力、光、熱など、様々なエネルギーに簡単に変換でき、その変換効率が高く、また遠隔地へのエネルギーの伝送を瞬時に行えるなど、様々な特長があります。この特長を生かせば、エネルギー問題の解決に大きく寄与します。例えば、風力発電や太陽光発電など、自然エネルギーから直接電気エネルギーを生み出す手段をうまく使えば、エネルギー供給を増やすことができますし、また高効率に変換できることを生かして省エネルギー化を進めれば、エネルギーの需要そのものを減らすことができます。

このような、電力エネルギー分野の中核をなす技術に「パワーエレクトロニクス(パワエレ)」があります。パワエレは、半導体スイッチやコイル、コンデンサ等を組み合わせた回路により、電気の電圧、電流、周波数を自在に操る技術です。1960年代から研究が始まった比較的「若い」技術ですが、今では家電製品、コンピュータ、携帯機器、自動車、鉄道など、多くの機器で使われている、社会に無くてはならないものになっています。

富士電機製の太陽光メガソーラ向けパワーコンディショナ
(1MW,外設置可能, 2400×900×1950mm)

私の所属する富士電機は、様々な電気機器を製造・販売している会社であり、パワエレ機器は代表的な製品となっています。その一例を示すと、「電気を生み出す」ものとしては、太陽光メガソーラ向けパワーコンディショナ(PCS)があります。これは、東京ドーム数個分という広い敷地に太陽電池を敷き詰めたメガソーラ発電所において、多くの太陽電池の生み出す直流電力を集約し、家庭や工場等で使える交流電力に変換するパワエレ機器です。富士電機の製品の特長は、新型の半導体を用いた独自の回路方式により、世界最高レベルの変換効率98.5%を実現していることであり、平成24年度資源エネルギー庁長官賞、平成25年度新エネルギー財団会長賞を受賞しています。

また、「省エネ機器」としては、モータ駆動用のインバータが挙げられます。現在、世界の多くの工場では、電力系統の一定電圧、一定周波数(50Hzか60Hz)の電気をそのままモータに与えて動力として用いるケースが大半を占めますが、これでは電力を有効に活用することができません。モータの能力と負荷の状況に依りますが、与えられた電力の90%以上を無駄にして動作している場合も珍しくありません。これは、先に示したグラフのエネルギー需要を押し上げる要因にもなっています。インバータは、モータに与える電圧、電流、周波数を自在に調整でき、これによってモータを常に高効率な状態で働かせることができるようになります。つまり、インバータを普及させることで多くの電力を節約できます。

富士電機製のインバータとモータの例

実は日本は、パワエレ先進国と言えるほどパワエレ技術と実用化が進んでいます。その背景には、エネルギーのほとんどを輸入に頼っている日本では、他国よりも省エネが重要であったことがあります。その技術に今、世界のエネルギー問題の解決に向けて大きな期待が集まっています。私は、その一翼を担うべく、技術と製品の開発に力を入れています。

私の仕事と歩んで来た道

私は、学生時代からパワエレ技術を学んでいました。大学の学部3年生の終わりに研究室選びで色々な研究室を巡ったとき、パワエレの研究室では際立って実験の比重が高かったことから、自分の研究が現物として結実することに魅力を感じましたし、また大きな電力を小さな電子回路で制御できるということが痛快に思え、この分野を選びました。大学院での研究も経て、この技術に関わる仕事をしたいと思い、就職活動ではパワエレの開発ができる会社を志望しました。富士電機は、当時から学会で積極的に発表をしており、また入社した先輩からいろいろ話を聞いていたので、ここならば自分のやりたいことができるだろうと思い、受験し、今に至ります。私は会社で様々なパワエレに関わる研究開発をしましたが、ここでは新たなPMモータとこれを駆動するインバータの開発について紹介します。

皆さんは、モータと聞くとどういうイメージをお持ちでしょうか。歴史が古く、研究することなどなさそう、と思われますか。実はそうではありません。図の日本国内のモータ関連特許出願の公開件数の推移を見てお分かりのとおり、公開件数は増え続けています。特許出願は、新たな技術を独占的に使いたいという意思表示であり、その公開件数は社会におけるニーズと直接結びついています。その意味で、モータは今でも進歩を続ける重要な技術であることがお分かり頂けると思います。

※「モータ関連」:筆頭IPC=H02K,「内PMモータ」:請求項に「磁石」又は「マグネット」を含む。

さて、図には「PMモータ」に関する特許が含まれています。PMモータというのは、永久磁石(Permanent Magnet)を用いたモータです。PMモータは、永久磁石が磁力を発生させるため、電磁石を使う「誘導モータ」に比べて電流が少なくて済み、高効率化と小型化に適し、エネルギー問題の解決や省資源化に寄与します。

私が取り組んで来たのは、このPMモータの産業への応用を進める開発です。

PMモータを産業用に用いる技術課題としては、高価なレアアース(希土類)を使用する磁石材料をいかに少なくするかということが挙げられます。このレアアースの磁石材料は中国に偏在しており、近年その対日輸出規制による材料不足と価格高騰が大きな社会問題となったことをご存じの方もおられるでしょう。 もう一つ、PMモータは電力系統から直接給電しても駆動出来ず、基本的にはインバータによる駆動が必須という特徴があります。これは省エネという観点ではよいのですが、モータを使う工場からすれば、導入時の設備投資が大きくなるということを意味するので、普及の障害になります。そこで、インバータも含めたシステムをいかに簡素化し、価格を下げるかということも課題です。

私は、上記の2つの課題に取り組んで来ました。

<モータの磁石材料の低減>

現在、モータの設計にはコンピュータによる数値解析が広く普及しています。図はその一例を示しています。図から分かるように、モータ内部における磁束の流れは複雑で、紙の上で計算していたのでは正しい検討はとても出来ません。そこで、コンピュータによる数値解析を繰り返し、必要な性能を確保できるギリギリまで磁石を減らす設計を追求しました。私は会社に入ってからアメリカに留学し、モータとその駆動技術に関する研究をして来ましたが、そのときの経験がこの仕事に生きています。モータの開発で面白いのは、電気と磁気だけを考えて設計を進めてもダメで、回転力に耐える構造的強度も併せて考えねばならない、ということです。このように、電磁気と構造、さらには駆動するインバータとのマッチングも考慮して、複雑なパズルを解くように、開発部門や、工場での設計やものづくりの技術者からなるチームで現実解を見出してゆく仕事は、大変ですがとてもやりがいのある仕事でした。

モータの磁界解析の例。色の濃淡が磁束密度分布を、等高線のような線が磁束の流れを示す。
赤色に近いほど磁束密度が高い。
(構造の対称性を利用して、全周の1/8(45°分)のみ解析している)

<インバータ駆動システムの簡素化>

PMモータについては原理的に、回転部分がどの角度になっているかを逐次把握し、それに応じて電流を流す必要があります。これを行うためには角度センサが必要になりますが、これはインバータ駆動システムの簡素化の障害になります。そこで、業界ではこの角度センサを用いない「センサレス駆動技術」の実用化と向上にしのぎを削っており、私も入社間もない頃からこれに取り組んで来ました。どのような回転速度でも、角度センサ無しで安定してモータを駆動するためには、制御理論、回路理論、モータの数理モデル化、ソフトウェア等、様々な技術を総合する必要があります。このような技術は、まず理論的な裏付けだけでも一人では出来ず、学会での情報収集や専門家との議論、そして社内の技術者から教えてもらったり議論したりということが不可欠で、私も多くの方々のお世話になりました。そうして生み出した技術を特許化することも、重要な仕事です。そして、理論的な裏付けが出来たら、今度は実用化への大きなハードルがあります。ある技術を製品に入れ込むには、想定されるあらゆる動作で問題がないことを証明せねばなりません。このハードルを越えるためには、製品に適用する技術に責任を持つ工場の設計や品質保証の各部門の関与が必須です。その方々と一緒に仕事をすることで、製品を世に出すことの大変さが身に染みて分かりましたし、また次の開発で何を押さえどころとすべきかということも学ぶことが出来ました。

こうして、PMモータ駆動システムは、インバータ、モータとも富士電機の製品としてラインナップされるに至っています。話の都合上、私の仕事にフォーカスしていますが、ここに至るまでに私のした仕事はほんの一部であり、研究所や工場の多くの部門の方々が力を合わせた結果であることは言うまでもありません。むしろ、仲間達と一つのものを創出したこと、およびその製品に少しでも自分が開発した技術が入っていることを誇りに思います。

PMモータ駆動システムのデモ装置と筆者

私がアメリカに留学したことは前に書きましたが、それを通して感じるのは、日本のチーム力の高さです。アメリカは個人主義の国なので、「協力すればもっとうまく行くのに、何故しないのだろう?」と感じることが時々ありました。日本はチームで仕事をすることが本当に得意だと思います。「どうすればこの強みを生かし、日本の企業として世界と戦って行けるだろうか」と考えるこの頃です。

電気工学で社会、人類に貢献しよう!

以上、私の経験により電気工学、パワエレの開発の一面をお伝えしましたが、冒頭に述べたように、世界のエネルギー問題の解決に、電気工学は大きく寄与できるものであり、その貢献の仕方はパワエレに留まらず、多岐に渡ります。

本当に世界のエネルギー需要が今の1.4倍に増え、エネルギー供給が今のままであれば、車の運転、家や会社での電気の使用が不自由になることは想像に難くないでしょう。それどころか、冬に暖を取れない人も出てしまうでしょうし、交通や通信などの社会インフラが停止して大混乱となる事態も起こり得ます。この問題は、人類として必ず解決せねばなりません。そこに貢献することができるならば、それは人生をかけるに足ると言えるのではないでしょうか。私はそう思って仕事に取り組んでいます。

学生の皆さんには、未来に向けて多くの選択肢があると思いますが、その一つとして、社会、人類に貢献できる電気工学を置いて頂き、また実際にこの世界に入って活躍してもらえるなら、本当に嬉しく思います。

学生の皆さんへ

グローバルなエネルギー問題について書きましたが、日本という国について考えると、また違った側面があります。日本は今後、労働人口が減り続け、高齢者が増えます。これは経済規模の縮小につながります。エネルギーや食糧の自給率が低い日本では、これらを輸入に頼っています。経済規模が縮小すれば、海外からの購買力が弱まりますので、十分なエネルギー、食糧が入って来なくなります。グローバルという前に、まず国として需給がひっ迫します。「経済規模の縮小による国力の低下」とは、それほど恐ろしいものなのです。

では、日本の国力を高めるものは何でしょうか。その重要な一つは「知識」、そしてそれを生み出す「人」です。人が知識・技術を生み出すことによって、それが特許技術として世界に貢献して外貨を獲得する、あるいはノウハウやビジネスモデルとして富を生み出す、このようにして国力を高めることが日本の生きる道であると、私は思っています。

「人」とは、学生の皆さんご自身のことと思って下さい。皆さんがいろいろな勉強、経験をして、そこから価値ある知識を生み出さねば、日本は国際社会で埋没し、立ち行かなくなります。日本は、幸いなことに総じて知識レベルが高く、また前述のようにチームで価値を生み出すことが得意です。皆さん、どうか貪欲に学んで頂き、日本が得意を生かして国力を向上させ、また世界に貢献する一翼を担えるよう、共に励みましょう。


電気工学のヒトたち