特別推進研究
次世代直流・交流電力システムを視野に入れたSF6・代替ガスアーク遮断現象の高精度実験および高精度数値解析
2014年5月掲載
代表者 | 金沢大学 田中 康規 教授 |
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共同研究者 | 筑波大学 藤野 貴康 准教授、九州大学 富田 健太郎 助教 東京電機大学 鈴木 克已 特別専任教授 |
※所属および肩書きはインタビュー時(2015年3月)のものです。
現在、電力用遮断器において主に使用されているSF6ガスは性能がいい反面、地球環境温暖化に影響をもたらすことが懸念されています。金沢大学の田中康規教授を代表とする共同研究チームは、各人の専門性を存分に生かして、これまで解明されていなかった、遮断現象のメカニズムを解明する取り組みを行いました。
特別推進でなければ実現しなかった、アーク遮断研究
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
私の研究分野は熱プラズマ・アーク物理に関するもので、この分野の実験に関しては実験装置のほか消耗品も非常に多く、研究資金を必要とします。そこで当初は、パワーアカデミー萌芽研究から応募を始めて、その中でアーク物理・測定方法・解析の知見を高めさせてもらいました。さらに、様々な方のご助言から学内のネットワークを構築して、今回の特別推進研究の応募に至りました。
今回の研究は、特別推進研究でなければ実現しなかったと思います。チームで研究を行う場合、個別で実験をして寄せ集めるという場合が多いのですが、私たちは金沢大学が所有している装置に対して計測や解析などを行うというやり方にしました。すなわち、数値解析のスキルの高い方、計測技術のスキルの高い方など各エキスパートに来ていただいて、達成したわけです。さらに言えば私も含めて、藤野先生、富田先生は、過去に萌芽研究に採択されており、そこで交流を深めて今回の特別推進に至ったという経緯もございます。
SF6に替わる、環境にやさしい電力遮断器の開発のために
Q.研究内容をお教え下さい。
本研究は、電力用遮断器内のアークプラズマ遮断メカニズム解明に関する基礎研究です。短絡容量の大きな電力系統において事故・故障が生じた場合には、大電流が発生することがあります。この大電流を素早く確実に切るのが、電力用遮断器の最大の責務です。すなわち電力用遮断器は電力系統を守る最後の砦と言えます。
大電流を遮断する際には、遮断器の接点間にアーク放電(※1)が発生し、これを通じて大電流が流れ続けてしまいます。したがってこのアーク放電を速やかに消すことが、電力用遮断器に要求される性能というわけです。現在、電力用遮断器においてはSF6ガスという特殊なガスが用いられています。このガスは非常にアーク放電を消す能力が高いのですが、一方でSF6は温室効果が大きいとも言われています。そのため、SF6に替わる遮断性能のよいガス、あるいは機構が求められている現状があります。そこで私たちはSF6ほか代替ガスアーク遮断の基礎研究を行いました。
(※1)アーク放電とは気体中の放電現象の一種。最も激しい最終段階の状態と言われる。
基礎データの少ないアーク放電を徹底解明する
Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。
これまで、アーク放電の遮断現象に関する基礎データは少ないという現状がありました。これはアーク放電を引き起こすと、電極蒸発・損耗やポリマーの溶発などを引き起こしてアークの性状がそれに大きく影響されること、消耗品が多かったこと、大電流を極めて精度よく制御しながらアーク放電の物理現象を測定することが難しかったこと、アーク放電自身がプラズマ・流れ場・放射場・乱流現象・壁との相互作用など複合的に絡むためその物理解明が難しかったことが、理由として挙げられます。
今回の研究においては、アーク電流をパワー半導体により高精度で制御しながら、アーク放電内の電子密度を高精度なトムソン散乱(※2)で測定することを行うことで、その物理過程の一部を明らかにできました。さらにアーク放電を対象とした電磁熱流体解析モデルを構築し、実験結果と数値解析結果を比較することができ、アーク電圧に関しては非常によい一致をみせました。今後はさらにこれらの測定と数値解析を高精度化します。
(※2)トムソン散乱とは、電子による光散乱の一種。
研究概要と全体構想
パワーアカデミー研究助成で、ワンランク上の研究が実現
Q.最後にひとことお願いします。
電気工学分野は社会基盤を支える極めて重要な分野です。しかし予算が限られた、特に大学や高等専門学校などの研究者にとって、この分野の教育研究を高いレベルで維持していくことは容易ではありません。本分野において優れた人材を育てるため、そして本分野自身の発展のためにも、今後もパワーアカデミーには、電気工学分野の大学研究を支援していただきたいと思います。
パワーアカデミーの研究助成は、電気工学という限定された分野で行われています。また継続的におこなっていただいており、私たち研究者にとって非常にありがたいです。これにより、研究のアイデアが生まれたときに、すぐに助成に応募ができます。こうした助成は他になく、非常に感謝しております。今回、私と藤野先生、富田先生という、過去に萌芽研究に採択された3名が共同で特別推進研究に至りました。一段上のステージへ行けたわけで、今後もさらなる高みを目指して研究を続けてまいりたいと思います。