落雷から電力機器を守る技術の確立/福岡大学 荒岡 信隆 助手

2022年7月掲載

研究者福岡大学 荒岡 信隆 助手

※上記肩書きは、インタビュー時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています。

融点温度の異なる絶縁物による多重バリアを用いて気中放電の放電径を調査し、また圧電素子による衝撃力センサにより気中放電の圧力を調査することで、気中放電の絶縁物貫通メカニズムを究明。落雷による貫通損傷被害から電力機器を守る技術の確立を目指しました。

研究の進化のために

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

気中放電の絶縁物貫通の研究に際して、これまでは予算の都合からアイデアを限定せざるを得ませんでした。しかし、より詳細な詳細なメカニズムを解明するためにはセンサーが必要となったため、助成金の獲得を目指すことにしました。
現職に着任した2017年度には、同じ研究室の高村助教が純水の絶縁特性の研究でパワーアカデミーの研究助成に採択されています。その縁で2019年度研究助成に応募した結果、私の研究について採択いただきました。前職では送変電用の避雷装置の研究・開発を行っておりましたので、その経験を活かして研究を進めています。

落雷から機器を保護する

Q.研究内容をお教え下さい。

風力発電機の大型化や設置台数の増加に伴い、ブレードを雷が貫通して破損する事故は増加傾向にあります。再生可能エネルギーの導入という社会的要請に応えるため、落雷からの保護は重要な課題です。
絶縁物の貫通自体は現象として珍しいものではなく、昔から多くの方が研究されて対策手法も構築されています。しかし雷(放電)が絶縁物を貫通するか否かを最終的に決める主要因が何であるのかは不明であり、そのメカニズムは解明されていません。特に放電は複雑な現象ですので要素に細分化して考える必要があります。
そこで最も絶縁物の貫通に影響があると推測される、放電の温度(荷電粒子の温度)、圧力(荷電粒子の衝突)、電界(放電先端の電界)の三要素に着目し、それぞれを独立に測定する実験方法を考案しました。
今回の研究では複数種類・複数枚の絶縁物バリアを用いて放電の温度を、また圧電効果による衝撃力センサーを用いて放電の圧力を測定する手法を確立しました。他要素の影響を可能な限り除外し、それぞれを個別に測定するための工夫には苦労しました。この点が研究の大きな特徴と考えています。

絶縁物の貫通メカニズム解明へ

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

「パワーアカデミー研究助成」に採択いただいたおかげで、放電の温度と圧力については測定する技術を確立できたと考えています。また別の助成を利用して電界センサーも入手し、測定を進めています。そのため我々が考えている主要な三要因の測定技術は、概ね確立しつつあります。
今後は印加電圧やギャップ長など放電のパラメータを変えたときの各要因による影響を詳細に調べ、絶縁物の貫通メカニズムにおいてどのパラメータが主要因になっているかを解明したいと考えています。これを解明することで風力発電機のブレードなどにおいて、貫通の主要因に特化した効果的な対策が可能になると期待しております。

古くてもホットな学問

Q.最後にひとことお願いします。

電気工学を志す学生は減少傾向と言われています。しかし再生可能エネルギーの導入拡大やカーボンニュートラルの実現には、電気工学が必須です。
将来発電方式や送電方法の形は変わっても電気自体は一番身近なエネルギーであり続けるため、古くからある高電圧や電気材料などの分野でも、その都度新しい研究が必要になると考えています。電気工学は古いけれど同時にホットな分野であり続けます。興味を持って電気工学に足を踏み入れる学生が増えて欲しいと思います。


電気工学の未来