シンプルさを極めてEVシステムの簡素化・低コスト化を図る/茨城大学 鵜野 将年 准教授

2022年7月掲載

研究者茨城大学 鵜野 将年 准教授

※上記肩書きは、インタビュー時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています。

EVの電力源として用いられるリチウムイオンバッテリの特性劣化を防ぐため研究に取り組んでいらっしゃいます。“ミニマリスト”を自称されていることもあり、いかに部品を減らしてシンプルにしながら機能を追加するかに挑戦されました。

前職の経験を活かす

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

2015年に初めて応募した際は、太陽光システムに関する研究を採択いただきました。その際、過去採択案件と明確に切り分けた研究内容での応募が必要とのことでしたので、今回は社会で脚光を浴びている電気自動車(EV)のバッテリというテーマで応募することにしました。
前職で太陽光電池やバッテリの寿命評価などの業務に携わっていた私は、大学で学んだ電気系知識の強みを活かそうとパワーエレクトロニクスを独学で身につけました。パワーエレクトロニクスの技術者はバッテリや太陽光電池を単なる電圧源、電流源として考えがちですが、単純につないで動かすだけではない部分もあります。前職で培った経験に大学や独学で学んだ知識を融合させたことで、パワエレだけもしくはバッテリだけを扱っていては発想しにくいテーマで応募できたと自負しています。

いかにシンプルにするか

Q.研究内容をお教え下さい。

EVの電力源として用いられるリチウムイオンバッテリ(LIB)の特性は低温環境下で大きく劣化します。特性劣化を防ぐためにヒータが用いられますが、空気や液体を熱媒体にした「外部加熱」では熱漏れが生じるため加熱効率が悪く、加熱ムラによるLIBの早期劣化が懸念されます。それに対し、LIBの内部抵抗におけるジュール熱を利用した「内部加熱」では熱漏れや加熱ムラが生じないため、EV用LIBの加熱手法として有望視されています。しかし内部加熱手法ではLIBに対して数kHzの交流電流を与えるためにインバータの追加が必要となり、EVの複雑化や高コスト化を招きます。この研究では、EVの充放電器およびセルバランス回路を利用することでシンブルかつ低コストの交流内部加熱手法を開発しました。
このテーマでは既にあるものをEVに再利用することで、新たな部品を追加する必要がありません。性能としては最高ではないですが、合理的で無駄が無いところが大きな特徴と思っています。
工夫しているのはアイデア出しです。部品を減らしてシンプルにしながら機能を追加することはとても難しく、アイデア出しが命となります。研究室の学生たちと一緒に、シンプルにするためのアイデア出しに力を入れています。

共同研究に力を入れる

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

既にある企業と共同研究を実施しており、今後は先方からの意向や要望を詳細に伺ってテーマに反映していくことになります。例えば車載充電器を利用して加熱する技術を応用して、車載のモータを駆動させるインバータやモータ自体を使った加熱などにも取り組んでいきたいと思っています。企業との共同研究は学生のモチベーションや能力向上につながり、社会人としての姿勢も学べます。今後もこの研究をより大きく発展させたいと思っています。

自分の価値を問い続けよう

Q.最後にひとことお願いします。

電気工学を学んでいる学生の皆さんに理解していただきたいのは、日本人1人の人件費で発展途上国の人を複数人雇えるということです。皆さんには、自分には発展途上国の複数人と同等の価値があるかということを常に自問していただきたいと思います。
また誰かの指示に従って行動するという仕事は、今後ロボットやAIに置き換えられるでしょう。学生の皆さんは環境問題解決に不可欠な電気工学を学ぶ、将来有望な技術者です。その価値に見合った仕事に取り組んでくれることを希望します。


電気工学の未来