特別推進研究
高圧直流電気鉄道システムの実現を可能とするハイブリッド直流遮断器の開発
2024年6月掲載
研究者 | 東京工業大学 工学院 電気電子系 全 俊豪 助教 |
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※上記肩書きは、採択時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています
高圧直流電化方式を採用した鉄道システムの要となる高速高圧直流遮断器を開発。エコロジーな次世代型交通インフラ実現への貢献を目指しています。
非常にありがたい寄付金としての研究助成
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
最初にパワーアカデミーという団体を教えて頂いたのは埼玉大学の稲田先生であり、電気学会の懇親会でヒューズと半導体を組み合わせた新しい遮断器というアイデアを一緒に考えました。その時、チームに研究費を助成するパワーアカデミーのチーム型萌芽研究に応募しようと二人で決めて、東京大学の大西先生を引き入れて2018年度に応募し、採択されました。その後、研究チームで研究を進めて、私が代表として2021年度のパワーアカデミー特別推進研究に応募し、採択されました。
特にパワーアカデミーの研究助成は大学の先生にとって非常にありがたい寄付金としての研究助成であるため、優先的にパワーアカデミーの研究助成に応募しようと考えています。
究極の直流遮断器の開発に向けて
Q.研究内容をお教え下さい。
高圧直流電化方式を採用した鉄道システムは、環境と調和したエコロジーな次世代型の交通インフラであるにもかかわらず、システムの要となる高速高圧直流遮断器の不在が致命的な欠点となっており、システムの実現は長年滞っています。そこで本研究では、事故電流を減少させる限流が得意であるヒューズと確実な電流遮断が得意な半導体パワーモジュールを組み合わせた新しい高圧直流遮断器を開発しています。また、位置決め制御を融合させたヒューズ交換装置を採用したことで、高速の再閉路も達成し、オリジナリティあふれる高速高圧直流遮断器を開発することに成功しました。今後は、更なる高電圧大電流を目指して、高圧直流遮断器のスケールアップを図ることで、HVDC送電まで視野にいれた、究極の直流遮断器の開発を目指しています。
企業との共同研究を経て、社会実装へ
Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。
現在までの研究成果として、1.5 kV/6 kAクラスの直流の事故電流遮断に成功しています。これは現在山手線で使われている直流遮断器と同等のスペックです。そして、我々の遮断器のヒューズ、半導体パワーモジュール、ヒューズ交換装置それぞれ更なる高圧化に成功し、当初目標としていた、25 kV/1 kAの電流遮断は十分可能な領域に到達しています。しかし、25 kV/ 1 kA級の直流遮断実験設備はとても大学が所持できるものではなく、企業の研究所などの実験設備を借りて試験をする必要があることから実証実験が出来ていません。今後は直流遮断器の更なる高電圧大電流化を進めると共に、研究所の実験設備をお借りした実証実験を達成し、企業との共同研究を推し進めることで、一日でも早い社会実装を目指して研究を進めていきます。
持続可能な低炭素社会の実現を目指す
Q.最後にひとことお願いします。
ハイブリッド直流遮断器の研究はまだまだ進行途中であり、今後も研究を進めて社会実装までたどり着きたいと思います。低炭素社会の実現には電気工学の進歩がなければ到底不可能です。これから進路を決める高校生の方の中には、環境問題やエネルギー問題に興味がある人が多いと思いますが、まずは電気工学を学び、持続可能な低炭素社会の実現に向けて頑張ってほしいと思います。