電気自動車のさらなる進化のために、急速充電器の新たな電力変換の提案  名古屋工業大学 鈴木 一馬さん(博士後期課程)

2019年5月掲載

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

観光地や高速道路などで最近よく見かける、電気自動車用の急速充電器。名古屋工業大学の鈴木一馬さんは、急速充電はもちろんのこと、最終的には車両から電力系統へスムーズに電力供給することを目指して、電力変換器の新たな制御方法を提案しました。

研究助成に過去、応募した先輩から進められて

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

名古屋工業大学 鈴木 一馬さん(博士後期課程)

指導教員である竹下隆晴先生や博士課程の先輩からの研究資金獲得に関する助言を頂いたことが、パワーアカデミー研究助成に応募するきっかけとなりました。当時、博士課程に進学したばかりの私は実験にかかる費用や学会発表費用などの研究資金を獲得しようと考えていました。しかしながら私自身、研究資金獲得に関する知識は乏しく、また博士課程の学生が応募できる研究助成も少なかったことから、どのような研究助成制度に応募すれば良いのかわからずに悩んでいました。そのようなとき、竹下先生や博士学生の先輩(その先輩もかつては研究助成に応募していました)からパワーアカデミーに関して教えていただき、萌芽研究(博士課程学生枠)に応募させていただきました。

急速充電器の新たな可能性を広げる、AC/DCコンバータの研究

Q.研究内容をお教え下さい。

車載用バッテリーなどの急速充電に使用される双方向絶縁型AC/DCコンバータの研究を行っています。一般的な絶縁型AC/DCコンバータとして、商用トランスを用いた電力変換方式と高周波トランスを用いた電力変換方式が提案されています。電気自動車などの充電設備拡張のため、設置スペースや経済的な観点から小型高効率な電力変換器が必要となっています。
そのため、本研究では下図に示す、高周波トランスによる絶縁および2ステージ電力変換方式といった特徴を持つ変換器において、これまでの課題であったスイッチング時の損失を抑制する為のソフトスイッチング制御(※1)を提案し、絶縁型AC/DCコンバータのさらなる小型高効率化を行っています。将来的には、車両から電力系統へスムーズに電力供給することも視野に入れています。

(※1)ソフトスイッチングとは、スイッチング素子の電流や電圧がゼロになってから、スイッチ素子のON/OFFを行うスイッチング方式。

図:絶縁型 AC/DCコンバータの電力回路

Cの電力変換回路を用いて、ソフトスイッチング制御方式を提案した

現在の数十kWから、数百kWを超える超急速充電の実現も視野に

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

名古屋工業大学 鈴木 一馬さん(博士後期課程)

研究の成果として、すべてのスイッチにソフトスイッチングを適用する制御法を考案し、出力条件を変化させた場合におけるソフトスイッチング適用可能範囲を理論および実験により確認しました。ソフトスイッチング適用可能範囲において電力変換効率が向上することを確認し、定格出力1.8kWの試作システムにおいて、出力電力800Wで充電動作96.9%、放電動作97.2%の最高効率を達成しています。また商用トランス方式と比較して、システム全体の体積を約91%低減できることを確認しています。現在は数十kWの急速充電器が主流となっていますが、バッテリー容量増加や充電時間短縮のための数百kWを超える超急速充電の開発を今後は行いたいと考えています。

目に見えない電気を扱うことが、面白くなるときがある

Q.最後にひとことお願いします。

日本の博士課程の現状として、経済的理由などにより博士課程への進学を諦める人も多いと思います。博士学生を対象とした研究助成制度が少ない中、研究費用に加えてリサーチアシスタントとしての給与を支給していただけるパワーアカデミー研究助成の「萌芽研究(博士課程学生枠)」制度は大変ありがたいものだと思います。電気工学分野での将来を担う博士課程学生を経済的に支援する研究助成制度を今後も維持していただけることを期待しています。
自動車電動化やスマートグリッドの実現など、電気工学は今後の社会がさらに発展していくために必要不可欠なものです。電気という目に見えないものを扱う分野なので、電気工学を学び始めた最初のうちは電気を制御するといった具体的なイメージを持つことが難しいと思います。自分が高校生のときを思い起こしても同じでした。しかしながら電気工学は、知れば知るほどその奥深さや面白さを感じることができます。特に、電気を思い通りに制御できたときに感じる嬉しさや達成感は何ものにも代えがたい貴重な経験だと思います。学生の皆さんには、失敗を恐れず何事にも挑戦してほしいと思います。


電気工学の未来