バイオマス発電の重要な課題を解決する新たなパルスパワー応用の開発。/愛媛大学 弓達 新治 助教

2019年5月掲載

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

地球上に広く薄く分布する木質バイオマスを利用した、バイオマスガス化発電が注目されていますが、一番大きな課題は、ガス中に含まれる不純物であるタールが配管、発電設備内へ付着することです。愛媛大学の弓達新治助教は、パルスパワー技術を用いて、“バイオマス発電の燃料生成過程における不純物除去”のための新しい方法を提案しました。

パルスパワーの新たな可能性を切り拓くために

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

愛媛大学 弓達 新治 助教

パワーアカデミーの研究助成の存在は、いろいろな先生方に教えてもらって知っていました。私が所属する高電圧研究室はパルスパワーを利用した、水処理などの研究を行っており、その新しい応用ということで応募に至った次第です。
OHラジカルにより、難分解物質を含む有害物質を分解可能であることは広く知られていますが、まだOHラジカルの高効率発生方法については研究段階です。そこで、エレクトロスプレー針(※1)を使って、液体を微小なサイズ(ミスト)にし、同じスプレー針から放電進展をさせれば、液体と放電プラズマとの反応が促進し、OHラジカルの高効率発生が可能となるのではないかと考えました。しかしながら、ミスト発生と放電進展はトレードオフの関係にあることが知られ、苦戦してきました。エレクトロスプレー針に印加する電圧を最適化すれば可能となるのではないかと考え、パワーアカデミーの萌芽研究に応募しました。

(※1)エレクトロスプレーとは、先端のとがったチューブに高電圧を加えることで電界集中により液体がスプレーされる現象

環境にやさしい放電で、タールを除去する

Q.研究内容をお教え下さい。

愛媛大学 弓達 新治 助教

バイオマス発電の大きな課題である、ガス中に含まれる不純物であるタールが配管、発電設備内へ付着することを除去する研究です。
具体的には、エレクトロスプレーという、針電極に高電圧を印加して“ミスト”を発生させる方法を用います。さらに、同じ針からミスト空間に向かって、放電を進展させて、分解除去に必要な活性種を高効率に発生させます。そのような空間にタールを含むガスを通過させれば、タールが分解されることが期待できます。
特別な薬品を用いることなく、水と電気のみを用いる方法であり、環境に優しいことが特徴です。また、それにかかる消費電力も少なく、従来からある放電のみによる方法を大きく上回ることが期待できます。

適用範囲は無限、大気汚染対策にも抜群の威力を発揮する

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

今回は、ガス中のタール成分を模擬したトルエンを除去することができましたが、この技術で分解できるは、特定の物質だけではありません。さまざまな有害物質、しかも難分解物質の分解が可能です。したがって、さまざまな化学物質の組み合わせを原因とした大気汚染対策にも有効です。また,今回の研究成果は、液中の有害物質の分解除去も可能です。液体、気体を問わず、安全に除去できるので、適用範囲は無限であると思っています。

「トルエン分解除去実験」最適パルス電圧を用いた場合噴霧の効果が表れている。

電気工学はさまざまな研究分野で、本質的な役割を果たす

Q.最後にひとことお願いします。

パワーアカデミーの研究助成および成果発表会は、研究者にとって非常にはげみになります。特に成果報告会は他の採択者がどのような研究をやっているのかわかるので、非常にありがたいと思っています。
これから、どんな分野にも電気工学の力が重要になってくると思います。さまざまな研究分野がありますが、電気を使わない実験装置はなかなか見当たりません。さらに、今後これまで以上に、電気工学が、さまざまな研究分野において本質的な役割を果たしていくものと思います。そのためには、学生時代も含め、色々なことを勉強して、色々なことに取り組んでいくことが大切なのかなと考えています。電気工学の基本的なことを勉強することは非常に大切です。ただ、研究段階においては、まったく新しい分野に対しても挑戦する気持ちをもつことが大切だと思っています。


電気工学の未来