振動エネルギーを小電力源として活用する振動発電デバイスの開発/北海道大学 佐藤 孝洋さん(博士課程枠)

2014年5月掲載

※肩書きは採択時のものです。

環境発電(エナジーハーベスト)をご存じでしょうか。振動や光、熱、電磁波といった、従来では捨てられていた小さなエネルギーを収穫して発電する技術です。まさに電力を自給自足する究極のエコ発電と言えます。北海道大学の博士課程・佐藤孝洋さんは、環境発電技術のひとつ“振動発電”を、電磁誘導によるデバイス開発で取り組みました。

博士課程の研究に必要な予算を、自分の研究で獲得したい

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

北海道大学 佐藤 孝洋さん(博士課程枠)

学生とはいえ、博士課程になると実験や学会発表に必要な経費はかなり多くなってきます。研究に必要な物品や参加したい学会に自由に行くためには、自分で計画を立てて使用できる予算が必要だと思っていました。そんなとき、指導教員(五十嵐一教授)がパワーアカデミーのメールマガジンを購読しており、研究助成の案内がありました。萌芽研究のテーマが私の研究内容と近いこともあり応募を勧められ、また私も助成の獲得を目指していたため、応募しました。

車が橋を通っただけで発電できる「振動発電」

Q.研究内容をお教え下さい。

北海道大学 佐藤 孝洋さん(博士課程枠)

近年普及が進む無線センサICを使えば、老朽化が進む橋梁や送電線鉄塔などの構造物を遠隔監視するなど、様々な新システムを構築できると期待されています。ところが大量に配置する無線ICにバッテリを搭載すると、その交換に膨大な保守コストが発生してしまいます。そこで「振動発電」の研究に取り組んでいます。

振動発電とは“環境発電(※1)”のひとつで、微弱な振動から電力を回収する機構です。振動発電が実用化されれば、例えば車が橋を通った際に生じる振動から発電し、無線ICを動作させることが可能になり、バッテリを使用せずにICを使用し続けることが可能です。

振動発電にも仕組みはいくつかありますが、電磁誘導の原理(※2)により発電する電磁誘導タイプを対象に研究を行い、発電特性の良い新たなデバイス形状の開発に取り組んでいます。

  • (※1)振動や光、熱、電磁波など、身のまわりの小さなエネルギーを採取して発電する技術。エナジーハーベストとも呼ばれる。
  • (※2)電磁誘導の原理は、高校理科と電気工学「世界初のモーターとファラデー」をご覧ください。

発電が可能となる振動の周波数帯域を拡大させる

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

振動発電では、バネを振動で揺らし、磁石を振動させて発電しますが、バネは共振周波数の振動でしか大きく揺れません。発生する振動の周波数がわかっている環境で使用するのであれば問題ありませんが、実環境では周波数が予期できないこともあります。したがって振動発電の実用化にあたっては、発電量を増加させることに加え、発電可能な振動の周波数帯域を拡大する必要があります。

開発したデバイスのシミュレーション結果

そこで磁石と磁性体に働く電磁力を活用してデバイスにバネ以外の力を加え、発電できる周波数帯域を拡大させることを試みました。数値シミュレーションでデバイスの特性を解析した結果、電磁力を有効に活用すれば「カオス振動」が発生し、共振周波数以外でも発電量を保てることを確認しました。また実際にデバイスを試作し、発電可能な周波数帯域が拡大していることを確認しています。現在は振動発電の設計までですが、今後は無線ICと接続して実環境で発電させ、ICを動作させることを目指しています。

電磁誘導型振動発電

電磁誘導型振動発電

PA研究助成は博士課程がチャレンジできる数少ない研究助成

Q.最後にひとことお願いします。

今後、いかに電力を生み出すか、いかに電力を使用するかの2つがますます重要になり、電気工学が担う役割は大きくなるだろうと思います。将来の電気工学を担う人材を育てるためにも、当該分野の博士学生を支援する制度は非常に重要だと思います。実際、私も本助成を受けて非常に助かりました。博士課程が申し込める数少ない研究助成をこのまま維持していただければ幸いです。

また助成をいただいたおかげで、当初の目的通り、研究に必要な器材の購入や希望の学会へ参加することができました。今後はさらに研究の精度を高めて、メーカー様とも共同で開発を行いたいと考えています。パワーアカデミーとつながったご縁を活かして、取り組めたらと思っています。

北海道大学 佐藤 孝洋さん(博士課程枠)

電気工学の未来