地球にやさしい『空気』の放電特性を解明して、絶縁・診断技術の高度化と、環境汚染の影響を明らかにする。/九州工業大学 大塚 信也 准教授

2016年5月掲載

普段はあまり意識しませんが、実は『空気』は環境にやさしく、電気を通さない絶縁体です。九州工業大学の大塚准教授は、ご自身が開発された「先端計測装置」を応用展開して、この『空気』の放電特性を明らかにすることで、空気(気中)絶縁電力機器(※1)での問題の解明や診断技術の開発を試みました。さらにこれによって、PM2.5などの環境汚染物質もどのように電気絶縁や放電現象に影響するのか、解明に取り組みました。

※肩書きは採択時のものです。

(※1)発電所や変電所で使われている遮断器や断路器など。

独自の「先端計測装置」を応用展開して、新たなステージへ

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

九州工業大学 大塚 信也 准教授

これまで、放電物理の解明や電磁波検出に基づく絶縁診断技術の高度化の観点から、SHF帯(3GHz~30GHz)と呼ばれるような超広周波数領域まで、psオーダの極短時間分解で部分放電電流波形を計測できる「先端計測装置」を開発しています。SF6ガスや鉱油中放電実験に適用すると、それらの立上がり時間は10~数10psオーダで、従来の知見より一桁以上、短い時間であることがわかってきました。

そこで、この「先端計測装置」を使用して、環境に優しい「空気」の絶縁特性のばらつきや再現性を統計的解析により検討したり、PM2.5のような大気環境が気中電気絶縁や放電特性にどのように影響するのかを検討したいと思って、応募を考えました。

絶縁診断技術の高度化と、大気環境評価の基礎研究

Q.研究内容をお教え下さい。

九州工業大学 大塚 信也 准教授

①気中放電電流波形の先端計測と統計解析に基づき、地球環境にやさしい電力機器の信頼性や安全性を向上させ電力の安定供給に貢献する研究。

②PM2.5などの大気環境が電気絶縁や放電現象に与える影響を明らかにする先導研究。

大気中の放電特性を評価可能へ、環境汚染が深刻な国でも解明へ

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

「先端計測装置」を用いて大気と乾燥空気およびSF6ガスの部分放電電流波形を比較すると、大気の放電電流波形の立上がり時間やピーク値のばらつきはSF6ガスと比べて大きく、絶縁媒体間の相違を定量的に評価できるようになりました(図1)。また、大気と乾燥空気にも相違が認められ、PM2.5濃度と大気部分放電開始電圧(負極性)には統計的に有意な相関があることが示されました。

今後は、例えば、インドや中国などPM2.5濃度のより高い地域と連携して大気放電特性の広域測定、評価などを通した国際交流や、光学測定技術などの導入による本先端計測装置の更なる高度化を目指して行きたいと考えています。

図1:超広帯域測定による各ガスの負極性PD電流パルス波形の一例

自由な発想と常識にとらわれない挑戦を、電気工学でしてほしい

Q.最後にひとことお願いします。

電気工学は、エネルギーから環境問題の解決、科学技術の進歩を支える重要な基礎学問分野の一つで、対象とする領域は幅広く、他の学問分野との連携や融合も重要となっています。パワーアカデミーは、このような電気工学の教育研究活動の支援と共に、大学と企業の相互の問題共有や人材•技術交流の機会や仕組みの提供、および実験を中心とするハード系の基礎研究の支援を今後も期待します。

学生のみなさんには、電気工学が重要で魅力的な学問分野であることを認識し、夢と希望を持って学び、自由な発想で常識に捕われない挑戦をしてほしいと思います。テキストや教科書など、今ある既成概念のものがいつも正しいとは限りません。私自身も常日ごろから面白いことをやりたいと思っています。いっしょに面白いことをやっていきましょう。

九州工業大学 大塚 信也 准教授

2016年3月16日に開催された研究助成・成果報告会の様子。


電気工学の未来