萌芽研究
GPVデータを用いた系統全域における太陽光発電システム群の合計出力予測
2013年7月掲載
※肩書きは採択時のものです。
東日本大震災以降、再生可能エネルギーの導入が進み、その中でも特に太陽光発電の導入量の増加はめざましいものがあります。しかし天候の変動により、出力の不安定さが大きな課題です。こうした課題解決のための対策を行うには、複数の太陽光発電の合計出力変動を予測する必要があります。名古屋大学の加藤 丈佳准教授は、中部地域全体における翌日の空間平均日射量の1時間値を、高精度で予測することに成功しました。
萌芽研究で、日射予測の有効性を検証したい
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
パワーアカデミーが創設された2008年に調査研究委託の募集があり、「都市域における太陽光発電群の面的発電特性評価のためのGISデータの利用可能性に関する調査研究」という研究を採択していただきました。2009年からは現在のような研究助成が実施され、機会があれば応募したいと考えておりました。
この間、独自に日射予測に関する基礎的研究をすすめ、前日予測の補正のために天空画像を利用することに着目しておりました。日射予測では電事連による通称PV300(※1)の日射データも利用させていただいておりましたので、天空画像の有効性を検証するに際し、パワーアカデミーの萌芽研究に応募いたしました。
※1 PV300:太陽光発電の出力変動や平滑化効果等について、全国300箇所程度で実測データに基づく分析・評価を行っている。詳細は、経済産業省HP資料を参照。
“大はずれ”を防ぐ、信頼性の高いPV出力予測をとるために
Q.研究内容をお教え下さい。
太陽光発電の普及拡大が期待されていますが、一方で電力系統の安定運用に様々な影響を与える可能性があり、対策として蓄電池の利用などが検討されています。様々な対応策の有効活用には、太陽光発電の出力予測が不可欠です。そこでこの研究では、系統全域における太陽光発電群の合計出力に関して翌日1時間値を予測する手法の開発(※2)に取り組みました。特に、これまでの基礎的検討から、予測の元データとして利用する気象の数値予報に起因する日射予測の“大はずれ”が年に数日発生することがわかっていましたので、実用的な観点から予測の信頼区間の算定に取り組みました。
また、系統発電機が起動する数時間前に予測の大はずれを判別するため、日の出前の天空画像を利用することとしました。衛星画像を利用することも考えましたが、既に他で検討されていたことと、よりハンドリングしやすい情報という意味で天空画像(全天画像)を利用することとしました。
※2:使用データは、気象庁より前日18:00~当日6:00配信のメソ数値予報モデル格子値(MSM-GPV)。リアルタイムの気象庁データは有料ですが、アーカイブは様々な大学のホームページなどで見られます。
例)東京大学生産技術研究所喜連川研究室 HP GPV Data Archive
図1 日の出前の全天画像による空間平均予測の補正
予測精度は向上、90%の確率の“予測の信頼区間”も算定
Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。
中部地域を対象として翌日の空間平均日射量1時間値を予測した結果、年間の平均絶対誤差率(%MAE)が16.0%の精度で予測でき、単地点の予測と比較して10%程度向上しました。また、1時間ごとに算定される気象数値予報のセットを6種類に類型化し、90%の確率で予測が的中する“予測の信頼区間”を算定することができました(図2)。今後は、サンプルデータ数を増やし、極めて大きな誤差が発生する状況にも適切な信頼区間をできるように研究を継続していく予定です。
さらに、予測の大はずれを防ぐため、全天カメラを設置して日の出前数時間の全天画像を撮影し、色情報と日の出から数時間後の中部地域全域の空間平均日射量との関係性を評価しました。その結果、日の出前の全天画像の色相により、前日予測の大はずれを検知できる可能性を確認できました。今後は、天空画像の撮影地点を増やし、予測補正のさらなる高信頼度化を目指します。
図2 空間平均日射の予測値と信頼区間
電力事業の変革期の中で、電気工学研究者・技術者は不可欠です
Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。
今年2月に電力システム改革に関する方向性が示され、今後、電気事業を取り巻く状況は大きく変化していくと考えられます。これに対応するためには、電気工学分野の優秀な研究者・技術者を増やすことが不可欠です。大学からそのような学生を数多く輩出するため、産学連携を推進するパワーアカデミーには、例えば将来的に電気工学に関わる分野への就職を希望する学生が博士課程(後期課程)に進学しやすい環境を整えるなど、優秀な人材育成のためのさらなる支援を期待します。
また、優秀な人材を増やすためには電気工学分野のすそ野を広げることが重要です。そこで、電気学会だけでなくエネルギー資源学会など他の学会活動にも活動の場を広げ、幅広い分野の研究機関、企業、学生の交流を通じて電気工学分野を活性化していただきたいと思います。