スマートインバータの製品規格や製品開発に影響を与える/北海道大学大学院 川島 伸明さん(博士課程枠)

2022年7月掲載

研究者北海道大学大学院 川島 伸明さん(博士課程枠)

※上記肩書きは、インタビュー時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています

スマートインバータがどの程度系統安定度向上に貢献するかを明らかにすることを目指し、スマートインバータが系統内に多数台導入された際の効果をみるモデル簡略化(縮約)手法の研究に取り組みました。

先生・先輩からのアドバイスで

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

私が所属している研究室はパワーアカデミーと関わりが深く、これまでも多くの先輩がこの研究助成に応募してきました。申請書で自分の研究をわかりやすく説明することや外部資金を獲得・運用することは研究者としての大きな経験になると先生・先輩からアドバイスをいただき、今回応募することにしました。
パワーアカデミーの魅力は、リサーチアシスタント費用を計上できるなど資金運用の自由度が高いことです。加えて電力会社やメーカーとコミュニケーションを取れる機会があることも見逃せません。オンライン開催の学会が多い中、実際にメーカーの方と接することができたのは、貴重な経験となりました。

電力系統モデルの計算コストを下げる

Q.研究内容をお教え下さい。

再生可能エネルギーの導入促進により、太陽光発電や風力発電などのインバータを介して電力系統に連系する電源(インバータ電源)が多数導入されると、系統の安定度が低下することが予見されます。このことから、インバータ電源に系統をサポートする機能を付与する制御手法の研究が盛んに行われています。
このような機能を有するインバータ電源はスマートインバータと呼ばれますが、これが広範囲かつ大量に連系した場合に、どの程度系統安定度向上に貢献するかは定量的に明らかになっていません。シミュレーションでその影響を明らかにする際、詳細なインバータ電源モデルを多く含むモデルを用いると、計算コストは莫大なものになります。
そこで私はスマートインバータを含む電力系統モデルの計算コストを下げ、かつ、詳細なモデルと同様の応答を再現できるモデル簡略化(縮約)手法を開発することを目的として研究に取り組みました。

スマートインバータの定量的評価を可能に

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

今回は周波数の変動に対して有効電力を制御する機能、電圧の変動に対して無効電力を制御する機能を持ったスマートインバータを含む系統の縮約手法を提案しました。現在、従来の電流源として動作するインバータではなく、電圧源として動作することで系統の安定度を向上させるグリッドフォーミングインバータの研究開発が進められていますが、これを含む系統の縮約手法の開発もすでに完了しています。インバータ電源に付与できる系統サポート機能は様々ありますが、縮約モデルを用いることでそれぞれの機能が連系した場合、電力系統の安定度にどの程度貢献するのか、また将来インバータ電源が主となった場合に、どの機能をもつインバータがどの程度必要となるのか等、定量的に評価することが可能となります。
さらに先の展開として、シミュレーションにより電力系統全体の挙動を明らかにし、スマートインバータの各機能をどのように制御するのがよいか、提案することも可能となります。これによりスマートインバータの価値が定量的に評価でき、将来の製品規格や製品開発にも影響していくと考えています。

ぜひ博士課程に進んでほしい

Q.最後にひとことお願いします。

一般的には博士課程進学者は少数ですが、私が在籍する研究室には比較的多くの博士課程進学者が所属しています。皆さんの中には経済的な状況などで進学をためらう方がいらっしゃるかもしれません。しかし電力・エネルギー分野は助成金や卓越大学院プログラムなどもあって、他分野に比べて経済的な面で恵まれており、博士号が活用できる就職先も多いと感じます。研究が好きな方・興味がある方には、ぜひ博士課程に挑戦していただきたいと思います。


電気工学の未来