超伝導の新たな可能性を拓く、Y系超伝導線材を用いた直流送電ケーブルの開発  成蹊大学 三浦 正志 教授

代表者 成蹊大学 三浦 正志 教授
共同研究者 東北大学 淡路 智 教授
九州工業大学 木内 勝 准教授

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

液体窒素温度で超伝導状態となる、YBa2Cu3Oy(以下Y系)線材は、高い臨界電流を有することから電力機器への応用が期待されています。中でも、将来の再生可能エネルギー利用を目的として直流超伝導ケーブルによる大容量送電が求められています。成蹊大学の三浦正志教授をはじめとする研究チームは、これまで難しいとされてきた、縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブルの開発に挑みました。

各自の専門領域を生かして、困難とされてきた課題に挑む

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

成蹊大学 三浦 正志 教授

九州工業大学の松下照男名誉教授により提案されてきた「縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブル」は、外側シールド層の電流により発生させた磁界のもとで内側導体に縦磁場(電流と磁場が並行)が加わる構造とするため、超伝導体内に侵入する量子化磁束の運動の原因であるローレンツ力(※1)が発生せず、従来ケーブルより大容量送電が可能とされてきました。しかし、実際には、縦磁界下でも熱振動やトルクにより量子化磁束が運動し、縦磁場中臨界電流が低下し、縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブルは難しいとされてきました。
そこで、材料開発・線材作製を成蹊大学、高磁場特性評価を東北大学、ケーブルの設計・試作を九州工業大学が担当し、革新的縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブルの実用化に展開するための基盤研究を行うため、グループ研究である特別推進研究の応募に至りました。

(※1)磁場中を運動する荷電粒子に作用する力のこと

新たなスマート社会に貢献するY系超伝導ケーブルの開発

Q.研究内容をお教え下さい。

新たなスマート社会として、下図に示すように既設の交流送電に加えて、①太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電、②Li電池や超伝導電力貯蔵装置(SMES)による蓄電、③鉄道やEVなど直流が必要となるため、交流送電と共存した形で低送電ロスの大容量直流送電が求められています。もし、液体窒素温度下で大容量かつ長距離縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブルが実現できれば、将来の大容量直流送電ケーブルの一つとしてエネルギーの高効率利用や大幅なCO2削減に大きく貢献できると考えています。

図 本研究で開発する縦磁界利用大容量Y系超伝導直流ケーブルが貢献する社会

縦磁界下ではローレンツ力は無いが、磁束線の歪構造を開放しようとするトルクや熱振動により磁束が運動するため、この運動を抑制する人工欠陥(非超伝導相)導入がさらなる縦磁界中臨界電流向上の大きな鍵となります。
そこで本研究では、Y系超伝導線材に磁束ピンニング点(※2)として非超伝導ナノ粒子のサイズや密度を制御することを試みました。具体的には、下図に示すように非超伝導ナノ粒子の導入により磁束トルクを抑制し、高い縦磁界中臨界電流を有するY系超伝導線材の創製を目的に研究を行いました。
また、この線材を用いた磁界利用Y系超伝導直流ケーブルの設計・試作を行い、革新的縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブルの実用化に展開するための基盤研究を確立することを目的としました。

図(a)ナノ粒子による磁束運動抑制、(b)予想される磁場中Jc特性

(※2)磁束が超伝導の内部にある常伝導部分に捕らえられ、ピンニングされる現象。

世界最高の総磁界臨界電流値を誇る線材と、ケーブル試作に成功

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

成蹊大学 三浦 正志 教授

人工欠陥としてサイズ・密度を制御したBaHfO3ナノ粒子を導入したMOD法(※3)Y系超伝導線材を作製し、縦磁界における磁場中特性を評価した結果、線材としての縦磁界臨界電流値として世界最高の特性を得ることに成功しました。また、ケーブル試作に向けて、1cm幅・20m長のBaHfO3導入PLD法(※4)Y系超伝導線材を作製し、これを用いた1層の縦磁界利用Y系超伝導直流ケーブルを試作しました。その結果、人工欠陥を導入していない線材を用いたケーブルの1.2倍以上の総電流容量を達成しました。
今後は、実用化に向けて層数やケーブル長さを増やすことが必要となります。また、基礎研究という点では、縦磁界における人工欠陥と量子化磁束の関係を明らかにすることでさらなる特性向上につながると考えています。

(※3)Metal Organic Decomposition法/有機金属分解法
(※4)Pulse Laser Deposition法/パルスレーザー堆積法

失敗は恐れずに、チームプレーで研究しよう

Q.最後にひとことお願いします。

誰も挑戦していない研究では、100回実験をしても、その90回以上は自分の予測どおりになりません。失敗ばかりしていると、自信を失っていきますが、原因を考え、試行錯誤することで謎が解けていきます。私が研究する上で常に自身に言い聞かせていることがあります。それは「失敗は何かにつまずいて転ぶことではなく、その後、立ち上がらない場合に『失敗』というのだ」ということです。研究は毎日新しいことに挑戦しているため結果の出ない実験の連続ですが、その中に立ち上がるヒントが必ずあると信じて努力を続けることで結果がついてきます。また、個人が能力を上げ、努力し続けることも大切ですが、それ以上に「人とのつながり」が重要だと思います。今回、我々が一つの大学だけでは到底できないことが達成できたのも、共同研究者とのチームプレーだったからです。
Y系超伝導線材を用いた大容量直流送電はまだ実現していませんが、近い将来、実用化されエネルギーの高効率利用や大幅なCO2削減に大きく貢献できる「必要不可欠な超伝導技術」となるよう、今後も果敢に挑戦し続け、本気で好きな研究を楽しみたいと思います。


電気工学の未来