経済的な安心感のもと、有機太陽電池の新たな発電層の開発に挑む。/山形大学 武田 将貴さん(博士後期課程枠)

2020年5月掲載

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

注目が集まる有機太陽電池について、その弱点克服を目指して電荷移動錯体という材料の薄膜化技術の研究に挑戦中。「パワーアカデミー研究助成」によって経済的な心配をせずに研究に打ち込むことができているとのことです。

予算は可能な限り自分の力で調達したかった

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

山形大学 武田 将貴さん(博士後期課程枠)

「パワーアカデミー研究助成」の存在は、同じ研究室に所属していた2つ上の博士課程の先輩が助成をいただいていたことから知っていました。当時私は修士の2年で、博士課程へ進学するつもりでいたことから、可能な限り予算を自ら調達しながら研究に取り組みたいというのが大きな動機でした。
本研究助成の特徴として、費用の50%を上限にリサーチアシスタント代として計上できる点が大変に魅力的でした。博士課程では、授業料と生活費はできるだけ自分の力で賄いたいと考えていたので、リサーチアシスタント代は非常に助かりました。

有機太陽電池の変換効率の飛躍的な向上に貢献

Q.研究内容をお教え下さい。

有機太陽電池への応用を指向した電荷移動錯体の薄膜化技術の研究をしております。
電気をつくる層に有機材料を用いた太陽電池である有機太陽電池は、印刷技術での生産が見込まれることや、柔軟性といった特徴から注目が集まっております。利用拡大のためには耐久性を上げることと生産コストを抑えること、さらに光を電気に変える効率を上げる必要がありました。しかし、有機太陽電池は発電原理的にエネルギー損失が大きく、変換効率の飛躍的な向上が難しいというのが現状です。
そこで私は、電荷移動錯体という材料を発電層に使うことで、この問題の解決を目指しています。電荷移動錯体は結晶性が高いために太陽電池に使える薄膜をつくることが困難なので、「パワーアカデミー研究助成」によって、電荷移動結晶の薄膜化技術の開発に注力して研究を行っています。

電荷移動錯体の新しい手法を開発

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

山形大学 武田 将貴さん(博士後期課程枠)

薄膜化へ向けた戦略として、まず電荷移動錯体をナノ結晶化し、ナノ結晶を積層することで均一な膜形成を目指しています。しかし、当初予定した研究計画では、電着法を用いたことなどにより穴だらけの積層膜しか作製できませんでした。そこで、まずナノ結晶のつくり方そのものを見直し、実験を重ねるなかで、電荷移動錯体の新しいナノ結晶化手法(CTRP法)を見出しました。
この手法の特徴としまして、電荷移動錯体を高濃度の分散液で得られること、操作手順を少し変えるだけで作製できる結晶の形が変わること、既存の電荷移動錯体すべてに応用が可能といった特徴があります。今後はこの手法で作製したナノ結晶を用いて緻密な薄膜を作製し、私たちが目指す有機太陽電池の実現へ向けて舵を切りたいです。

博士課程への進学者減少に強い危機感

Q.最後にひとことお願いします。

山形大学 武田 将貴さん(博士後期課程枠)

博士課程のうちに自分の名前で申請できる研究助成を頂けたことは、資金面においても大変ありがたく、研究に取り組むうえでの大きな励みとなりました。モチベーションが大いに上がったと実感しています。海外渡航や論文投稿など多様な経験を積むことができ、また、助成期間内に見出した成果にて学会受賞や新たな外部資金の獲得にも至りました。これから博士課程へ進学する皆さんのために、研究助成を今後も継続していただければと思います。
後輩の皆さんは、一つの分野をひたすら極めるのもよし、色々な分野に手を出してみるのもよしだと思います。その中で大切なのは、今自身が取り組んでいることに熱中できるか、またそれは自身が成し遂げたい人生の目的に沿っているのかを見極めることです。日本は先進国の中でも博士課程への進学者が唯一減少している国です。ぜひキャリアパスの一つとして博士課程への進学も視野に入れて、これからの時代の一翼を共に担っていきましょう。


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