夢の非接触給電、走行中の電気自動車への給電法に取り組む。/富山大学 伊藤 弘昭 准教授

2012年7月掲載

※肩書きは採択時のものです。

国内でも続々と量産型電気自動車が発売されていますが、さらなる普及のために欠かせないのが給電法の進化です。充電時間の長さや給電ステーションの普及など、課題は山積みです。富山大学の伊藤准教授は、走行中の電気自動車に給電するという“夢の充電”方法に取り組んでいます。

電気自動車分野の研究に研究助成はマッチングする

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

研究助成については、パワーアカデミーの発足時に地元電力会社の関係者とパワーアカデミーに関する説明を聞いて、意見交換会を行った際に研究助成制度があることを教えていただきました。これまでは、パルス電力技術を利用したプラズマや荷電粒子ビームの応用について研究を行っていたので、パワーアカデミーの主旨にマッチする分野(主に電力システム等)とは若干異なっていたため貢献するきっかけがありませんでした。

今回、これまでのパルスパワー装置が走行中の電気自動車への給電に利用できるのではと考え、本研究を開始したところでもあり、パワーアカデミーの研究助成の募集目的と一致したため、応募いたしました。この研究の立ち上げを支援いただきたいことと、パワーアカデミーの活動に少しでも貢献したいという思いがありました。

電気自動車への非接触給電法“パルス給電法”の提案

Q.研究内容をお教え下さい。

電気自動車は排気ガスを全く排出しないことや、エネルギー効率が高いことから、環境・省エネルギーの観点から次世代自動車として期待されています。しかし、電気自動車には「1充電当たりの航続距離の短さ」、「充電にかかる時間」、「給電ステーションの設置」など解決しなければならない問題が多々あります。そのために、高速道路走行では1時間毎の充電が必要となり、極めて煩雑となり、電気自動車は遠出には不向きであるとされています。

そこで、高速道路などで走行中の電気自動車への給電が可能となれば、EVの長距離走行に対する課題は解消されると共に、給電ステーションを多数設置する必要もなくなり、電気自動車の普及の促進が期待できます。本研究では、走行中の電気自動車への非接触給電法として、電磁誘導を利用して短時間にエネルギーを転送するパルス給電法を提案し、その実現に向けて実証実験を行っています。図1は、高速道路における給電レーンのイメージと電磁誘導を利用したパルス給電システムの概要を示す。

パルス転送は実証確認済、夢の非接触給電法へ一歩を踏み出す

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

現在までの研究成果

  1. エネルギー転送の主要部分である空隙を有する低結合トランスの動作評価
    走行中の電気自動車へ必要なエネルギーをパルス的に転送するためには数kHz程度の動作周波数が必要であり、今後のインフラ整備などを考慮して、低コストで形状の自由度が高いコア材料である珪素鋼板を使うのが最適です。そのため、高周波でも動作する50µm厚のケイ素鋼板の鉄心を用いてトランスの試作、及び高周波に対する磁気応答性の評価を行っています。さらに、巻線や鉄心の形状を工夫することで漏れ磁束を低減することが実現しました。
  2. 静電エネルギー転送システムを試作・動作評価
    試作したトランスを使用して静電エネルギー転送システムを試作して動作評価を行った結果、1次側(給電装置)から2次側(電気自動車側)へエネルギーがパルス的に転送でき、提案したシステムの動作を検証することができました。また、走行している電気自動車では、トランスとの位置関係は時間的に変化するので、位置ずれに対する回路パラメーターの変化も評価しています。

今後の展開

今後は、実用化に向けて鉄心の最適化、バッテリーにエネルギーを転送するための半導体電力制御回路の設計・動作確認など数多くの課題を解決する必要があります。また、メーカーや地方自治体とともに研究を進めたいとも思っています。実現までには、相当の年月がかかると思いますが、この萌芽研究をきっかけにしていきたいと考えています。

走行中電気自動車への非接触給電方式
図1.走行中電気自動車への非接触給電方式

電気の担い手をつくることは、世界的な課題である

Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

東日本大震災後、原子力の問題に端を発したエネルギー問題、さらには今後のエネルギー政策について国民の関心が高まっています。だからこそこの時期に、電気工学を専攻している学生や一般の方に、電力事業の重要性やパワーアカデミーの活動を広く認知していただけるような啓蒙活動いただけることを期待しています。さらには将来の電気工学を担う人材の確保・育成を目指して若い世代である子供達に向けて学会や大学と協力して広報活動を積極的に行っていただければとも考えています。

また、研究助成に関しては、非常に有益でしたので今後の継続と研究者を目指す学生への支援も期待しています。電気の担い手をつくっていくことは、日本だけでなく世界的な課題です。今回、博士課程の学生が応募できるようになったことは窓口が広くなり大変良かったと思います。パワーアカデミー研究助成の良いところは、“実績”ではなく“従来にない発想”や“次世代研究”などを評価いただける点にあります。ぜひ研究助成はつづけていってほしいと願っております。


電気工学の未来