萌芽研究
電力系統を新たな確率手法で守っていく。
ロバスト制御を取り入れた、画期的な確率モデル。
2016年5月掲載
電力系統は、昔から“確率論”を取り入れ、緊急の課題に役立てています。例えば、気象条件の変化によって太陽光発電の供給力が変動したり、落雷によって停電が発生したりする場合です。京都大学の細江助教は、ご自身の専門分野である自動制御工学におけるロバスト制御理論を取り入れて、より効率的な制御系の設計に貢献する制御手法をご提案されました。
※肩書きは採択時のものです。
電力業界の歴史的な転換に活かせる、新たな制御方法がある
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
私の専門は電気工学の一分野である自動制御工学で、現在はとくに確率系を対象にしたロバスト制御理論(※1)に関する研究を行っています。その研究はまだ現実の問題解決につながる段階には至っていないのですが、いつかは目に見える社会貢献をしたいという希望を持っています。近年、電力業界をとりまく環境は、歴史的な転換点と言っても過言ではないほど大きく変化しています。私は電力系統のように制御の必要性が明らかな大きなシステムに関心がありますが、その制御においても、これまでのやり方が通用しない場面は今後出てくるだろうと想像しています。そのような場に私の研究を活かす余地があるのではないかと漠然と考えていたときに、ある情報交換会でこの研究助成について知り、よい機会だと思い応募しました。
(※1)不確かさに依らず所望の性能を達成する制御器を設計するための理論。
電力系統の確率的な性質を表現する「確率的スイッチング系」を開発
Q.研究内容をお教え下さい。
本研究では、電力系統にとって、人的・経済的コストの面からみて効率的な制御系につながる(確率的な性質を考慮できる)モデルとして、確率的スイッチング系(ダイナミクス(※2)のモードが確率的に切り替わるシステム表現※図1参照)というものを考えました。その系を不確かさによらず(したがってロバストに)制御するための一手法を構築しています。確率的スイッチング系は電力系統の確率的な性質を表現するのに適しており、本研究は電力系統を効率的に制御するという課題を解決するための一助になるものと考えています。
(※2)ダイナミクスとは、制御される対象の「動的特性」のこと。
系統内で需給不均衡が生じた際に、影響を抑える制御器が設計可能
Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。
本研究では、数学的なツールを使って、確率的スイッチング系をロバストに安定化する制御器を設計するための一手法を構築しました。そして、図2で表される電力系統の簡易モデルを用いた数値例により、提案手法の有効性を検証しています。数値例では、系統内で一時的な需給不均衡が生じたときに、その影響をすばやく抑える制御器が設計できることを確認しました。
今後は実応用に向けて、電力系統に関する問題設定を現実に即したものになるようにさらに詰めていくとともに、制御に関するより高度な要求に対応できるよう理論を拡張していきたいと考えています。また、将来的には実機による検証実験につなげたいと考えています。
産業界からのフィードバックをいただけて、良い経験になった
Q. 最後にひとことお願いします。
中間報告や成果報告会を通して研究に対する産業界からのフィードバックをいただけるというのは、他の研究助成にはなかなかない特徴だと思います。私自身、報告会まで行うのは、はじめてで非常に良い経験になりました(もっと言えば、電気学会での発表もはじめてでした)。これからも電気工学という学問を中心にして産学の垣根を越えた議論が行われ、新しい知や成果が生まれるよう、パワーアカデミーのサポートが継続されることを期待します。
電気工学は、私たちが普段当たり前だと思っている“もの”や“こと”を実現するのに欠かせない基礎的な学問であると同時に、未だに多くの解決すべき課題を抱えている魅力的な学問です。電気工学を目指すみなさんが、自信と誇りをもってその学問を学び、未来の当たり前を支える貴重な人材になられることを期待しています。