次世代の太陽電池の実現へ向けて、色素増感太陽電池の性能向上をはかる。/東京大学 小野 亮 准教授

2011年12月掲載

現在、太陽光発電は、シリコン系の太陽電池が90%以上を占めると言われています。しかし、従来の水力・火力・原子力等の発電と比較して発電コストが高いというデメリットがあり、シリコン系に代わる太陽電池が求められています。小野准教授は、「安く大量に」生産できる次世代太陽電池"色素増感太陽電池"の性能向上に取り組みました。

以前からのアイデアを、パワーアカデミー萌芽研究で実現

「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

私は以前から、放電プラズマの基礎研究をやっており、プラズマの応用範囲は大変広く何か新しいものにチャレンジしたいと考えました。そして太陽電池という今注目の技術に応用できないかと考え、色素増感太陽電池という次世代太陽電池の性能を向上させる良いアイデアが浮かびました。

この研究の立ち上げを支援して頂ける研究助成を探していたところ、パワーアカデミーで萌芽研究の募集を行っていることを知りました。自然エネルギーによる高効率発電技術の開発は電気工学分野で喫緊の課題であり、「電気工学分野の将来展開を見据えた魅力的な研究」という本研究助成の募集目的とよくマッチしていたため、応募致しました。

”色素増感太陽電池”のエネルギー変換効率の向上を目指す

ご研究内容をお教え下さい。

安価で高性能な太陽電池の開発は、エネルギー問題を解決する上での重要な課題です。色素増感太陽電池は、現在主流のシリコン系太陽電池よりもエネルギー変換効率は半分程度と低いものの、製造コストが極めて安く、次世代太陽電池の一つとして期待されています。シリコン系の太陽電池と比較して1/10のコストで生産できるとの試算もあります。

日本の太陽光発電ロードマップ(PV2030+)でも、色素増感太陽電池の変換効率開発目標として2025年までにセルレベルで18%が設定されています(※注1)。これに対して、現状での変換効率はまだこの半分程度であり、変換効率を向上させる研究が行われています(※注2)。我々は、この色素増感太陽電池を製造する過程で放電プラズマを照射して、変換効率を向上させる研究を行っています。

※注1/太陽光発電ロードマップ(PV2030+)は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2009年に策定した。

※注2/独立行政法人物質・材料研究機構は、2011年8月25日、色素増感太陽電池で世界最高効率を5年ぶりに更新したと発表した。変換効率は11.4%となる。

放電プラズマ照射により変換効率がアップする

現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

色素増感太陽電池では、酸化チタンとよばれる半導体電極に光を吸収する色素を吸着させます。酸化チタンは、化粧品などでも使われており、安価に簡単に手に入る素材です。

この酸化チタン電極をプラズマ処理すると、色素の吸着が良くなり、酸化チタン電極の電気的特性を向上させるといった効果が期待されます。実際に酸化チタン電極をバリア放電という空気中の放電で数分間表面処理するだけで、色素増感太陽電池の変換効率が1~2割向上する成果を得ています。プラズマ処理で色素の吸着量が増加しているのが原因のようですが、今後はプラズマ処理の効果の原因を詳細に調べ、さらに大きな変換効率向上を目指します。

この手法は空気中で放電を発生させるだけなので技術的に簡単で、消費エネルギーは1m2の面積の太陽電池に対してわずか100Wh以下で、ランニングコストも極めて安いです。将来、色素増感太陽電池の製造工程に、プラズマ処理が標準的に利用されるようなレベルに持っていくのが最終目標です。

一般の人に電気工学に興味をもってもらう活動をしてほしい

今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

世界的に燃料価格が高騰し、資源の枯渇やCO2排出削減も懸念されるなかで、電気をいかに安く、安全に、長期的に安定に発生させるか、電気工学に対する社会的な要請は極めて大きいです。エネルギー資源小国の日本で産業を発展させ、豊かな生活を実現するには、電気工学の発展が不可欠です。このような社会的な要請にこたえるべく、パワーアカデミーには今後も電気工学の発展に寄与して頂くよう期待しております。

また、電気工学の重要性を社会に分かりやすく発信することも、とても重要です。専門家や大学生・大学院生のみならず、一般の人にも電気の世界により興味を持ってもらう活動を行ってほしいと思います。

2011年9月、東京大学工学部にてインタビュー、撮影を行いました。


電気工学の未来