スマートグリッドの雷害対策をさまざまな角度から高度化する。/静岡大学 道下 幸志教授

2014年5月掲載

代表者 静岡大学 道下 幸志 教授
共同研究者 静岡大学 河本 映 准教授、愛知工業大学 箕輪 昌幸 教授、
湘南工科大学 関岡 昇三 教授、岐阜大学 王 道洪 准教授

※肩書きは採択時のものです。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを活用しながら、IT技術により電力需給の効率化・最適化を図るスマートグリッド(次世代送電網)。その実現に向けて取り組みが進められていますが、電力網にとって永遠の課題と言える雷害対策も大きなテーマのひとつです。
静岡大学・道下幸志教授を代表とする共同研究チームは、さまざまな角度からスマートグリッドにおける雷害を検証してその対策を講じました。

特別推進の共同研究は、大規模な研究を行うチャンス

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

静岡大学 道下 幸志教授

専門分野が近く、以前からパワーアカデミーには興味を持っておりました。パワーアカデミーは単に研究助成のみでなく、大学における教育にも理解を示していただいており、その活動にも共感を覚えるとともに大学教員として感謝もしておりました。

特別推進研究は助成金額も大きいため、グループでの応募に適しております。特に地方大学においては、講座制が廃止され、規模の大きい研究は単独での実施が困難になりつつあります。そのため、近隣の大学の先生方と共同研究を展開するチャンスととらえて、当時客員教授であった横山茂先生や、日頃共同研究を実施している株式会社フランクリン・ジャパンの松井倫弘部長にも、研究協力者として加わってもらい応募させていただきました。

スマートグリッドの膨大な情報網を活用して雷害対策へ役立たせる

Q.研究内容をお教え下さい。

雷性状を正確に把握し、スマートグリッドの雷害対策を構築することを目標に、現実にマッチした研究を実施することを心がけています。スマートグリッドには膨大な情報網がありますので、情報網を雷性状の把握に活用し、併せて、発生した過電圧も把握し、これらの情報をスマートグリッド自身の雷害対策に役立てるというのが本研究の新しい着眼点であると思います。

また、スマートグリッドの発展に不可欠な再生可能エネルギー発電設備の雷害対策も本研究の対象としています。これにより雷リスク評価に基づいた効率的な雷害対策が可能になり、成果の社会還元も効率的な雷害対策の構築により行いたいと考えています。

特別推進研究の概要

すでに実用レベルへ。今後は再生可能エネルギーからの雷害対策を

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

静岡大学 道下 幸志教授

落雷位置標定システムの位置標定や波高値推定精度を、実雷観測との比較により明らかにしました。また、これらの改善方法も提案しています。一方で、特に風力発電設備への雷撃では、波高値やエネルギーが極めて大きい雷撃が下向きの雷でも発生することも明らかになりました。このための対策の提言も行っています。雷リスクの評価手法も提案しその結果は、すでに実用的なレベルに達しています。今後は再生可能エネルギーからグリッドに侵入する雷電流の低減方法などについて検討し、より効果的かつ効率的な雷害対策について検討していく予定です。

特別推進研究の感想としては、同じような研究をやっている人間が集まってやれたのが非常に良かったと感じています。モチベーションも保てますし、同じ悩みも共有できました。お互いにチェックできるのでエラーも防げます。代表者として、共同研究の意義や重要性を再認識できました。

特別推進研究に採用されて学生のモチベーションが上がった

Q.最後にひとことお願いします。

今回、特別推進研究に採択いただき、研究室内における学生のモチベーションが顕著に上がりました。例えば大電流波形といった、普段はなかなか見られないものを生で見せられる機会をつくることができました。非常に感謝しております。

若者の理科系離れにはパワーアカデミーの活動もあって歯止めがかかりつつあると思います。特に電気電子分野は人気の低下が顕著であったのですが、就職に強いということもあり全国的に改善しつつあるのではないかと思います。今後も工業立国に向けた研究・教育活動を推進しまた支持していただくことを希望いたします。

最後に電気電子工学を学ぶ上では物理の履修が不可欠でありますが、高校での物理の履修率が高くないという事実があります。物理Ⅱの取得率は全国の高校生で約3割。一方、化学や生物は5割を超えていると言われています。これを改善することが個人的には重要と考えますので、今後ともお力添えを賜りたいと思います。

静岡大学 道下 幸志教授

研究成果(2015年3月追記)

(1)様々な条件に基づいてモデル系統を構成する手順を示した。
(2)夏季及び冬季雷に対する落雷位置標定装置の精度を評価し、改善法を提案した。

図1 JLDNの夏季雷に対する電流推定精度

図1 JLDNの夏季雷に対する電流推定精度

(3)風車の上向き雷発生時のリーダ進展様相は、雷雲の高電界により自身から開始する自発型と他で発生した雷放電により開始される他発型で異なることが判明した。

図2 自発型と他発型雷の上向きリーダの進展速度の比較結果

図2 自発型と他発型雷の上向きリーダの進展速度の比較結果

(4)太陽光発電システムの耐サージ性能を調査し、風力・太陽光発電設備における雷害対策手法について設計指針を示した。

図3 風力発電設備における雷害対策

図3 風力発電設備における雷害対策

(5)避雷器焼損被害を含めた雷被害率評価手法を提案し、実用性を示した。

図4 (a)雷被害率

図4 夏季雷の雷被害率と被害様相の再現に成功 (a)雷被害率

図4 (b)雷被害様相

図4 夏季雷の雷被害率と被害様相の再現に成功 (b)雷被害様相

スマートグリッドでは現状の高圧配電線が主要な電力流通手段になるものと考えられる。密に設置した電磁界センサや精度の良い落雷位置標定装置により得られた雷パラメータと線路構成を入力として、本報告の雷被害率評価手法を用いれば、現実的な雷被害率が評価可能である。この手法を用いればスマートグリッドの効率的な雷害対策が短時間で検討できる。


電気工学の未来