透明かつフレキシブルなエナジーハーベスタを目指して/京都工芸繊維大学 新田 悠汰 さん(博士課程枠)

2021年5月掲載

研究者京都工芸繊維大学 新田 悠汰 さん(博士課程枠)

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

光や熱、振動など環境中に存在するものからエネルギーを採取するエナジーハーベスタ。新田悠汰さんは、そのさらなる応用領域の多様化・拡大に貢献したいと研究に取り組んでいらっしゃいます。

研究生活の支えとして

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

同じ研究室の博士後期課程の先輩が「パワーアカデミー研究助成」に応募していたことで、私も本助成を知りました。申請を検討していた当時はまだ修士課程2回生で、博士後期課程進学後の金銭的な心配をしていた時期でもありました。本助成は、助成額の50%を上限としてリサーチアシスタント費として計上できる点が非常に魅力的です。博士後期課程進学後の生活の支えになると思い、応募しました。
また助成していただける研究費の残り50%については、そのまま学生自身が運用できる資金となります。研究資金を自分で獲得し、運用するという経験が学生のうちからできるのは、研究者を志すうえで大変貴重な機会となると考えたのも、応募の大きな動機の一つでした。

ε型酸化ガリウムを用いたエナジーハーベスタ

Q.研究内容をお教え下さい。

耐久性・長期安定性に優れた曲げられる無機薄膜を単結晶成長させる研究に取り組んでいます。
モノのインターネット(IoT)化が進む社会で活躍している曲げられるデバイスは、主たる構成材料である有機材料が熱や湿気などに対して耐久性が低いため、長期運用は難しいとされています。この問題は無機材料に代替することで解決できますが、材料特性を引き出すために必要な単結晶を得ることが、曲げられる下地の上では難しいとされてきました。そこで私は、下地として曲げられる単結晶基板である雲母に注目し、その上に無機材料を形成することで、この問題の解決を狙いました。
注目したのは、無機材料の中でも単結晶薄膜が透明で圧電特性(外力が加えられると電圧が発生する特性)をもつε型酸化ガリウムです。この材料を雲母の上に単結晶成長させることで、透明かつフレキシブルなエナジーハーベスタ(環境中の振動などを電気エネルギーに変換するデバイス)の実現を目指しました。

実際のデバイスの作製を目指して

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

ε型酸化ガリウムを用いたエナジーハーベスタの実現のためには、曲げられる雲母上でほかの材料と組み合わせた積層構造が必須となります。その中でも最も重要なポイントは、電気が流れる層の役割をする導電膜が下地として必要な点です。さらにこの導電膜の上にε型酸化ガリウムを成長させる際にも、材料特性を引き出すために配向成長が必須です。そこで私は結晶構造などの観点から適切な導電膜材料を選定し、雲母上に配向成長できることを確かめました。また配向成長した導電膜上へのε型酸化ガリウムの配向成長にも成功し、デバイス構造の骨組みとなる積層構造を作製することができました。
ただし以上の成果については、まだ各薄膜材料の成長条件を確立し、結晶構造を評価できた段階です。今後、実際にデバイスを作製し、その動作特性の評価を行うことで、社会で活躍しうる新しいエナジーハーベスタの実現を目指していきます。

学びながら、研究分野を見つけて欲しい

Q.最後にひとことお願いします。

コロナ禍での1年間、学会発表は中止あるいはオンライン発表になり、実施できた検討も限られてしまったものの、研究費と生活費の両方を支えてくれた本助成は大きな励みとなりました。成果報告には参加することができませんでしたが、次回の発表機会があればぜひ報告したいと思います。そして本検討をさらに進めて、よりよい社会を実現しうるデバイスを提案していきます。
私は高専時代に機械制御工学、大学では電気電子工学を学びましたが、研究を始める段階でやっと「半導体材料・物性工学」という分野に出会いました。興味関心というものは勉強や研究を進めるうえで大きな原動力になります。後輩の皆さんも入学した学科に縛られることなく、早い段階から様々な学問に触れ、興味の惹かれる分野を見つけてください。


電気工学の未来