水素社会実現に向けての新たな布石へ。燃料電池の発電状況をセンサで測定する。 小山工業高等専門学校 秋元 祐太朗 助教

2017年5月掲載

水素を主要なエネルギー源として、低炭素社会やエネルギー効率の向上を実現しようと、近年「水素社会」が叫ばれています。水素をエネルギーとして用いる代表製品が、燃料電池。小山高専の秋元助教(採用時は、筑波大学の博士後期課程)は、燃料電池を非破壊で診断するために、センサによって発電状況を測定する方法を開発しました。

※採用時所属:筑波大学大学院 博士後期課程

PA研究助成は、日本で数少ない博士後期課程向けの研究助成

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

小山工業高等専門学校 秋元 祐太朗助教

私は博士後期課程に進学する際、高専や大学教員などアカデミックポストに就くことを目標にしていました。アカデミックポストでは研究費の獲得は、業績を上げることと同様に当たり前に行うこととなっており、その練習にもなると指導教員(岡島敬一准教授)の勧めもあって、さまざまな研究助成に関して調べていました。PA研究助成は、まだまだ日本において少数しか行われていない博士後期課程向けの研究助成事業があり、かつ私の研究テーマである燃料電池に関係の深い電力工学分野ということから応募いたしました。

燃料電池の発電状況を、センサで測定できないか?

Q研究内容をお教え下さい。

地球温暖化や省エネルギー化の高まりから、図1のような水素をエネルギーとして用いる水素社会が考えられています。この中で、燃料電池は自動車の動力源や家庭における発電機など重要な役割を担っており、水素社会の実現には不可欠です。現在までに家庭用コジェネレーションシステムや燃料電池自動車として市販化されており、ますますの普及が期待されています。その中でも、私は燃料電池の発電状況を調べる方法に着目しています。これまで、発電状況を調べるためには燃料電池内部に回路を組み込むことが必要でした。そこで、私たちの研究グループでは非破壊で診断する方法を確立するために、発電によって生じる磁場をセンサによって測定し発電状況を非破壊で診断する方法を開発しています。

図1 水素社会

運転中の不具合判別が可能に、今後はさらなる解析の拡大へ

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

小山工業高等専門学校 秋元 祐太朗助教

今回の研究では、すでに開発した小型磁気センサ(センサプローブ)により取得された固体高分子形燃料電池(※1)の発電によって生じる磁場から電流分布を3次元計算するシミュレーションシステムの構築を行いました。 そして、平常時における磁場分布の偏りや不具合時の実測およびシミュレーションにおける磁場分布が同様の傾向を示すことを確認しました。

まだまだ課題はあるものの、空冷固体高分子形燃料電池においては運転中の不具合判別が可能になったと考えています。今後は、本診断手法をシステムに搭載し燃料電池を制御することを検討しています。また、今回は空冷固体高分子形を対象としましたが、技術的な課題を解決することにより空冷以外や他方式の燃料電池への適応も考えています。

(※1)固体高分子形燃料電池とは小型・軽量化が可能で、主に携帯電話、燃料電池自動車等に応用が期待されている方式の燃料電池。その中で空冷固体高分子形は、主に非常用の電力システム等に用いられている。

博士後期課程の方は、PA研究助成に積極的にチャレンジしてほしい

Q. 最後にひとことお願いします。

将来の電気工学を担う人材を育てるためにも、PA助成金のように、博士後期課程の枠があり、さらにリサーチ・アシスタントとして経済的支援を受けられることは申請者にとってメリットが大きいと考えております。私自身、在学時は奨学金を借りて生活しており、経済的支援により、研究に打ち込むことが出来て非常に助かりました。

博士後期課程に進学の際、懸念していたのは経済面と卒業後の将来でした。助成応募では研究に対するプレゼンを行い、社会に貢献するために研究をどのように進めていくかを考えることができました。また、業績の他に、助成金獲得も評価され、念願の高専教員になれました。研究助成や奨学金を活用することは、経済面の不安を取り除くだけはなく卒業後の将来にとっても重要だと思います。ですから、積極的にチャレンジして欲しいと考えています。

 小山工業高等専門学校 秋元 祐太朗助教

2017年3月15日に開催された研究助成・成果報告会の様子。


電気工学の未来