超高圧真空遮断器の遅発性超高速度放電メカニズムの解明とその抑制に関する研究/琉球大学 金子 英治 教授

2018年5月掲載

代表者 琉球大学  金子 英治 教授
共同研究者 埼玉大学 山納 康 准教授、埼玉大学 稲田 優貴 助教
横浜国立大学 岩渕 大行 助教

※肩書きは採択時のものです。

真空遮断器は、高電圧を瞬時に入り切りするブレーカーで、発変電所、鉄道、工場、ビルなどに設置されおり、これらの環境保全、メンテナンス性、安全性、省電力化に重要な役割を果たす電力機器です。しかし、高電圧下の真空には解明されていない現象が数多くあります。特別推進に採択された金子教授をはじめとする研究チームは、真空遮断器を高い電圧下で用いた場合にごくまれに発生する、非持続性絶縁破壊(NSDD)のメカニズムを、世界に先駆けて解明しました。

ベテランから若手まで、チームを組んで長年の謎を理論的に解明

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

真空遮断器を高電圧で用いると、ごくまれにですが非持続性の絶縁破壊(NSDD)が発生します。このNSDDは普通の絶縁破壊と違って電流遮断後、長時間経過して発生します。加えて、一度発生すると放電現象は超高速度で進展します。そのため近年まで現象を正しく観測し、その観測に基いた理論構築ができずにいました。
しかし現在、世界的に大規模な直流送電システムの構築が検討されており、その保護装置のひとつが超高圧真空遮断器です。ごくまれな現象とはいえ、見過ごせない問題となってきました。
幸いなことに近年、デジタル技術の進展に伴って超高速度、超大容量の観測・記録装置の開発や、解析手法が進展しております。そこで、これらを研究に応用し始めた若手研究者と共同で本課題に取り組むため、応募しました。

超高速度大容量ビデオカメラなど先端観測機器で詳細に観測

Q.研究内容をお教え下さい。

琉球大学 金子 英治 教授

NSDDの原因を明らかにし、遅発性超高速度放電に関する理論構築ができれば、その抑制策を製品に適用することにより、超高圧真空遮断器の信頼性向上を図ることができます。これによって、一般の真空遮断器の品質向上はもちろん、直流送電システムの運用に関して大きな経済的な利益を得ることができます。
研究においては、窓付き真空チェンバ装置で電流遮断を行わせ、電極間空間を超高速度大容量ビデオカメラと、短パルスレーザーを組み合わせたレーザーシャドウ法などにより詳細に観測します。これによって、NSDDの原因の一つと考えられている微小粒子の存在とその振る舞い、絶縁破壊とのかかわりについて明らかにします。

絶縁破壊の原因となる微粒子を、世界に先駆けて発見!

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

電流遮断後に電極間空間に微小粒子が浮遊していること、これらが電極間の電界に加速され電極に衝突し絶縁破壊を引き起こすという現象を鮮明に捉えることに成功しました。これは世界で初めての事例と考えられます。また、これらは電極の形状や材料、電流遮断の条件により異なることも明らかにしました。
さらに、ここで明らかにした微粒子に起因する絶縁破壊は、通常、教科書にも記述されている絶縁破壊現象(クランプ説)で、求められる絶縁破壊条件とは大きく異なっていました。これから詳細の解析を行いますが、場合によっては教科書の書き替えを行うことになるでしょう。今年の夏に、真空放電の国際会議がありますので、この成果を世界に発表してまいります。

■図/微粒子の衝突によるNSDDの発生撮影に成功

NSDD発生時の粒子挙動タイプ

日本の電気工学には、過去からの豊かな技術や経験の蓄積がある

Q.最後にひとことお願いします。

研究対象物が複雑なものになり、高度な測定装置、解析コードなどが必要となっています。特に私たちが取り組んでいる真空装置は、ひとつの研究室だけでは難しくなっています。今後は大学間の連携を密にし、または研究拠点を構築し、さらなる研究の進展を図る必要があると思われます。
また、報道では「技術立国・日本が傾いてきた?」などと伝えられていますが、そんなことはありません。日本の電気工学には、過去からの豊かな技術や経験の蓄積があり、多くの素晴らしい研究者、先生方、先輩の皆様方がいます。ぜひ若い皆さんにも、電気工学の研究、開発に加わっていただきたいと期待しています。

琉球大学 金子 英治 教授

2018年3月14日に開催された研究助成・成果報告会の様子。


電気工学の未来