萌芽研究(チーム型)
地熱発電用2相流配管での超音波センサを用いた取替え余寿命診断システムの開発
2021年5月掲載
研究者 | 宮崎大学 湯地 敏史 教授 |
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※上記肩書きは、インタビュー時のものです
再生可能エネルギーが注目される中で、安定した電力供給が行える地熱発電には大きな期待が寄せられています。湯地敏史教授は、地熱発電のランニングコスト削減につながる研究によってカーボンニュートラルの実現に貢献されています。
きっかけは電気学会全国大会
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
電気学会全国大会の出展ブースで「パワーアカデミー研究助成」のことは何年も前から目にしていました。今回、萌芽研究(チーム型共同研究)の募集があるとのことで、共同研究としてチームを立ち上げ、申請することになりました。
配管取り替え時期の余寿命評価診断手法を確立
Q.研究内容をお教え下さい。
地熱発電のエネルギー供給源は火山帯のマグマだまりの水蒸気であり、これは日本特有の再生可能エネルギー資源でもあります。
地熱発電所の水蒸気を蒸気井から採集する2相流配管(鋼管内部)では、湯の華(以下、スケール)という温泉成分が析出もしくは沈澱したスケールが配管用鋼管に付着(図1)するなどの、設備における課題が発生しています。このスケールの詰まり具合によって地熱発電の発電効率や設備の故障などが影響を受けると、クローズアップされています。そのため定期的な取り替えが必要となり、交換時期の余寿命診断技術の開発は現場からの要望でもありました。
そこで研究グループは、地熱発電所の施設を長期にわたって良好な状態で使用するための継続的な改善として、2相流配管用鋼管の寿命を最大限延長することが必要と考えました。そして設備の予防保全を目的として、正確なスケールの厚さ及び発生箇所の位置評定を行える超音波 (AE)センサを用いた配管取り替え時期の余寿命評価診断手法(図2)を確立することを研究の目的としました。
発電におけるランニングコストの削減
Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて再生可能エネルギーが注目される中、地熱発電は天候・昼夜を問わず安定した発電量で電力供給が行えるエネルギー源です。そのため本研究成果は、今後の地熱発電において必要不可欠な技術だと自負しております。
現在までの研究成果は、地熱発電所の水蒸気を蒸気井から採集する2相流配管を模擬した鋼管内に付着させたスケール厚みの変化に対し、AEセンサで取られた鋼管内のスケール厚みに対する水流の変化から生じる超音波の変化において、顕著な変化(図3)が確認できたことです。
鋼管内のスケール厚みに対するAEセンサで捉えた超音波を、マハラノビス距離と呼ばれる統計的数学手法を用いて確認。2相流配管を模擬した鋼管では、スケール厚み4.0mm以上で鋼管内の閉塞率が上がり、鋼管の取り替え時期に達することが予知可能となりました(図4)。
これによって鋼管内のスケール溜まりを予知することが可能となり、取り替え時期の検討や設備の非破壊検査により、発電におけるランニングコストの削減につながると期待できます。
人材の育成に期待
Q.最後にひとことお願いします。
成果報告を終えましたが、研究課題はまだ多く残されています。そのため今後も継続して研究を進めていく予定です。
電気工学は基幹産業の1つであり、人々の生活に直結した技術です。さらなる発展と多くの電気工学に関連する人材の育成を、パワーアカデミーには期待しています。