特別推進研究
インバータ駆動電動機における高周波過電圧対策と革新的耐電圧特性向上に関する大学間連携研究
2012年7月掲載
代表者 | 東京大学 熊田 亜紀子 准教授 |
---|---|
共同研究者 | 芝浦工業大学 松本 聡 教授、関西大学 米津 大吾 専任講師、九州工業大学 原田 克彦 特任助教 |
※肩書きは採択時のものです。
電力機器の性能向上は、常に電気工学分野の大きなテーマです。近年、電動機をインバータ駆動するようになり、従来にはなかった新しい絶縁の問題が発生しています。東京大学熊田 亜紀子 准教授のグループは、現在の課題を整理し、どのような電圧が発生して、電動機がどのような状況になっているのかを測定するとともに、どのような材料を使ってどう設計していけばよいのか、将来の指針づくりに取り組みました。
他大学の先生と連携して研究するところが面白い
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
パワーアカデミーとは、元々、2008年のパワーアカデミー委託研究に関わらせていただいてからのご縁です。2010年の研究助成は、パワーアカデミーからのメールマガジンで知りました。「コラム」の執筆協力をしたことがあって、パワーアカデミーからのメールは注意して読んでいました。特別推進研究は他大学の先生方と連携して応募するという点で、お互いの得意、不得意分野を補い合って研究を進めることができ、大変面白い助成スタイルだと思いました。
高電圧用途の電動機インバータ駆動を実現するために
Q.研究内容をお教え下さい。
低炭素社会に向けての省エネルギー・環境問題対策および動作性能向上のため、低電圧用途だけではなく、高電圧用途においても電動機をインバータで駆動して用いる傾向が増大しています。しかし、インバータ駆動では、パワーデバイスのオンオフ動作ごとに高周波過電圧が繰り返し発生し、電動機巻線に侵入するという克服すべき最大の技術課題が残されています。この過電圧に対して、耐電圧特性の高い電動機を開発することは,インバータ駆動電動機システムの性能および信頼性の向上にとって喫緊の課題となっています。本研究では、過電圧現象を抜本的に究明し、電動機の耐電圧特性向上への革新的解決策を提示することを目的としています。
過電圧現象の解明進む、今後は絶縁特性の解析へ
Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。
具体的には、モータをインバータ駆動するうえで、- インバータサージの発生メカニズム
- 型巻きコイルを用いたモータにおける絶縁上の問題
- 乱巻きコイルを用いたモータにおける絶縁上の問題
(1)については、過渡電磁界解析により、サージ発生の解析が可能となり、実験によりサージ波形を確認しました。
(2)については、材料の非線形特性を考慮した電界解析が可能とする一方、今まで測定が難しかった電界緩和層における電位分布を実測できるシステムを構築しました。
(3)については、部分放電パルスの伝搬特性の理論解析に取り組んでいます。
今後は、これら(1)~(3)をさらに進めるとともに、耐電圧特性向上に向けて新材料を適用した場合の絶縁特性を実験および数値解析の両面から検証していく予定です。(※その後の研究成果を2013年2月に追記しました。)
高電圧工学は基盤技術として今後の発展が望まれる
Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。
学内外の男女共同参画の委員会などに名前を連ねることも多いのですが、進路に迷っている小学生や中学生に、どう情報発信していくかということがどこの場でも課題となっています。男女を問わず、優秀な人材に来ていただくのに、どうアピールしていけば良いのか、いろいろとお知恵を拝借できないでしょうか。また、特別推進研究については、グループを組んで研究したことが非常に良い勉強になりました。横のつながりも提供していただき感謝しています。
最後に私が専門の、電気工学の中でも高電圧工学の現状についてお伝えします。高電圧の世界は、放電に代表されるような非線形な現象を扱っていますが、研究すればするほど新たな疑問が出てきます。高電圧工学で扱っているのは高電界に材料が晒された時の現象ですが、こうした高電界現象は、電力分野だけでなく電子デバイス分野でも見られます。決して電力機器などの「電圧が高いところ」に閉じている学問ではなく、幅広い可能性を持っています。ですから、この分野を勉強した学生は、どの分野でも活躍できるポテンシャルを持つことができると考えています。近年、高電圧を扱う大学が減っていますが、電力の基盤技術としてその重要性が決して失われたわけではないので、ぜひともご支援をよろしくお願いいたします。
研究成果(2013年2月追記)
Q. 前回インタビューから約9ヶ月程経過しましたが、その後の研究成果について教えてください。
サージ解析に関しては、インバータ駆動したモータで発生するサージ電圧について
- 実機を想定して製作したモデルの測定から確認しました。
- 1.の測定結果とよく一致するサージ電圧波形が得られるFDTD法に基づく解析モデルを構築できました。
図1:FDTD法に基づく解析モデル
型巻きコイル端については、模擬コイルの各種波形印加時における電位分布の測定を行いました。PWM印加時においては、抵抗分布により50Hz基本波成分に応じて電荷が蓄積したところに、印加電圧の高周波成分については、容量分布により決定される電位が重畳することが確認できました。引き続き、各種サンプルを対象に、計測とともに電界・温度連成解析とを平行して進めています。
図2:型巻きコイル端電位分布測定結果
乱巻きコイルに部分放電が発生したときの電磁波伝搬特性については、部分放電パルスをガウス分布波形とし、双極子モーメントが作る電磁界と仮定して理論解析を行いました。また、この電磁波をパッチアンテナで検出する場合の電磁界に対する等価回路を検討し、理論解析を実施しました。これらの結果は、エナメル線のツイストペア線による実験結果と定性的に一致することを確認しました。
図3:ツイストペア線からの電磁波発生・伝搬測定実験
※パワーアカデミーWEBサイトは、内閣告示第二号に基づき、外来語カタカナ用語の末尾音引きは原則として長音符号を用いていますが、本インタビューは、取材先のご要望により、音引きを省略いたしました。(パワーアカデミー事務局)