電力系統を新たな確率手法で守っていく。ロバスト制御を取り入れた、画期的な確率モデル。/琉球大学 大城 諒士さん(博士課程枠)

2017年5月掲載

電力系統の永遠の課題と言える、落雷などの被害によるサージ電圧(※1)。さまざまな研究者によって分析・解析が行われていますが、琉球大学の大城さんは、鉄塔に併架される電力ケーブルに雷電流が侵入したときに発生するサージ電圧に注目しました。いまだこれを模擬するモデルがなく、これが完成できればさらに詳細なサージ解析が可能となります。

※肩書きは採択時のものです。
(※1)落雷などにより、電気回路に瞬間的に発生する衝撃性の高い異常電圧。

研究設備のさらなる充実のために、研究助成に応募

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

琉球大学 大城 諒士さん(博士課程枠)

私の研究はパソコンによる計算が主であり、計算資源の強化によって解析時間が大幅に変わってきます。本研究を加速するために、現状の計算能力を上回るパソコンが必要でありましたが、それには莫大な研究資金を必要とします。パソコンの購入について指導教員である金子英治先生に相談したところ、電力や電気関係の研究助成を行っている機関があるとの助言を頂いたことが、パワーアカデミーを知ったきっかけでした。そして、現状の資源以上のパソコンを購入し、計算性能を向上させ、研究の加速を図りたいと考え、パワーアカデミー研究助成(博士課程枠)に応募いたしました。

より詳細なサージ解析を目指して、新たなサージモデルの提案

Q.研究内容をお教え下さい。

琉球大学 大城 諒士さん(博士課程枠)

電力系統は、常に落雷などによる事故と隣り合わせです。例えば落雷によって発生する過電圧から、電力機器を保護するために、解析などを用いた評価が重要です。代表的な解析としてEMTP(Electro-Magnetic Transients Program)があり、発電機や変圧器その他、多種多様な電力機器を取り扱うことができる解析ソフトです。

架空送電線と変圧器などの電力機器を接続するために、しばしば鉄塔に併架される電力ケーブルが用いられますが、そのケーブルに雷電流が侵入したときに発生するサージ電圧を模擬するモデルがありません。EMTPによってそのケーブルに発生するサージ電圧を模擬することができれば、より詳細なサージ解析が可能になります。本研究では、同ケーブルに発生するEMTPサージ解析モデルを提案することを目的としています。

新たなサージモデルは、今後さらなる高精度化へ

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

EMTPモデルを提案するにあたり、最も良い手法は、実際の鉄塔や電力ケーブルを使った実験結果と、EMTPモデルの解析結果とを比較することで解析精度を確認することです。しかし、それは非常に難しいです。

そこで本研究では電力中央研究所が開発したサージ解析ソフトVSTL rev(Virtual Surge Test Lab. rev)で作成したモデル(図1)による解析結果と、EMTP提案モデルによる解析結果とを比較することで計算精度の確認としています。雷電流のパラメータを変化させた条件における各解析結果はよく一致していることが分かります(図2)。しかしながら、細かい部分でEMTPの結果が一致しているとは言い難く、EMTPモデルにおいてケーブルのパラメータの決定法が確立されていないので、今後はEMTPモデルのさらなる高精度化ならびにパラメータ決定法の提案が課題です。

(図1)大城さんがVSTLで作成したサージ解析モデル

(図2)EMTPモデルと大城さんが作成したVSTLモデルの比較。非常に近いことが分かる。

パワーアカデミーを大いに活用して、電気工学分野を発展させたい

Q. 最後にひとことお願いします。

パワーアカデミーは、私のような博士後期課程の学生へも助成をしていただける数少ない団体であり、非常に感謝しております。私と同様な博士課程学生への助成を維持あるいは拡充することや、研究助成の方を継続することで日本の電気業界を盛り上げる活動、あるいはこれから電気分野を目指す人材が増えていくような活動を期待しております。

電気工学は非常に難しいものではありますが、この分野を学ぶことは、学生の皆様の将来にとって非常にプラスなものであると同時に、多くの活躍の場を提供してくれるものと思います。そして、電気分野へ興味をもったならば、そこから自ら考えて進むこと、時にはこのパワーアカデミーのような電気分野をより発展させていこうとする団体を大いに利用することが、この分野を志望する皆様のビジョンをより明確なものにするものと思います。

琉球大学 大城 諒士さん(博士課程枠)

2017年3月15日に開催された研究助成・成果報告会の様子。


電気工学の未来