電気自動車普及に向けた提案型コイル/岡山大学大学院 自然科学研究科 産業創成工学専攻井上 良太助教
    現:岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域助教

2023年7月掲載

研究者岡山大学 井上 良太 助教

※上記肩書きは、採択時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています。

コイルの低電圧化を可能にする「電圧分散型オープンコイル」を提案。多様なアプリケーションへの実用化を通じ、非接触給電システムの発展に貢献します。

企業との活発な交流に惹かれて

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

2016年度に千葉大学(当時、東北大学)の宮城先生が、パワーアカデミー研究助成の個人型萌芽研究に採択されました。当時、修士課程に在籍していた私は、その研究協力者として参加させていただき、パワーアカデミー研究助成について知りました。その後、私が教員1年目の2020年度に、千葉大学の宮城先生と共同研究が進められる研究助成金について調べていたところ、パワーアカデミー研究助成の萌芽研究に、チーム型共同研究が募集されていることについて知りました。また、2016年度の成果報告会において、研究成果の実用化に向けて、大学と企業の方が活発に議論されていたことを思い出し、大学主体ではなく企業との交流を大切にされているパワーアカデミー研究助成に応募することに決めました。

電圧分散型オープンコイルの可能性

Q.研究内容をお教え下さい。

日本では、2050年までにカーボンニュートラルを実現させるため、電気自動車の普及が求められています。その一方で、電気自動車は蓄電池が大型化し、走行距離が短いという問題を抱えており、様々な場所で充電が容易な大容量非接触給電システムの実現が求められています。しかし、非接触給電システムは、コイルとキャパシタの共振現象を利用するため、大電力伝送時には高電圧が発生し、絶縁破壊を起こす危険性があります。そこで、我々は新たなコイル構造として、図1に示すような「電圧分散型オープンコイル」を提案しています。提案型コイルは、巻線部分を複数に分割することによって、コイルの低電圧化が可能です。そのため、大容量非接触給電システムの実現に繋げられることから、提案型コイルは社会の充電技術の課題を解決し、電気自動車の普及に貢献できる可能性があります。

図1 提案する電圧分散型オープンコイル

大容量非接触給電システムに適用可能

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

これまでに、提案する電圧分散型オープンコイルを等価回路法により電流および電圧分布解析を行い、分割数や線材の並列数が自己共振周波数に与える影響について検討しました。その結果、提案型コイルは、部分的なインダクタンス成分と部分的なキャパシタンス成分を交互に配置する構造とすることによって、最大電位を低減できることを明らかにしました。さらに、鉄道用非接触給電システムをターゲットとして、提案型オープンコイルおよび従来型ショートコイルの比較を行った結果、提案型コイルは、従来型コイルに比べて、コイル内の電位を低減できるため、非接触給電システムの大容量化が可能であることがわかりました。なお、電圧分散型オープンコイルは、鉄道だけでなく、電気自動車やバスなどの大容量非接触給電システムに適用可能です。そのため、産学連携により、電圧分散型オープンコイルを様々なアプリケーションに実用化することで、非接触給電システムの発展に大きく貢献できると考えています。さらに、低炭素社会に向けて化石燃料を使用しない電気機器を広めることができるため、温室効果ガスの排出量の削減に繋がると考えています。

0から1を生み出す萌芽研究の魅力

Q.最後にひとことお願いします。

パワーアカデミーからの1年間の研究助成で、非常に面白い研究成果が得られました。また、企業様とのコミュニケーションシートでは、研究を進める上で的確なアドバイスを頂き、非常に良い機会を与えて頂いたと考えております。今後は、提案したコイルの実用化に向けて、コイルの試作および電力伝送実験を行っていきたいと考えております。なお、パワーアカデミー研究助成の1年間で得られた研究成果の一部をまとめて、国が所管する競争的研究費に応募したところ、採択されることに決まりました。0から1を生み出す萌芽研究としてパワーアカデミー研究助成に関われたことに感謝しております。
電気工学分野には、まだまだわかっていない電磁現象や最適化されていない電気機器が世の中に溢れています。実験や解析により1つ1つ電磁現象を明らかにすることで、従来の電気機器よりも、より低損失でコンパクトな新しい電気機器を提案していきたいと考えています。電気の世界を一緒に探索し、電磁現象の理解をより深めることで、電気工学分野を盛り上げていきましょう!


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