直流送電時代の革新的な絶縁材料設計手法を創成する/東京都市大学 三宅 弘晃 教授

2020年5月掲載

代表研究者 東京都市大学 三宅 弘晃 教授
共同研究者
  • 東京大学 熊田 亜紀子 教授
  • 九州工業大学 小迫 雅裕 准教授
  • 東京大学 佐藤 正寛 助教
  • 東京大学 平野 敏行 助教

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

これまで経験値に基づいて行われてきた絶縁材料開発から脱却し、量子計算科学によって得られた知見に基づく絶縁材料設計手法の創成を目指されています。「萌芽研究」での採用に続く「特別推進研究」でのご応募です。

日本が世界でイニシアチブを取るために

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

東京都市大学 三宅 弘晃 教授

量子計算科学を用いて材料物性を計測しようというのが世界のトレンドであるのですが、残念ながら日本はこの分野で後れを取っています。そこで何とか日本がキャッチアップし、将来的にはイニシアチブを取れることを目指そうと、2013年にパワーアカデミーの「萌芽研究」のチーム型共同研究として「量子化学計算手法の調査および計算の実施、および計算値と実測値との比較検証」を応募し、選定されました。その実験成果を受け、研究を拡充し、世に公開していくためにはより大きなサポートが必要であるということで、今回はパワーアカデミーの「特別研究」に応募することにしました。

直流送電へのシフトに応える絶縁材料設計手法を創成する

Q.研究内容をお教え下さい。

これまで電気物性値は交流ベースで考えられてきましたが、分散電源への移行や効率性を高めようとする必要性から、直流送電へのシフトが進んでいます。しかしそれに対応した絶縁材料をつくろうとしても、意外と知見の足りていないことがわかっています。そこで本研究では、経験値に基づいたこれまでの絶縁材料開発から脱却し、計算科学により得られる知見を活用した革新的な機能性絶縁材料設計手法の創成を目指し、開発のスピードアップに貢献できればと考えています。
具体的にはポリエチレンなどの分子構造が明らかな試料を用いて局所的な移動度やエネルギー準位を算出し、実測値と比較検証を行います。その後、応用材料であるナノフィラー添加材料を用いて同様に評価を実施します。
また、計算上と実材料との分子数や結晶状態の差を、数千から数万分子程度の大規模分子系の計算を実施し数分子モデルの結果と比較することで明らかにし、本手法の妥当性を検証していくことで、小規模計算の材料設計への適用についても検証を進めました。

中規模計算において成果を上げ、次は大規模計算に挑む

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

東京都市大学 三宅 弘晃 教授

数値計算による物性値の推定値と、計測値との間において、よい一致が見られております。
小規模計算において、ある一定程度の物性値推定が可能である状況にあると言えます。大規模計算との小規模計算の間の中間的状況であるC100H202の計算を実施した結果、これまでの小規模計算の値と比較し、同程度の値が得られています。さらに、C1000H2002の大規模計算にも、現在進行形ですが、挑戦中です。
現段階で、移動度やエネルギーギャップなどの分子内の評価においては十分に小規模計算で実現が可能である状況がわりましたが、異種材料界面と材料の相互作用を含む現象に関しては大きな分子構造による計算の必要があると考えます。今後は、大規模マトリックスの計算結果を追求し、界面相互作用を追うことで、電気物性評価を実現し、新規材料開発等に応用していくことが期待されます。

電気工学の裾野を広げるサポートに期待したい

Q.最後にひとことお願いします。

東京都市大学 三宅 弘晃 教授

電気工学に特化してサポートしてくれるファンドは少なく、とてもありがたく考えております。研究活を活性化させると同時に電気分野の裾野を広げるべく、ぜひ引き続き研究サポートの維持をお願いしたいと思います。 「萌芽研究」にチーム型共同研究や博士課程学生枠ができたのは大変素晴らしいことだと感じていますが、今後はさらに一歩進んで、中規模の予算体系のファンドをつくるなど、「萌芽研究」と「特別推進研究」の間をつなぐようなファンドの創設もお考えいただければと思います。また、3年や5年という長期的なサポートもいただけると、大変ありがたく思います。
電気工学は社会基盤を支えるとても大事な研究領域です。必要不可欠な割には、地味に見えがちかもしれません。それでもパワーアカデミーのように我々の研究に光を当て、サポートをしてくださる方々がいて、我々の研究成果に期待を寄せてくださる方々も多くいらっしゃいます。その期待に応えるべく、皆さん自身の研究を一歩一歩進めていきましょう。一方で、今は電気だけを学んでいれば大丈夫という時代ではありません。あまり限定せず、様々な領域にチャレンジすることで、活躍の幅を広げてください。


電気工学の未来