インバータの改良によって高品質の電気を供給/東京工業大学 佐野 憲一朗 助教

2021年5月掲載

研究者東京工業大学 佐野 憲一朗 助教

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

身近な存在のインバータ。佐野憲一朗助教は、電力系統の品質向上にインバータを役立てたいと、新たな高圧進相コンデンサ設備の開発に取り組まれました。今後は企業と一緒に実用化に向けた技術開発を目指していらっしゃいます。

民間勤務時代からパワーアカデミーに関心

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

私が「パワーアカデミー研究助成」に応募したのは、大学教員になった最初の年でした。 当時の私は新たな研究テーマの構想を練って机上検討を進めていました。課題を解決できる見通しが立ち、次の段階として実験装置を構築してより詳しく検証したいと考えていた時でした。大学では新たな研究設備を導入して研究を進めるには、研究助成に応募して研究費を得る必要があります。そこで「パワーアカデミー研究助成」への応募を決めました。
大学教員になる前、私は民間の研究機関に勤めており、当時は産業界側の立場でパワーアカデミー主催の産学交流会に参加していました。その時からパワーアカデミーの活動を見聞きしていたことも、この研究助成への応募の後押しとなりました。

障害に強く、電気の品質を高めるインバータ

Q.研究内容をお教え下さい。

私は、電気の流れを制御したりその性質を変換したりする「インバータ」という装置について研究しています。インバータは家電製品、鉄道、電気自動車など私たちの身の回りで使われています。また太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる発電設備を電力系統につなぐ際にも、インバータは使われます。
ところがインバータを電力系統につなげると、時に電力系統に障害を発生させることがあります。私はこれまで、こうした障害を避ける方法を研究してきました。現在は電力系統の品質向上にインバータを役立てたいと考えています。
今回は、電力系統の電圧を支えるために使われる進相コンデンサに小容量のインバータを付加した装置について研究しました。インバータの制御を工夫することにより、進相コンデンサを障害に強くしつつ、さらに電気の品質を低下させる要因である高調波を取り除く機能も与えました。
進相コンデンサを保有する人にとっては設備の障害を避けられるという利点があり、電力系統を利用する多くの人にとっても高品質の電気を得られるという利点があります。双方にメリットがある装置であると考えています。

基礎研究から実用化への橋渡しに感謝

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

これまで実設備を1/30にスケールダウンした実験装置を製作し、動作検証を行いました。スケールは小さいですが、実設備と同じように制御を行い、目的としていた高調波を取り除く機能が働くことを確認しています。
また実際の電力系統では様々な事象が発生しますが、そうした場合にも問題なく機器が動作できるよう、改良と動作試験を行ってきました。
今後は学会等を通じてこの技術を広く研究者・技術者の方に伝えていき、興味を持ってくれた企業と一緒に実用化に向けた技術開発を行いたいと思っています。パワーアカデミーは研究費の助成に留まらず、産業界との接点も提供してくれます。基礎研究から実用化への橋渡しとなる貴重な機会で、ありがたく感じています。

将来を担う人材の育成も

Q.最後にひとことお願いします。

この研究成果を得る過程では、一緒に実験して議論した大学院生の協力が不可欠でした。その大学院生はこれから社会に出て電気工学の専門家として活躍してくれるでしょう。教員の私は研究を行うとともに、研究を通じて将来を担う人材の教育にも注力したいと思っています。
これから進路を決める高校生の方には、電気工学が皆さんの身近なところで社会の基盤をなしていることを知って欲しいと思います。特に脱炭素社会の実現に向けてエネルギーの有効利用を進めるために、電気工学の重要性は一層高まるでしょうし、皆さんの世代でやるべきことはまだ多くあります。電気工学の先人たちが人類の夢を実現してきたように、電気工学を学ぶ学生の方には次の未来の実現に向けて挑戦して欲しいと思います。


電気工学の未来