ポストリチウムイオン電池の材料開発研究/東北大学多元物質科学研究所小林 弘明助教
    現:北海道大学大学院理学研究院化学部門准教授

2023年7月掲載

研究者東北大学 小林 弘明 助教

※上記肩書きは、採択時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています。

カルシウムを用いた電池電極材料の開発に向けて、トンネル型二酸化マンガン正極の開発に成功。次世代電池の開発に向けた研究に弾みをつけたいと考えています。

産学連携の可能性に魅力を感じる

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

採択されたときに所属していた東北大学では、若手教員の研究費獲得をエンカレッジする制度が充実しています。教員が自ら研究助成案件を調べるのは中々大変ですが、東北大では官公庁含めた全国の研究助成公募情報を調査し、その一覧を教員向けに見やすく共有いただいております。さらに、適した公募があれば若手教員側に応募を勧めていただくこともあります。今回、大学の方から応募を勧めて頂いたことが最初のきっかけとなりました。応募を勧めてもらえると応募に対する意識も高くなりますので、大学で資金獲得をエンカレッジするシステムが構築されていることが大きかったです。
自分の専門分野は電気化学のなかのバッテリー分野ですが、サイエンティフィックな研究だけではなく、研究成果を大きなモジュールとして組み込むようなエンジニアリング要素も非常に重要と実感しています。今回の応募内容は比較的基礎的内容ではありましたが、パワーアカデミーが掲げる産学連携はフューチャービジョンとして非常に面白いと感じました。

次世代電池に利用可能な電極設計の指針構築

Q.研究内容をお教え下さい。

現行のリチウムイオン電池の性能を超えるポストリチウムイオン電池の材料開発研究をしています。2019年にノーベル化学賞を受賞したリチウムイオン電池はポータブル電子機器などの電源として広く用いられていますが、使用するレアメタルの資源的制約、寿命やパワー、安全性の向上などの需要が益々高まっており、全固体電池やリチウム空気電池など、用途に応じた様々なポストリチウムイオン電池が現在研究されています。しかし、ポストリチウムイオン電池として研究開発が進められている材料はそのほとんどが現行リチウムイオン電池と比べて電子・イオン伝導性に乏しいなどの課題があり、私はさまざまなポストリチウムイオン電池に利用可能な電極設計の指針構築を目指した研究を進めています。特に今回の研究では、リチウムの代わりに資源豊富なカルシウムを用いた電池電極材料の開発を行いました。リチウムの代わりにナトリウム、マグネシウム、亜鉛など他の金属を用いた電池の開発は世界的に進められていますが、標準電極電位が低いカルシウムはリチウムイオン電池に匹敵する高電圧な電池を設計できることが期待されます。
今回の研究では、カルシウムイオンが脱挿入可能なトンネル型二酸化マンガン正極の開発に成功しました。2価のイオンがキャリアとなる多価イオン電池は、電極内部のイオン移動が遅く、容量や出力特性に乏しい課題を有しています。今回、二酸化マンガンのナノ粒子の合成に成功し、電極内部のイオン移動そのものを抑えることで高容量化に成功しました。

10年後20年後の実用化を視野に

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

今はたまたまアプリケーションとして電池の正極材にフォーカスしていますが、学部生の時は触媒研究、修士学生の時は磁性材料の研究と、これまで研究室も変えながら材料そのものにアプローチする「モノづくり」に興味をもって研究してきており、材料の幅広い応用先についても考えて研究しています。実は、今回の成果はまったく同じ材料で触媒にも応用できることを見出しています。業界だけでみると狭い範囲にフォーカスしがちですが、モノとしてみると同じ材料でも別の展開ができます。広くみることがとても大事で、色々な応用先を考えることがとても面白いと感じながら研究を進めているところです。
特に、今すぐ使える電池というより、実用は10年20年先にはなるけれども現行リチウムイオン電池性能を一山超えるような次世代電池を作りたいと考えています。今はまだまだ一つ一つの要素で、実用化にはまだ遠いですが、解決すべき課題はすでに明確で、「これをうまく使えることが出来れば現行のリチウムイオン電池と戦える」ぐらいの材料を作れてきていると自負しています。
これまでの研究成果の一部はすでに企業と連携して進めていますが、発信を継続しないと企業に情報が伝わりません。今回の研究助成の成果も積極的に外部発表して企業に知ってもらい、さらなる共同研究や材料開発につなげていきたいと考えています。その際、単に「次世代」とすると応用から遠いと捉えられ企業側に壁が生じてしまいます。壁を突破するには発信が重要で、実用化された際には知財の観点で優位性が生じる、他企業が手を付けていない材料でブレイクスルーできる、などと訴求していきたいと考えています。
研究者として新しいものを作ることは大事ですが、それだけで終わるのではなく、どこまで使われているか己の目で見続け、アプリケーションまで関与したいと思っています。

視点の多様さが研究分野のステータス

Q.最後にひとことお願いします。

電気化学を専門とする自分にとって電気工学が主となる成果報告会は分野外と感じていました。しかし、研究成果を高く評価いただけたことから、電気化学分野は電気工学からみても関心が高い分野であり、両分野がともに重要であることを実感できました。
電気工学分野や電気化学分野は適用先が多岐にわたっており、いずれもおろそかにしてはいけません。最近はAIなど情報科学分野が注目されていますが、両分野は言われるほど古くはなく、学術的な基礎視点に加え企業からの産業的視点もあり、いろいろな視点で研究に接することができますので、研究者として成長できると思います。好みがあるので是非にとは言いませんが、面白い研究分野として捉えて、気軽に身を投じてもらい、入ってみて色々もまれて新しい発見をしてもらいたいです。分野が広いということは多くの人やテーマとつながって、自分の視野が広がります。このご時世、視野が広いというのはひとつのステータスですので、そういう意味ではとても良い分野と思います。


電気工学の未来