高速スイッチングにおける問題を突き止めて、次世代半導体デバイスを確立する。/島根大学 梅上 大勝さん(博士課程枠)

2015年5月掲載

半導体デバイスを使用して電力を効率よく変換・制御する「パワーエレクトロニクス」。電力、産業、輸送、家庭など様々な分野における電気機器の省エネルギー化や高性能化を実現するキーテクノロジーです。電力のスイッチとなるのは半導体デバイスですが、高速スイッチングした際に“誤点弧”という問題が生じます。島根大学の山本研究室に所属する梅上さんは、この誤点弧という現象について解明を試みました。

※所属はインタビュー時(2015年3月)のものです。

博士課程の学生が、自分自身でコントロールできる研究費

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

島根大学 梅上 大勝さん(博士課程枠)

研究室のメンバーが学生インタビューを受けていたことからパワーアカデミーのことは知っていましたが、博士、学生向けの萌芽研究助成があることを知ったのは博士課程に進学した際です。指導教官の山本先生に応募してみたらどうかと提案されたのがきっかけです。 自分自身でコントロールできる研究費は、研究を進める上で便利な物品の購入がしやすくなり、また自分が発表しない学会や講演会の公聴に行くこともできるため非常に有用であると思いました。さらに、学会とは異なる形で自身の研究成果をアウトプットする良い機会であるとも考え応募することにしました。

半導体デバイスの進化は、電力変換回路の進化につながる

Q.研究内容をお教え下さい。

島根大学 梅上 大勝さん(博士課程枠)

次世代の半導体材料である、炭化シリコンや窒化ガリウムを使用した「半導体デバイス」は高速に動作することから、電力変換回路に適用することで小型軽量化や高効率化を実現できます。このことは、電気自動車であれば車内の居住スペースが広がり、航続距離が伸びることにつながり、また、太陽光発電であればパワーコンディショナーを小さくなることで設置スペースをとらなくなり、使える電気量が増えることにつながります。

しかし、当然ながら次世代半導体デバイスを上手く使いこなせなければいけません。これらの恩恵を得るためには半導体デバイスを高速に動作させる必要がありますが、その際に自身で作り出すノイズによって誤動作してしまう「誤点弧」という現象が生じます。この問題に対して、回路の状態を解析することにより誤点弧が生じるのかどうかを予め判別できるようにすることを目的として取り組んでいます。

高速スイッチングが誤動作するノイズの原因を解析する

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

シリコンのMOSFETと窒化ガリウムの半導体デバイスについて解析と実験と進めています。誤点弧は回路上の半導体デバイス回りの寄生パラメータ、特にインダクタンス成分の影響がどの程度大きいかによって2種類の発生メカニズムに分かれます。発生のメカニズムの違いによって誤点弧の抑制方法が異なるので、この違いを見極めて適した手法を取る必要があることまでは分かってきました。

しかし、現在の解析はかなり簡易化した回路モデルを用いているため特定の部分のみの解析にとどまっていることや実験結果との誤差が大きい状態です。ですので、全体の振舞いについての解析と解析値と実験値の誤差を小さくするために簡単化する割合を減らし過渡状態における解析を進めています。また、炭化シリコンの半導体デバイスも含めて今後も研究を行っていく予定です。

誤点弧による問題例

支援制度が少ない博士課程にとって、研究助成は大変ありがたい

Q.最後にひとことお願いします。

日本の博士学生の境遇というのは他の国々と比べると経済的な支援制度が少なくあまり良いとは言えない状況にあります。そんな中で、パワーアカデミーの博士学生向けの萌芽研究助成は研究費としての助成だけでなく学生への経済的な支援に関しても盛り込まれており大変ありがたく思っています。こういったご支援は自身の研究を推し進めていく強い動機づけになるばかりか生活面においても心強く感じられるため、今後、進学してくる博士学生たちのためにも現状の制度を維持し続けていただきたいと考えています。さらに願わくは拡充してくださることを期待しています。

また最近設立された、パワーエレクトロニクスの研究に従事している博士学生たちが運営しているPPEJ(Ph.D. candidates of Power Electronics in Japan)という組織があります。学生のみの組織であるため運営に必要な資金の調達が難しく、また、独自性を有したまま運営を進めていくためにも助成金のような形での支援策が必要と考えます。電気工学分野の発展を目指す点で目的が共通していると思いますので、もし可能であればこういった学生主体の組織のためにも支援制度の設立をご検討していただけると幸いです。

島根大学 梅上 大勝さん(博士課程枠)

2015年3月24日に開催された研究助成・成果報告会の様子。


電気工学の未来